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民主主義が後退している。

スウェーデンの独立調査機関「V-Dem研究所」が今年3月に発表した「民主主義リポート2024」によると、昨年の世界の民主主義の度合いは、冷戦期の1985年以来38年ぶりの低水準となった。2009年以降はほぼ15年連続で、権威主義が進む国の人口が、民主主義が進む国の人口を上回った。権威主義とは、強権的な手法で人々の自由を制限し、政府が支配する政治体制のことだ。石破茂氏が総理大臣に就任してから戦後最短で衆議院が解散され、日本ではあわただしく選挙に突入した。11月には米大統領選も控えている。いま一度、初心に戻って考えてみたい。「民主主義って何ですか」。同研究所のスタファン・リンドバーグ所長(イエーテボリ大学教授)に聞いた。3回にわたって紹介したい。

テレビ朝日デジタルニュース部では「アニメでわかる!民主主義のおはなし」を制作しました。民主主義の仕組みや、独裁政治、権威主義についてオリジナルキャラクター「デモにゃん」がわかりやすく解説します。

民主主義の良さが、弱さでもある

――数ある政治システムのなかで民主主義が一番良いと教授が思うのは、ずばりなぜですか

1973-2023年の世界の自由民主主義指数(出典:Democracy Report 2024) この記事の写真は4枚

民主主義は最善の制度です。なぜなら、他のどの制度よりも人間の尊厳を大切にし、守ろうとする唯一のシステムだからです。私たち一人ひとりが尊重され、価値が認められ、人間としての尊厳を守る権利を持てるのは、民主主義だけです。

――何かを決める際に非常に長い時間がかかります。これは民主主義の欠点ではないですか

そうですね。不便に感じることもあるかもしれません。ですが、素早い決定だけが「決めること」ではありませんよね。決定した内容についても考えていなければなりません。多くの人々が関わって議論し、熟考することにはメリットがあります。その過程で政治家がさまざまな選択肢を検討し、提案の後押しをせざるを得なくなることです。他の人々が反対意見を示すこともできます。時間をかけることで、最終的により質の高い決定につながる傾向があります。

インタビューに応じるスタファン・リンドバーグ教授

――民主主義の弱さは何でしょうか。近年では特に強いリーダーシップを求める傾向が世界的に見られます

現在、反民主主義的な政党や指導者、グループは、表現の自由を使って民主主義を壊そうとしています。彼らはウソや陰謀論を広め、人々に不安を与え、「今の民主主義の仕組みはうまくいっていない」と思わせるのです。

民主主義の弱さを挙げるとするならば、それは反民主主義的な政党や指導者が、表現の自由という枠組みを悪用し、民主主義を脅かすことができるという点です。

V-Dem研究所が公開した2023年の世界の民主主義指数(出典:Democracy Report 2024)

――民主主義の良さは、逆に弱さでもあるということでしょうか

その通りです。表現の自由は、いつ、誰にとっても保障されるものなので、民主主義に反する話や脅かす内容だとしても、言ったり聞いたりすることができますよね。民主主義をなくしたい権力者であったとしても、自由に意見を広めることで支持を集めていきます。さらに、今はソーシャルメディアやインターネットで瞬時に拡散することができます。

現在の民主主義にとって、いまそれは、大きな課題となっています。

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ウソが民主主義を滅ぼす--Democracy dies with the lies.

ウソが民主主義を滅ぼす--Democracy dies with the lies.

――インターネットやAIの進化が民主主義に及ぼす影響についてどのように考えていますか

私はその質問に対し、一言でまとめたいと思います。
「ウソが民主主義を滅ぼす」

インターネットやソーシャルメディア、そしてAIといったデジタル技術の進歩によって、誤った情報や陰謀論、大規模なウソやデマが広まる可能性が非常に高まっています。真実が脅かされています。

バングラデシュ総選挙で、フェイク動画が拡散されるなど、ソーシャルメディア上では選挙に絡む誤情報やデマが増えています。革新的な技術であるAIも、より信じられるウソを生み出すために利用される可能性があるのです。

私たち、有権者や市民がそれらを信じ始めると、民主主義は生き残れません。

民主主義は真実の上に築かれています。

――インターネットやAIが存在し、進化していることは否定できず、共存が必要です。私たちはどうすれば良いと思いますか

私たちは、インターネット上でウソやデマが拡散されないようにする方法を見つけなければなりません。

台湾は、中国本土から、または本土と結びついているグループからのニセ情報に対抗し、止めるために奮闘しています。こうした対策は必須です。台湾はこの問題の最前線に立っていますが、世界中の国々でも、デマやウソ、陰謀論の拡散に使われる技術を阻止するために、もっと多くのことをしなければなりません。

インターネットは、今や民主主義を破壊するための強力な道具となりつつあります。私たちは、デジタル技術やAIが悪用されないようにする必要があります。

(取材・構成:テレビ朝日デジタルニュース部 今村優莉、石川瑞樹)

V-Dem研究所 スウェーデン・イエーテボリ大学に本部を置く研究機関。世界200以上の国と地域を対象に1789年以降の民主主義に関するデータ集を作成、無償で公開。4,200人以上の専門家が参加して作る世界最大級のデータは各国の政治的自由や市民の権利の状態を評価することに重点を置く。 この記事の写真を見る(4枚)
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