解体工事で取り壊される実家を見つめる成瀬好栄さん=愛知県岡崎市で
実家は築63年の木造2階建てで、成瀬さんが家を出た26年前から倉庫として使われていた。昨年10月に父親が亡くなり相続。その後の耐震診断で、幅2メートルほどの道を挟んで立つ隣家の方向へ、建物が約3度傾いていると指摘を受けていた。 家の中の整理を終え、7~8月に業者が家屋を解体。実家には思い出が詰まっていたが、「なくなるのは寂しいが、本当にすっきりした気持ち」と話す。 空き家になると、建物に人の手が入りにくくなる場合が多い。持ち主が遠方に住んでいればなおさら。窓などを閉めきった家はどうしても傷む。NPO法人の空家・空地管理センター(埼玉県所沢市)副代表理事の伊藤雅一さん(56)は「空き家にはリスクがあるが、それをあまり感じていない所有者が多い」と指摘する。 地震のほか、台風などでは風にあおられて瓦が飛ばされることも。センターが管理する物件でも、2019年に台風で瓦が車に落ちたため、飛散を防ぐネットを屋根に張った例があるという。 無人だと空き巣などの犯罪に巻き込まれたり、放火や漏電などで火事になる危険性も高まる。雑草や植木が伸び、虫が大量に発生して隣家に迷惑をかける場合も。蜂の巣ができたり、ハクビシンなどの野生動物がすみ着いたりすることもある。ごみの不法投棄で景観を害したり悪臭の原因となったりと、さまざまな影響を「近隣の人がすごく気にしているケースは多い」。 センターでは、こうした空き家を定期的に見回る管理のサービスを提供している。月に1度、管理担当者が現地を訪れて、家の状態を確認する。 月額2750円のコースでは、建物の外観や草木の伸び具合の確認、ポストの掃除などをして、写真付きの報告書をつくる。月額6600円のコースでは、鍵を預かって室内の状態もチェック。窓やドアを開けて換気し、蛇口も開いて水を通す。別料金で郵便物の転送などのオプションもある。今年からは空き家が原因の事故に備える保険も自動付帯されている。換気のため管理する空き家の窓を開ける粕谷直稀さん=東京都足立区で
夏ならば、建物内の気温が上がり、湿気もたまる。管理サービスに携わる宅地建物取引士の粕谷直稀さん(29)は「床のたわみやカビなどが発生するリスクも高い。下水管が乾いてしまい、臭いが広がったり、ネズミの出入り口になったりする場合も少なくない」。雑草が伸びていて造園会社に手入れを頼むなど、必要に応じて対応をとることも多いという。 建物の手入れが大切な一方、「管理していても、ある意味で問題を先送りしているだけ」と、伊藤さんは指摘する。センターには、50歳前後の「団塊ジュニア」などから、相続した空き家について相談が増えているという。早期に家をどうするかを決めるため、伊藤さんは「相続が発生する前に、持ち主や親族で話し合っておくのが一番」と勧める。◆近隣不動産の価格低下招く 損失試算、5年で3.9兆円
長い間放置されている空き家は、近隣の不動産価格を低下させる。民間団体によると、その損失は2023年までの5年間で全国で3兆8900億円に上る。また、住環境の悪化によるQOL(生活の質)の低下を感じる住民は766万人にもなる。 企業や研究機関などが空き家問題に取り組む「全国空き家対策コンソーシアム」が試算した。東京大学連携研究機構不動産イノベーション研究センター(CREI)の研究では、長期間そのままにされた空き家が1軒あると、半径50メートル内の住宅取引価格が3%下落する。一方で売却などの目的がなく長期間放置されている空き家は、18年から23年までに37万戸増えている。 試算では、立地などを勘案し、増えた一戸建ての空き家のうち8割が影響を与えると推計し、地価下落の損失額を計算した。 コンソーシアムの代表理事で解体工事のマッチングサービスを手がけるクラッソーネ(名古屋市)の川口哲平代表取締役CEO(41)は「空き家は放置しない方がいい、早期に対策を検討した方が得が多い、と知ってもらえれば」と話す。
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