楽器寄付ふるさと納税で寄贈されたフルートを演奏する生徒たち=愛知県豊橋市で
使わなくなり、家庭などで眠っている楽器の再活用が広がっている。ふるさと納税の仕組みを使って楽器不足に悩む教育現場に届ける取り組みや、古くなった楽器から作ったアップサイクル製品も登場している。楽器の「第二の人生」を巡る動きを取材した。 (熊崎未奈) 全国の自治体で広まっているのが「楽器寄付ふるさと納税」だ。不用になった楽器をインターネットを通じて募り、自治体経由で学校などに寄付する。寄付者は楽器の査定額に応じて、税金が控除される。 三重県いなべ市が、2018年に楽器の査定業者や地域活性化事業を手がける企業と連携して始めた。今年3月までに累計27自治体が導入し、寄付は計863件、累計査定額は約2100万円を超えた。 愛知県豊橋市は20年度から寄付を受け付け、昨年度末までにトランペットやフルート、バイオリンなど計93件の寄付を受けた。楽器は中学校の吹奏楽部やオーケストラ部などで活用している。市教育委員会の担当者は「寄付してもらった楽器を使うことで、生徒が人とのつながりや感謝の気持ちを学ぶきっかけになり、教育的にもいい効果がある」と話す。 楽器査定を担当する業者マーケットエンタープライズ(東京)が20年に行った調査によると、国公立中学校の吹奏楽部では3割の生徒が自費で楽器を購入。新品の場合、負担は平均30万円ほどとなり、経済的な負担は軽くない。一方、学校でも楽器は慢性的に不足している。豊橋市教委の担当者は「楽器は高価なものが多く、古くなったり、足りなかったりしても各校の予算で確保するのがなかなか難しい」と明かす。 楽器寄付ふるさと納税の運営を担当する地域活性化事業会社のパシュート(同)の長坂暖さんは「経済的な理由などで楽器や音楽に触れられない子どもがいるのは教育的にも問題。愛用した楽器を次世代に渡していくこの取り組みを広めていきたい」と力を込める。古いトランペットを再利用して作った照明器具=島村楽器提供
使わなくなったサックスを生かしたテーブル=島村楽器提供
使わなくなった楽器を新たな商品に生まれ変わらせる事業も始まっている。楽器小売店の島村楽器(同)は、21年12月から「楽器アップサイクルプロジェクト」として、廃棄される予定の楽器から作ったインテリア製品の販売を始めた。 現在販売するのは、トランペットやフルートでできた照明器具やサックスのテーブル、バイオリンを使った時計など14種類。元の楽器の形を生かしたデザインが特徴だ。広報課の古関薫子さんは「生活空間に置くことで、より楽器を身近に楽しんでもらえたら」と狙いを話す。同社の修理工房などで回収した楽器を提携する団体に送り、製作している。これまでに約200点の楽器が生まれ変わった。 売り上げから諸経費を除いた利益の全額を寄付金や楽器購入資金にあて、楽器演奏の機会が少ない国内外の子どもたちに贈る予定という。古関さんは「捨てる予定の楽器を有効活用して地球環境に配慮するだけでなく、音楽を楽しむ人を一人でも多くするために、楽器に携わる企業として貢献していきたい」と話す。 アップサイクル製品は、同社のオンラインストアや首都圏の一部店舗で販売している。
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