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 総選挙について考える参考になる近年の日本の状況を示すデータを紹介することになった。
 正直、気が重い。一般的な言い方をすれば「悪いデータ」「右肩下がりのデータ」が多くなるのが最初からわかっているからだ。最近のわが健康診断の数値みたいなものだ。

財政赤字は国際的に異常状態が固定化

 そこで取り上げざるをえないのが日本の財政赤字、つまり国の借金だ。どんどん増え続け約1100兆円まで積み上がってしまった。

 国の借金は国際的に対GDP比で比較されるが、冒頭のグラフのように日本の債務残高は257%(2.57倍)。G7=主要7か国で悪い意味の“独走状態”を続けている。それだけでなく世界178の国・地域でも断トツの最悪である(2022年)。
 日本の財政赤字は国際的には明らかに異常だ。バブル崩壊後の1990年代から税収が落ち込んだ一方で歳出が増え続け、その穴埋めから財政悪化が拡大した。しかも、その異常さが最近になって固定化されている。

ますます増える国の借金 この記事の写真は2枚

 借金はウナギ登りで増えている。事あるごとに「経済対策」と称して打ち出の小づちを振り回してきた永田町の“祭りの跡”だ。

 国は税金で成り立っているわけで、国債残高が増えるということは、税金で返すべき借金が増えているということになる。最終的に返済するための税金を実際に負担するのは将来の世代ということになる。

 日本社会の未来に暗さを感じる最大の根っこはここにある。さらに現在もすでに過去の借金の返済をさせられている点だって忘れてはいけない。

超インフレになるリスクを誰に

 国の借金である国債がいくら増えても、買い手側である国民の資産が増えるだけで、政府は破綻しないとする立場がある。さらに借金の返済を優先する政策が通る可能性はそもそも低い。

 しかし借金が増えると、いつかある段階でマーケットによる政府への信用が低下し、超インフレと国債の価値低下が起きるのが歴史だ。
 日本の過去でも、公債依存度が、すでに戦前の1930年代半ばには軍事費の膨張で4割近くに、さらに戦中は軍事費会計含め7割超に達した。そのツケは結局、戦後数年間の約22000%(220倍、対戦前比)に及ぶハイパー・インフレによる国民の負担で初めて整理された。資産だったはずの国債の価値もあったものでない。事実上の“踏み倒し”だ。

戦後のハイパー・インフレ…「インフレ貧乏の秋」(『朝日新聞1948年9月6日』)

 われわれの大半が知らずに過ごしてきたハイパー・インフレのリスクを、子や孫の世代に背負わすのがいいのだろうか。すでに手に負えないインフレが来そうな兆しが感じられるではないか。

経済対策や給付は必要性の見極めが必要

 財政赤字の対GDP比を下げるには財政支出の見直しによる「分子の縮小」と経済成長によるGDPつまり「分母の拡大」の両輪が必要だ。

 しかし社会保障費が中心の財政支出を大幅に減らすことも難しければ、GDPを急伸させることも現実的ではない。
 切り詰め第一の“財政至上”とか支出優先の“積極財政”といったような両極端ではなく、バランスを取りながら綱渡りをして、日本の国際的信用を落とさないようにしながら、財政を維持・改善していくしか道はない。

 各党の公約・政策は経済対策や給付を中心とした財政支出で引き付けがちだ。それが国の将来まで責任を持ったものなのか。
 有権者はその財政支出が必要なのかバラマキなのか、財源があるのか借金を増やすだけなのかも含めた視点で見極める必要がある。

 不都合なデータだからと言って、それに目をつぶったり、だまってやり過ごすわけにいかない。人間の一生と違って、日本という国は続いていくし、続けなければならないからだ。
 “こうなったのはなぜか”、“これからどうするのか”。選挙の公約や候補者がことば巧みに誤った認識や無責任なことを飾り立ててごまかしていないかをデータを通じて判断したい。
(テレビ朝日デジタル解説委員 北本則雄)

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