「完全メシ」の焼きそばやスムージー(日清食品提供)
必要な栄養素をバランス良く効率的に取れるとうたった食品が、健康志向の高まりもあり共働きや子育て中の家庭などの人気を集める。「最適化栄養食」や「完全栄養食」などと呼ばれ、市場規模も拡大。ただ、国の基準を参考に、各メーカーが独自で定義づけているのが実情だ。専門家は宣伝のみに流されず、消費者自らが成分表示を確認するなどして選ぶよう呼びかける。 (古根村進然)◆市場どんどん拡大
食品大手の日清食品(東京)は2022年5月、栄養素とおいしさの両立を追求した「完全メシ」として即席のカレーライスや油そばなどを発売。厚生労働省の「日本人の食事摂取基準」で設定された全33種の栄養素を過不足なく配合した。 8月時点で冷凍食品も含め約40品をそろえる。いずれも、民間の一般社団法人「日本最適化栄養食協会」(同)の認証を受けた。社員食堂向けメニューも開発し、認知度はどんどん向上。25年3月期の売上高は70億円を目標とし、来期には100億円を目指す。 同社ビヨンドフード事業部長の矢島純さんは「低栄養が引き起こすフレイル(虚弱)や偏った食生活による『隠れ栄養失調』の解消にも役立つ。日常的に選んでもらえるよう、最適化栄養食が安全で価値があると啓発したい」と話す。「完全栄養食」のパンやクッキー(ベースフード提供)
食品スタートアップ(新興企業)のベースフード(東京)は17年2月、「完全栄養パスタ」を発売した。参考にしたのは、18歳以上の1日の摂取量の目安を示す消費者庁の「栄養素等表示基準値」。33種の栄養素のうち、過剰に摂取しやすいとされる脂質や炭水化物などを除く29種について1日の必要量の3分の1以上を含むものを「完全栄養食」と定義する。◆あくまでサポート
マーケティング部長の安原祐貴さんは「これを1日3回食べれば良いという意味ではなく、バランスの取れた食事をサポートしたい」と説明する。今年6月時点でパンやクッキーなど計24種類を「完全栄養食」として展開。累計で2億食を突破し、24年2月期の売上高は前期の約1・5倍となる148億円に上る。 ターゲットを絞った商品も。味の素(東京)は、女性のための完全栄養食「One ALL」を今年1月から展開。2種類のスープパスタをオンラインで販売する。厚労省の食事摂取基準に基づき、エネルギーと炭水化物、脂質を除いて女性の1日に必要な量の栄養素の3分の1以上を含む。時間がないテレワーク時の昼食や遅めの夕食の代わりとして、不足しがちな栄養素を取るのに役立ててもらう狙いだ。低カロリーなのに濃厚な味わいが好評という。完全食おにぎり(オルビス提供)
化粧品メーカーのオルビス(同)は5月、完全食おにぎり「COCOMOGU(ココモグ)」を売り出した。冷凍の「ほぐし焼きさばと煎(い)りごまの大葉香るおにぎり」など3種を専用サイトで販売。1食(2個)で消費者庁の基準値の栄養素を30種類以上含む。米卸売りなどの名古屋食糧(名古屋市中区)と共同開発。オルビス新規事業開発グループマネジャーの塩谷貴生さんは「主食を通じ消費者の心を満たせたら」と話す。◆表示に国が注意喚起 「成分の確認」しっかり
調査会社の富士経済(東京)によると、厚生労働省や消費者庁の基準に基づいた「完全栄養食」の市場規模は2021年に64億円だったが、22年には2倍超の141億円に拡大。24年には290億円になると予測する。 一方、消費者庁は今年7月、「完全栄養」という表示が、健康増進法が定める誇大表示の禁止に抵触する可能性もあると注意喚起した。同法は「人を誤認させるような表示をしてはならない」と規定。消費者庁は、その一例として「完全栄養等と称して健康維持に必要な栄養成分を全て不足なく含んでいるかのように誤認させる表示をしている場合」を挙げた。 これも受け、メーカー側も、広告で各社の定義を明確化するなど消費者が理解しやすい表記を心がけているという。日弁連消費者問題対策委員会の副委員長を務める西野大輔弁護士(秋田市)は「完全栄養食の法的定義がないため、特定の栄養素が欠けていたとしてもそれだけで法律違反とまでは言い難い」とみる。 その上で「完全栄養と聞くと、それだけで必要な栄養を全て得られるイメージを持つ消費者もいると考えられる。企業側は消費者を誤認させない表示をすることが求められる。そういった広告や表示がないか、国の積極的な監視なども必要だ」と指摘する。また、消費者には「広告をうのみにするのではなく、日頃から商品を選ぶ際に、栄養成分表示の確認を習慣化するなどして食品への理解を深めることが大切だ」と言う。<日本人の食事摂取基準> エネルギーや33種の栄養素に関する摂取量の基準。性別や年齢などに応じた値が示される。健康増進法に基づき、国民の健康維持や生活習慣病の予防などを目的に5年ごとに見直され、厚生労働相が定める。学校給食や病院食などを提供する施設や栄誉指導の現場でも使われている。消費者庁の「栄養素等表示基準値」もこの基準を参考に設定されている。
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