◆遺族年金の受給権が影響 社会保険労務士・伊藤光江さん
<A> 原則として65歳から受給が始まる老齢年金は、請求せずに受給開始を繰り下げて金額を増やすことができます。繰り下げた月数×0.7%が増額されます。老齢基礎年金と老齢厚生年金は、同時でも別々にでも繰り下げが可能。ただ、遺族年金や障害年金の受給権がある人は、老齢年金を繰り下げて増額することはできないルールになっています。例外として障害基礎年金のみの受給者は、老齢厚生年金のみ繰り下げができます。 厚生年金加入期間がある配偶者が亡くなった場合の遺族厚生年金について考えてみましょう。配偶者死亡時に夫なら55歳以上で、妻は何歳でも受給権が発生。自身の年収が850万円未満であることも条件です。 夫なら自分が55歳から65歳になるまでに厚生年金加入期間のある妻を亡くしたら、老齢年金の繰り下げはできません。また夫、妻ともに増額のため請求しない「繰り下げ待機」をしていても、66歳未満で配偶者を亡くすと、年金は65歳からもらい始めた形で待機中の分を一括受給し、その後も増額なしの金額になります。繰り下げ受給は早くても66歳からと決まっているためです。66歳以上で配偶者を亡くした場合、以降の繰り下げ待機ができなくなります。そこまでの待機分で増額された年金の受給を始めるか、増額なしの金額で65歳からたまっている分を一時金で受け取り、以降も増額なしで受給するかを選ぶことになります。 遺族厚生年金は(1)配偶者の厚生年金額の4分の3(2)配偶者と自分の厚生年金額の半分ずつの合計(3)自分の厚生年金額-のうちの最大額です。これまでの雇用環境から、妻は自身の厚生年金が少なく(1)になる場合が多く、夫は反対に(3)が、(2)は共働きなどの場合に見られます。 65歳からは自分の厚生年金を優先して全額受給し、最大額との差額があればその分が遺族厚生年金になります。妻が先に亡くなると遺族厚生年金は少額かまたは0円になる場合が多く、請求しない夫が大半ですが、権利があることには違いないため、それ以降の繰り下げはできません。夫が妻からの遺族厚生年金を受け取れず、繰り下げもできなくなれば、残念に思う人もいるでしょう。 遺族年金には、18歳までの子がいる場合に受給できる遺族基礎年金もあります。受給権があると繰り下げできないのは遺族厚生年金と同様です。ただし、65歳時点でこの年金の受給権を失っていれば、老齢年金の繰り下げは可能です。30歳未満で子のない妻が夫を亡くして5年間たち遺族厚生年金の受給権がなくなった場合や、遺族基礎年金の対象の子がすべて18歳の年度末を迎えた場合などです。 繰り下げ待機している人が亡くなった場合は、増額なしの金額で65歳以降に支給されるはずだった年金が最大5年分、未支給年金として権利のある遺族に支給されます。<詳しく!>「特別支給」は繰り下げなし
ほかにも繰り下げで増額できない場合がある。1961年4月1日以前に生まれた男性と、66年4月1日以前に生まれた女性が60代前半で受給する「特別支給の老齢厚生年金」には繰り下げ制度がない。伊藤さんは「65歳まで請求しなければ増えると思っている人は結構多い」と指摘する。 年金受給者が厚生年金に加入して働き、給料と年金の合計が一定額を超えた時に老齢厚生年金の一部または全部を支給停止する「在職老齢年金」が適用される場合、支給停止された部分は繰り下げても増えない。働きながら繰り下げて増額しようと考える人は注意が必要だ。年金受給者が扶養する年下の配偶者などがいる場合、老齢厚生年金に加算される加給年金や、その配偶者が65歳以降の老齢基礎年金に加算される振り替え加算も繰り下げによって増額されない。 (海老名徳馬) <いとう・みつえ> 1960年、名古屋市出身。2009年に社会保険労務士になり、13年に独立して「すず社会保険労務士事務所」(愛知県春日井市)を設立した。年金事務所や金融機関での年金相談などにも携わる。
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