熊本・芦北町に町の食材を使ったクラフトビールの醸造所が2024年に誕生した。運営する地元出身の3兄弟には、地域活性化への思いがあった。

前田3兄弟が手掛けるクラフトビール

芦北町に2024年7月に完成したのは、クラフトビールの醸造所『Brewing100』(ブリューイングひゃく)。クラフトビール造りを手掛けるのは地元出身の3兄弟だ。

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長男の前田一徳さんが総合プロデュースを行い、次男の一閣さんが醸造を、三男の一暢さんが設備を担当している。

商品は全6種類。ラベルには3兄弟のイラストがデザインされている。芦北町の魅力を伝えようと地元の梶原紅茶やレモン、御立岬の塩などを使っている。3人は、この場所でのビール提供を目指しながら、現在は醸造と販売を行っている。

この日は同級生の家族が店を訪れていて、「兄が帰省してきて、そのお土産を買いに来たという感じで私もついて来ました。地元のお茶店(お茶のカジハラ)とのビールが気になっています。地元を盛り上げてくれて非常にありがたいなと思っています」と話す。

きっかけは東日本大震災と2020年7月豪雨

芦北町で生まれ育った3人は、進学や就職で一度は地元を離れたが、2011年の東日本大震災が大きなきっかけになり、芦北町に帰ってきた。

長男の一徳さんは「災害とか緊急時のことを経験したときに、一番思い浮かんだのが家族だったんですよ」と話し、「地元の人たちやこういう景色もパッと思い浮かんで、自分が将来、人生をかけてやるものは会社ではなくて、もっと地元に貢献できるような何かが必要なんじゃないかなというのがあって、そのタイミングで何かしようと思って帰ってきました」と述べた。

ただ、戻ってきた地元は自然が豊かな一方で、人口が減少。長男の一徳さんは「町づくりを支えたい」と町内で保育園や子ども園の運営を始めた。

3人で「何か名産を作りたい」と漠然と思い描いていた時、2020年7月豪雨が発生し、祖父が所有していたかつての宿舎の1階が浸水。この宿舎を改装し、人が集まるような場所をつくりたいとクラフトビール造りを始めた。

遊び心あふれた黒ビール『土偶セゾン』

醸造を担当するのは次男の一閣さん。この日は新商品の瓶詰めを手作業で行っていた。津奈木町の亀萬酒造で10年ほど働いた経験があり、水分調整は日本酒の造り方を参考にしているそうで、味わいには、どんな違いが生まれるのだろうか。

一閣さんは「ボディーが高くなるのは、そういうことなんじゃないかな。糖分も、甘みもあって重みがあるというか。でもまだまだ勉強中なので、もっとブラッシュアップしていきたいですね」と話す。

今は自家製の米を使っている商品もあり、今後も地元企業と連携し、自家製の果実などを使うクラフトビールを増やしていきたいということだ。

チョコレートモルトという高温焙煎された麦芽を使用している『土偶セゾン』を試飲すると、見た目が黒くて重く、ずっしりくるのかと思いきや、後味はすっきり。フワッと華やかな香りが残る味だ。

一閣さんは「土偶をイメージしたので色だけ黒くして、ダークセゾンというビールのスタイルはあるんですけど、日本じゃなかなか造っているところは少ないんじゃないかな。本当に遊び心で造っているので」と『土偶セゾン』への思いを語り、黒ビールとは思えない爽やかさを演出する一閣さんの遊び心が反映された一杯だ。

芦北の景色をイメージした宿泊施設も

将来的には醸造所の隣にバーを開きたいとしていて、現在、クラフトビールが飲めるのは三男の一暢さんが運営する熊本市中央区九品寺のバー『Voyager』だ。

今後、このバーとコラボした新たなクラフトビールを造るために、クラウドファンディングも始める予定だということだ。

また、醸造所の2階には宿泊できる施設を整備していて、「人が町の外からも集まるような場所をつくりたい」という。

一暢さんは「芦北の景色をイメージして内装を変えているんですけど、こちらの部屋は芦北の夕日をイメージしてオレンジだったり。芦北に外から人が来ていただいて芦北を体験していただいて、また戻ってきてもらえるような、そんな場所にしていけたらと思います」と話す。

長男の一徳さんは「ひと言で言うと『輪』。つながりの輪とか集まる場とかそういう場所であってほしいなと。余白を使う時間に私たちのビールを飲んでほしい。そういう将来をこの町で実現できればいいのかなと思います」と将来について語ってくれた。

地元芦北町の地域活性化のために。3兄弟の遊び心あふれるクラフトビール造りは続く。

(テレビ熊本)

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