機械浴のストレッチャーを掃除する林祐実さん=岐阜市の山内ホスピタル介護老人保健施設で
障害や病気などが理由で長時間は働きにくい人が、短い時間で限定された職務を担う「超短時間雇用」が広がりつつある。自治体の委託を受けた社会福祉法人が中間支援事業者として支援するのが特徴。「誰ひとり取り残さない社会を実現する手段の一つ」と、自治体の関心は高い。 (佐橋大) 岐阜市の林祐実さん(33)は3月から、週に2日2時間半ずつ、市内の山内ホスピタル介護老人保健施設で働く。施設利用者が寝たままの状態で入浴する「機械浴」で使うストレッチャーなどの掃除を担当する。「職員の皆さんに『いつもありがとう』と言ってもらえるのがうれしい」と林さん。施設の統括部長吉井秀仁さんは「今までは介護職員が担当していた仕事で本当に助かっている。その分、職員は高齢者のケアにより力を入れられる」と話す。 林さんはかつて、小売店でレジ担当として働いていた。その際は精神疾患で体調を崩し、やめざるをえなかった。今もフルタイムやそれに近い勤務に就く自信はない。ただ、「超短時間」なら働けると、市の委託を受けた社会福祉法人が運営する「超短時間ワーク応援センター」に応募。センター職員は「人の役に立ちたい」という林さんの思いを生かせ、対応もできそうな今の仕事につないだ。 センターには、障害や難病のため短時間の就労を希望する約130人が登録。うち、33人がこども園でのおもちゃの消毒や、図書館で本を棚に返す業務、ホテルでシーツをはがす作業などを担う。仕事は「長時間職場にいて、あれもこれもする」ものでなく、職務が明確に定義され、勤務時間も1時間~数時間と短いものばかり。こうすることで、長時間勤務には自信が持てない人も働きやすくなる一方、人手不足に悩む中小企業も助かる。 同市は、2022年度にセンターを開設。センター職員は、市内の企業を回って、こうした雇用を“開拓”し、超短時間の仕事を求める人とつなぐ。求人を出す企業の多くは、法的には障害者雇用の義務がない中小の事業所。これまで接点がなかった障害者を雇用することで、地域での障害に対する理解を促進する狙いもある。 この仕組みは、東京大先端科学技術研究センターの近藤武夫教授が提唱。現在、川崎市や神戸市など7自治体が取り組む。近藤教授は「3、4の自治体から事業を始めたいとの声はいただいている」といい、さらに広がりそうだという。 超短時間で働く人には長年、障害福祉サービスの一つ、就労継続支援B型事業所を利用してきた人も。岐阜市の美容室「イーコレクションホーム」で週1日1時間、店内の掃除を担当する男性(38)もその一人だ。男性は「仕事は楽しいし、やりがいもある」。精神障害があるが、職員と信頼関係の築けているB型事業所に通い、居場所を確保しつつ、美容室でも働く。 一般企業での就労と、働いた対価として「工賃」を受け取るB型事業所の併用は長年、取り扱いが不明確だった。だが、国は3月、企業で働く時間が週10時間未満なら併用して構わないとの見解を初めて示した。近藤教授は「B型に所属しながら、超短時間雇用を試せることが明確になった」といい、事業には追い風という。 課題は、自治体が支援するための予算の確保。「今取り組んでいる自治体は、熱意があって予算をつけられる中核市以上の自治体。事業化したい中小の市町村を県や国が支援する仕組みが必要」と近藤教授は訴える。
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