モヤシ=福岡市中央区で2024年9月27日午前11時35分、矢頭智剛撮影

 給食に使用するモヤシの調達が困難となったため、使用食材を変更します――。福岡市教委が26日、市立小学校の児童の保護者宛てにこんな文書を出した。理由はモヤシを納入していた市内業者の突然の廃業にあった。取材を進めると、市教委の困惑とともに、昨今の物価高の中で「家計の味方」として重宝されてきたモヤシを巡る業界の実情が見えてきた。

「廃業します」2日前の連絡

 文書は「10月分の給食献立について(一部変更)」と題し、モヤシを他の食材に置き換えることが記されていた。例えば、甘酢あえは「モヤシを削除し、ニンジンを追加、はるさめを増量」、中華五目炒めは「モヤシを削除し、玉ねぎを追加、ニンジン、キャベツを増量」――といった具合だ。保護者の間では「なぜモヤシが……」と疑問が広がった。

 きっかけは市内で唯一、学校給食にモヤシを納入している業者からの突然の連絡だ。市教委によると、18日に「廃業する」と知らせが入った。廃業は2日後の20日。10月の献立は既に決まっており、市教委は食材の変更で対応せざるを得なかった。

 今後は市外の業者からの仕入れを検討しているが、市立小中・特別支援学校の給食は1日約12万食に上り、必要量を確保できるめどは立っていない。「モヤシは栄養価が高く、安価で給食には欠かせない食材。加えて給食の食材は安定供給が何より大事なのに」。市教委の担当者は戸惑いを隠さない。

 関係者によると、この業者は親族らで営む小さな会社で、長年モヤシの生産や卸を担っていたが、資金繰りに窮して経営が悪化した末に廃業に追い込まれたとみられる。

生産業者 約30年で2割に

モヤシの小売平均価格と原料の中国産緑豆の平均価格の推移

 モヤシを巡っては、生産業者の廃業が後を絶たない。全国の生産者で作る「工業組合もやし生産者協会」(東京)によると、1995年に全国で550社以上あったモヤシ生産者は現在、2割以下の95社に減った。多くが経営難による廃業という。モヤシの原料として中国から輸入する緑豆の価格が20年前から4倍以上に高騰している一方、スーパーでの安売り競争が激化して利益が上がらないことが背景にあるという。

 生産者協会の林正二理事長(71)は「デフレ経済の中でモヤシは安売りの目玉商品にされてきた」と話す。1袋(200グラム)の小売価格が1桁円の時期もあり、協会は文書を出すなど繰り返し窮状を訴えてきた。2024年7月時点での小売価格は地域によって20~60円台まで上がってはいるが、原材料費や光熱費の上昇が続く中、利益が上がりにくい構造は変わらないという。

 物価高の中、モヤシの安さは消費者に魅力的だが、ある青果業関係者はこう嘆いた。「年間を通じて安定供給できるモヤシは客にとっては安くて当たり前で単価が100円以上では買ってもらえない。スーパーが客寄せのため利用した結果、生産者にしわ寄せが行き、さらには学校給食にまで迷惑をかけてしまった」【竹林静、山口響】

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