光熱費や食品など、生活にかかわるさまざまな品目の値上がりが目立ち、衆院選では物価高への対応も問われている。教育面での支援も含め、国はこれまでに多くの対策を実施してきたが、収入や世帯といった条件によって恩恵を受けられない人も出ている。必要な支援はきちんと届いているのか、当事者に聞いた。(海老名徳馬、古根村進然)

◆定額減税 仕組み複雑、公平性欠く

定額減税のパンフレットを手に、「何のための支援だろう」と語る男性=三重県桑名市で

 「4万円といえば、僕の1カ月の食費ですよ」。三重県桑名市で妻と2人で暮らす男性(76)は「それだけで生活はずいぶん楽になるのに」とぼやく。  物価高対応として6月に始まった定額減税。1年に限り、1人当たり所得税と住民税の計4万円分が納税額から差し引かれる。所得が少なく納税額が足りない場合、差し引けない分が1万円刻みで給付される。  以前は自営で仕事をしていたが、リタイア後の男性の収入はほぼ年金のみ。所得税は非課税で、住民税も収入に関係なく定額を納める「均等割」のみを納める。だが、9月に市の窓口を訪れると、定額減税の対象外との回答。さらに、納付が均等割のみのような低所得世帯を対象とした臨時特別給付金(世帯当たり10万円)も受け取れていない。  影響した可能性があるのが、パートで働く妻の存在。妻は自分の所得に対する減税を受けた。だが、納税額は4万円未満で、差し引けない部分に対する給付も受けたという。  「均等割だけを払っているのは、非課税の少し上で一番生活が苦しい層だ」と男性は指摘。「それが制度の隙間に落っこちてしまうなら何のための支援だろう」と疑問視する。  今回の定額減税は、税額の削減と給付を組み合わせた結果、仕組みが複雑だ。かねて自治体や所得税の手続きに関わる企業の事務負担が大きいと指摘されてきた。実際に一度は対象外とされた後で、判断が変わったケースもある。  愛知県一宮市内の女性(62)は、6月に市役所に問い合わせた際、「収入がある同居の子どもがいるので対象外」と言われた。だが8月に一転、対象となることを知らせる封書が届き、実際に夫と2人分を受け取った。「最初に問い合わせた時には電話をあちこちに回され、結果的に間違ったことを言われた。不安な思いをしたし、やり方がおかしいのではないか」と首をひねる。  さらに、全国的に「二重取り」も発生している。配偶者の扶養に入りながらパートなどで働き、年収が100万円超で103万円以下といった一定の条件がそろうと、1人で2人分の恩恵が受けられるというケースだ。二重取りの発覚を受け、7月には財務相が「企業や自治体の事務負担に配慮することも必要」と容認する考えを示した。  ファイナンシャルプランナーの八木陽子さんは「定額減税の制度が難しく、払う側にも払われる側にもわかりにくい。公平性に欠けると感じる人もいると思う」と指摘している。

◆教育支援 無償化対象、地域で違い

 教育面の支援についても戸惑いはある。  国は2025年度から、「子ども3人以上の多子世帯」に対し、大学などの学費を無償化する。金額の上限はあるが、世帯の所得制限はない。一方、「3人以上を同時に扶養」とする条件がある。  「今後の教育費に1千万円以上はかかるだろう。住宅ローンも残っており、自分たちの老後を見据えて貯蓄する余裕はない」。パートで働く愛知県豊橋市内の女性(50)は肩を落とす。  国立大の大学院に通う長男(25)と私立大2年の次女(19)、中学3年の次男(15)を育てている。来年4月には長男が就職し扶養から外れる予定で、次女は無償化の対象にならない。会社員の夫と共働きで、世帯の年収は約1100万円。次男は来春、高校に進学し、その学費も必要になる。女性は「子どもの年齢差にかかわらず、子育て家庭の負担が等しく軽減されるような制度を」と求める。  一方、高校などの授業料には国の就学支援金制度がある。ただ、世帯の所得制限があり、その基準は、親のいずれか1人が就労している場合は約910万円未満、共働きでは約1030万円未満などとなっている。  岐阜県海津市の女性会社員(48)には、県内にある公立高校2年の長男(17)がおり、授業料や修学旅行積立金などとして年間約25万円かかる。夫婦共働きで世帯年収は計約1050万円で、支援の対象からは外れている。  来春には長女(15)の高校入学も控えており、長男の将来も考えると、一層教育のための貯蓄が必要だと考えている。女性は「2人の子どもを育てることが難しいから共働きにしているのに、それが原因で恩恵が得られないのはおかしい」。今年4月から、東京都では所得制限なしで高校の実質無償化が始まっており、「同じような制度を全国に広げてほしい」とも願う。

◆物価高 さまざまな品目に

 物価高は、原材料価格の国際的な高騰や円安などを背景に、さまざまな品目に及んでいる。今年9月の消費者物価指数では、「穀類」が前年同月比で10.4%上昇し、「生鮮野菜」は6.8%、「電気代」が15.2%上がるなど、生活に不可欠な品目の値上がりが目立つ。  対策として各党は、低所得者世帯への給付金や、給付型税額控除、消費税率の引き下げといった公約を掲げている。


鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。