親子自然体験プログラムで種まきする参加者=東京都町田市で

 有機農業を1年間体験する授業「生活園芸1(Ⅰ)」を、学生の必修科目にしている恵泉女学園大(東京都多摩市)。開始から30年継続する中で、その活動は徐々に地域へと広がっている。  「芽出てこい、と声かけながらやるんだよ」  菊地牧恵助教(57)が、大学周辺の畑でコカブの種をまく男の子(3)に声をかけた。種の上に薄く土をかけて、水分がかれないよう、しっかりたたく。ダイコン、ラディッシュ、チンゲンサイ…次々に種をまく。足元に出てきたミミズを男の子は興味深そうに見つめた。  NPO法人「ライフラボ多摩」が9月下旬に開いた「親子自然体験プログラム」。3歳と1歳の2人の子どもと参加した市内の芳賀ひろ子さん(35)は、都市での農業体験は貴重だと話し、「子どもも土いじりに慣れてきました」と顔をほころばせた。  ライフラボ多摩は、大学の教職員有志や、生活園芸の内容を一般向けにして開いてきた公開講座の元受講生らが立ち上げ、今年、NPO法人化した。  「大学で培った、有機農業をベースに人を育てる、社会を良くする、その思いを次の世代に伝えたい」と代表で名誉教授の澤登早苗さん(65)は発足の理由を話す。親子自然体験のほか、特徴的な活動が「恵泉CSA」。CSAとは、「Community Supported Agriculture」の略で、地域が支える農業の意味。大学の教育農場の一画で、学生や卒業生らが育てた有機野菜を、前払いで契約した会員に定期的に届け、地域のマルシェでも販売する。  アグロエコロジー(農生態学)に基づく農業や菜園教育などに先進的に取り組む米カリフォルニア大サンタクルーズ校を、教職員が視察したことがきっかけになった。学生や卒業生らスタッフが、収穫や新聞紙を使った簡易包装、出荷、販売を担当。値段も話し合って決める。  「自分で育てた野菜なので、(お客さんに)伝えられることはたくさんある。難しくもあるが、普段関わることのない教職員や地域の人、保護者らと言葉を交わし、買ってくださるのはうれしい」。4年の金丸穂香(ほのか)さんは、自身の成長につながったという。  3年の水島栞(しおり)さんは「学生が有機で一生懸命育てたからとクレームもなく、私たちは安心して活動できる」と感謝し、「(一般の)有機生産者を応援したい。日頃、お店で見切り品も視野に入るようになったし、同じ規格の野菜がずらっと並んでいるのは本当は不自然なんだと気付きました」と言う。  「園芸」を必修科目の一つに据えた恵泉女学園の創立者、河井道(1877~1953年)は、土に触れる園芸によって「身も心も健康に」なると指摘。さらに、第1次大戦後の疲弊した欧州を歩き、平和への思いも込めて「いつになったら大地から産するよいものが公平に分配されるようになるだろうか」と書き残した。  けれど、この30年を「社会の格差は広がり、経済格差が子どもの体験の格差も生んでいる」と澤登さんは見る。「人と食、農が離れ、農村も崩れている」  日々の工夫により園芸が人々の暮らしや地域社会を豊かにする。そうした希望を、生活園芸の授業は受け継いだ。今年、大学は学生募集を停止。現役の学生が巣立った後の教育農場について、大学は「未定」とする。澤登さんらは存続を願う。  「土に触れる経験は基本的人権。いのちが集う農場は人が生きる核になる」(この連載は鈴木久美子が担当しました。(上)は21日に掲載) 【関連記事】<つながる広がる 地域の食 有機必修30年>(上)恵泉女学園大の実践 草も虫も…関わりの中で育む 【関連記事】<つながる広がる 地域の食 身近に、種>(上)種の交換会 豊かな個性保全 家庭菜園で
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