1月の能登半島地震に続き、今月には台湾東部沖地震も発生した。相次ぐ災害を踏まえ、東日本大震災の被災者支援に携わったファイナンシャルプランナー(FP)の大川幸子さん(77)=福島県いわき市、写真=に、被災に備えた家計管理の注意点を聞いた。 (古根村進然)  まず指摘するのは、当座をしのぐ現金の確保だ。「義援金などの支給が始まるまで時間がかかるため、1週間程度は過ごせるよう10万円ほどは、非常用持ち出し袋に入れるなどして用意しておくことが大切」と話す。金融機関やコンビニのATMや、キャッシュレス決済が使えなくなった場合にも役立つ。  当座の現金のほか、緊急予備資金も蓄えたい。一般的に月の生活費の3~6カ月分が必要とされるといい、「月の生活費が20万円なら、3カ月分で60万円、半年なら120万円が目安となる」。使い道として避難時の食事や衣服などの生活費、交通費、通信費、宿泊費などが考えられる。家族が離れて暮らす二重生活を強いられたり、被災に伴う失業や病気、負傷などに見舞われたりするケースへの備えにもなる。この資金は、普通預金など換金性の高い預貯金が望ましいという。  被災後、自力避難するための費用が必要になるケースもある。大川さん自身は東京電力福島第1原発事故を受け、いわき市の自宅から同県会津若松市の友人宅へ自動車で避難。その後、公共交通機関で長男のいる東京へ移るなどし、数週間後に自宅に戻ったという。その間の移動や宿泊にかかった費用は数十万円ほど。負担は軽くない。  平常時から医療保険や生命保険の補償内容を確認することも大切だという。「書類を手に取り、地震や津波などによるけがで治療や入院、通院した場合に保険金や給付金が支払われるか調べてほしい」と大川さん。「遺族年金の額なども踏まえ検討し、必要なら生命保険にも加入し、残された家族に対する生活保障として十分かどうか押さえておきたい」という。地震保険の検討も勧める。  住宅再建に関して大川さんが強調するのが、被災者対象の長期・固定低利の「災害復興住宅融資」。独立行政法人住宅金融支援機構(東京)による制度で、親が住宅の建設や購入などをする場合に子が申込人となり、ローンを支払う「親孝行ローン」などのメニューがそろう。「被災後には、それまでの住まいの住宅ローンを抱えたまま新居のローンを支払うケースも少なくない。いろんな場面を想定することが重要だ」と語る。  万一、被災によって死亡した場合、残された家族が生活していくために、財産の相続手続きも必要になる。大川さんは、家族間で預貯金がある金融機関名や口座番号を把握しておくことも重要だと指摘する。

◆生活再建の支援制度 事前に把握

 被災後の生活再建には、自治体などによる経済的支援策を把握しておくことも欠かせない。支援制度に詳しい弁護士の永野海さん(46)=静岡市、写真=は「支援制度は幅広く用意されており、平時から自分ごとと捉えて把握し、被災時にパニックにならずに対応できるようにしてもらいたい」と呼びかける。  永野さんは、防災士で日弁連災害復興支援委員会の副委員長も務める。東日本大震災後に福島県内の避難所で相談対応した経験を契機に、インターネット上に「被災者支援情報さぽーとぺーじ(ひさぽ)」を開設。各地で災害が起きるたびに、支援情報の全体像をイラストで分かりやすく瓦版にまとめ、ネットで無料公開している。  永野さんがまず知っておくべきだというのが、住宅の修理や仮設住宅入居の申し込みなど公的支援を受ける際に必要となる罹災(りさい)証明書について。被災者の申請に基づき、被災自治体が調査し発行するが、「生活再建を始める必須の書類。住宅被害の程度を示し、全壊や大規模半壊など重い判定を受けた人ほど多くの支援を受けやすい」と言う。  生活再建の重要な資金となるのが、被災者生活再建支援法に基づく「基礎支援金」。全壊や解体を伴う半壊など住宅の被害規模に応じて最大100万円が支給される。「建設・購入」など再建方法に応じて最大200万円が支給される「加算支援金」もあり、永野さんは「被災後に支給される金額として大きい」と話す。  災害救助法が適用された自然災害で、住宅ローンなどの支払いが困難になった被災者を対象にした「被災ローン減免制度」もある。原則、預貯金500万円や義援金などを手元に残したままローンが減額されたり、免除されたりし、「住宅ローンを抱えている人はぜひ把握しておいて」と話す。  「被災者もそうでない人も、各制度の概要をまとめた瓦版を印刷し、周囲に配布して確認してほしい」と永野さん。ただ、自治体により対象などが異なる場合があるため、「瓦版はあくまで基礎の情報とし、詳細は自治体に確認してほしい」と促している。

自治体などによる経済的支援策をまとめた瓦版の被災者支援カード




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