NAO RICE(ナオ・ライス)では、農薬を減らし環境に配慮したこだわりの米を生産・販売している=愛知県半田市で2023年7月20日午後0時54分、町田結子撮影

 夏から続くコメの品薄と高騰。この「令和の米騒動」に、あるインフルエンサーが秘策を打ち出した。全国の農家、消費者からは感謝の声が続々届く。SNS時代の一手は日本の農業を救うのか。

収穫を終え、発送を控えた新米とともに「お米はあるところにはあります!」と訴える近藤匠さん=「農家のKT」のインスタグラムから

 SNSの総フォロワー数が10万超のインフルエンサー、「農家のKT」こと近藤匠(たくみ)さん(32)は愛知県半田市の稲作農家。農薬を減らし環境に配慮したこだわりの米を生産販売しながら、インスタグラムなどのショート動画で農業の魅力を日々発信している。

秘策のツールは「インスタ」

 近藤さんが異変を強く感じたのは8月上旬。小売店に米がなくなり、消費者がパニックになっていた。

 「農家は毎年、市場に流されることなく、全力で田畑に向かい、質の高い品を提供している。米はあるところにはある」。新米の収穫はもう間近。今必要なのは、消費者が農家とつながることだと考えた。

令和の米騒動に「解決策」を提案する近藤匠さん=「農家のKT」のインスタグラムより

 そこで自身のインスタグラムをツールに、稲作農家と消費者のマッチングを始めた。8月22日の投稿で「お米が欲しい消費者を、地元の農家とつないでいこうと考えています。この動画を掲示板みたいに使ってください」と呼びかけた。

 すると動画のコメント欄には、「北海道長沼町で特別栽培米を作っています」「熊本市の農家です。ご連絡お待ちしています」「ぜひ購入したいです」「お米欲しいです」など、生産者と消費者の双方から書き込みが相次いだ。

 マッチングは次々に成立。中には「ぜひ田んぼにもいらしてください」などと今後のリアルな交流をうかがわせる内容もあった。「KTさん、ステキな企画をありがとう」「同じ米農家として元気をもらっています」といった感謝の言葉も目立った。

買いだめしたあなたへ 「残念でした」

 一方、買いだめに走る消費者には警鐘を鳴らした。「お米は生鮮食品だから、保存方法が悪いと虫やカビが生える。そんなことも知らないまま、周りの情報に踊らされ、食べきれない量を買ってしまったあなた、残念でした」。「実はお米の買い占めは危険」と題して正しい購入と消費に理解を呼びかけた動画は、100万回近く再生された。

 騒動の影響は尾を引き、新米が出回り始めても価格は高騰している。もし消費者の米離れが加速すれば米価は暴落し、苦しくなった農家は廃業せざるを得ない。近藤さんは「廃業が進んでしまえば、主食である穀物を輸入に頼ることになりかねない。食糧は国の安全保障にも関わってくる問題。このまま放置していいのか」と懸念する。

ウィンウィンの関係

 消費者と生産者のマッチングを提案した近藤さんは、これを機に生まれた農家とのつながりを大事にしてほしいと話す。「農家とつながるということは、消費者にとっては『食の確保』、作り手にとっては『経営の安定化』というメリットがある。このウィンウィンの関係が、僕の目指す『未来に続く農業』なんです」

 令和の米騒動が収束しても「喉元過ぎれば――」で終わらせず、農業の未来を考えるきっかけにしてもらえれば。それがインフルエンサー「農家のKT」の願いだ。【町田結子】

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