「お産の在り方が変わり、個人のクリニックを維持するのは難しい」と話す林弥生院長=岐阜県中津川市の林メディカルクリニックで

 日本で1年に生まれる子どもの数は近く70万人を割り込むと予測され、少子化は喫緊の課題だ。どの党も衆院選の公約に子育てへの経済支援を盛り込むが、人口減に直面する地方都市では、女性が安心して出産できる産婦人科が減っている。周産期医療を維持するために必要なことは何か。岐阜県東部のクリニックを訪ねた。 (藤原啓嗣)  岐阜県中津川市のJR中津川駅そばに、産婦人科の林メディカルクリニックはある。人口が8万人を超えていた1990年代初頭、年間300人弱を取り上げた時期もあったが、昨年3月にお産を扱うのをやめた。市内で唯一、分娩(ぶんべん)に対応したクリニックだった。林弥生院長(66)は「リスクの高いお産が増えて、母子の安全を第一に考えた」と胸の内を明かす。  2023年の人口動態統計によると、出産した女性の3割を35歳以上が占め、妊娠時の合併症増加の一因と考えられている。同クリニックでも産後に胎盤がはがれにくく出血が多いといった場面に立ち会うことが増えたという。母子の安全を考えた対応を心がけ、近年、高度医療が可能な県立多治見病院などに妊婦の4分の1を救急搬送した。  現在は妊婦健診や産後ケア、不妊治療、婦人科の外来診療に力を注ぐ。分娩は県立多治見病院のほか、お隣の恵那市に近い地域から健診に通ってくる妊婦が多いこともあり、市立恵那病院とも連携。林院長は「健診に来る女性にはそのままここで産んでほしいと思ってやってきたが、医師の自己満足だけではやっていけない」と限界を認める。上3人の子を林院長に取り上げてもらい、恵那病院で今月、第4子を出産した中津川市の女性(30)は「家の近くの方が安心感があったのに…」。  現在、計11万7千人が暮らす中津川、恵那の両市で分娩可能な施設は中津川市民病院と恵那病院のみ。医療従事者は将来を見据えて動き始めた。恵那病院は、病院外で妊産婦の急変に対応する講習会を開く。東濃医療圏の救急救命士ら20人が、14日の講習会で急な分娩の介助について学んだ。  恵那病院の伊藤雄二・副管理者(65)は「出産の対応は高い専門性が必要。こうした研修で産婦人科の医師らと救急救命士がつながりを深めることが大切」と意義を強調する。  厚生労働省によると、分娩を扱う病院や診療所は1996年に3991カ所あったのが、2020年には1945カ所とほぼ半減。千葉大病院次世代医療構想センターの吉村健佑センター長(46)は「働き方改革で産科医が長時間働くのが難しくなり、少子化で採算が合わず医療機関もお産をやめるなどして、全国で産科の偏在や不足が起きている」と要因を分析する。  周産期医療の維持に必要なこととして「診療実績などのデータを基に医療機関を集約し産科医がお産から離れないようにした上で、適正な労働環境を確保すべきだ」と吉村センター長。全世代の医師が偏在対策に協力することや、患者側にもどの医療機関でも受診できるフリーアクセスの制限への理解を求めた。  各党の公約は、地域医療再生より個人への支援が目立つ。日本維新の会や公明党は出産費用の無償化を発表。共産党は子どもを産み育てることを困難にしている問題を解決し、個人の自由な選択ができる社会を目指す。社民党は、出産の保険適用を訴えている。


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