解散して選挙期間に入ってから日本のエンゲル係数が高くなっていることが改めて注目されている。42年ぶりの高水準になり、上昇に歯止めがかからなくなっているのだ。
エンゲル係数は家計の消費支出、つまり生活費に占める食費の割合のことだ。食費には日常の買い物の食品だけでなく、酒類や外食なども含まれる。
この係数によるエンゲルの法則は19世紀に提唱されたもので、世帯の収入が増えるにつれて食費の割合が下がっていくことが分かっている。
リッチな家庭では高級食材を買ってもなお負担が少なく、カツカツな家庭では特売品でも切り詰める方向へ。肌感覚でわかりやすい。
冒頭のグラフはOECD(経済協力開発機構)のデータを参考に国際比較したものだ。日本全体が一つの家庭だと思って参考にしてほしい。
元々エンゲル係数が高め、つまりカツカツだったのに、さらに上がってきて主要先進国でトップになった。
さらに順位よりも大切なのは近年の上昇の傾向だ。国際比較は2022年までだが、日本は「貧しさ」で先進国トップクラスの地位を固めつつある。
日本だけ一段高
よく見ると、新型コロナによる巣ごもりの影響があった2020年前後を除くと、高齢化や世界的な生鮮食料品価格の上昇で各国とも右肩上がり気味だが、日本は2014年ごろから一段高になっている。
要因についてはさまざまな見方があるが、収入の伸び悩みで生活費全体(分母)のパイが大きくならない中、食費が円安と消費税率引き上げで膨らんできていることも挙げられる。
実際のところは同じ食生活をそのまま維持できない。「レストラン外食→デリバリー・中食→自宅調理」、「牛肉→豚肉→鶏肉」、「フルーツ→止める」といった“リストラ”を余儀なくされて、このありさまだ。
しかも、最新のエンゲル係数を入手できる日本の数値を見ると、ことしに入っても上昇に歯止めがかかっていない。
食費が支出の3割も…歯止めがかからない現実
ますます“貧困”…エンゲル係数に歯止めかからず この記事の写真は2枚 グラフは月ごとの数値と方向性を示したものだが、ことし8月のエンゲル係数は30.1%。1月から8月の平均でも平均28.0%に達し、これまでの年平均と比べると1982年以来42年ぶりの水準だ。
9月以降の数値にはコメの値上がりも響いてくるのは間違いない。
“貧困化”が進んでいる現実は率直に受け入れないといけないだろう。最近の牛丼チェーン店の値下げキャンペーンやコンビニの割安商品の展開も当然だ。
食費を削らざるをえないことは、同時にほかの生活費の項目も節約することになり、景気全体から見ても大きなマイナスだ。第一生命経済研究所の熊野英生首席エコノミストは「家計は、不要不急の消費を節約し、さらに定期的に支払っている費用にもメスを入れて支出削減対象にしている」とリポートで分析している。
給付や減税で根本的解決はできない…
この“貧困化”から脱するために政治は何をなすべきか。総選挙の主な争点になってしかるべきだろう。
各党とも、分子にあたる食費の支出を減らすために給付や減税といったメニューを並べてくる。
しかし、給付や減税によって一時的な気休めになっても、その直接の原因である食料品の値上がりを補うのは難しい、つまり根本的に解決できないことは、みんなわかっているはずだ。
そもそも給付や減税と言っても結局のところ自分たちが払っていた税金であり、生活費のために税金が戻ってくるだけではないか。
円安と金利は避けて通れない
記事冒頭のグラフは主要先進国でエンゲル係数の推移をまとめたが、これらの国で食料自給率は日本が38%と飛びぬけて低い(イタリア55%、イギリス58%)。カナダ、フランス、アメリカは食料輸出国だ。
これに対して日本は食料輸入国。所得が低いほど食費に占める輸入品(生鮮品、加工品、原材料など)のウエイトが多くなるのが現実だ。国土の制約から効率的な自給率アップは厳しい。
日本でエンゲル係数を低くする改善、つまり“貧困化”からの方向転換のため食費を安くするには、まず輸入食品の値上がりを抑えることだ。自給のための輸入飼料代・肥料代・エネルギー代も同じだ。
その最大の要因である円安を一定程度に円高水準へ是正することが不可避であり、一番即効性がある。円相場はここに来て1ドル150円台に戻ってきて再び厳しさを増している。
そのための対応の一つで金利引き上げが有効なのは明らかだ。
エンゲル係数の分母である生活費の源となる所得を増やすための方策と合わせて、総選挙の争点としてもっとクローズアップされるべきだろう。
(テレビ朝日デジタル解説委員 北本則雄)
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