衝突被害軽減ブレーキ(自動ブレーキ)があっても、居眠り運転事故を防ぐには限りがある-。広島大は10月、運転手の居眠りが原因で起きた大型トラックの衝突事故について、自動ブレーキが効果的に働いていないとする研究結果を公表した。対策には居眠りの予兆を察知する装置の開発や、運転手が十分な休息を確保できる労働環境の改善が求められる。 (藤原啓嗣)

◆労働環境改善を

 自動ブレーキは前を走る車との距離が短くなると、自動で制動する装置。2014年11月以降に発売された大型トラックから搭載が義務化された。国土交通省は自動ブレーキの性能が上がるにつれ、大型トラック用の基準も更新している。  研究は21~24年に大手運送会社福山通運(広島県福山市)と協力して実施。16~23年に全国で起きた大型トラックの衝突事故563件で、事故原因や自動ブレーキ搭載の有無、車両の修理費、乗員の治療費などを比較、分析した。調査した事故で死者はいなかった。  運転手の申告や車内の映像から22%を占める123件を居眠りが原因による事故と判断。自動ブレーキの有無で居眠り運転による事故率は大きく変わらないことが分かった=グラフ。事故全体や居眠りが原因でない事故では自動ブレーキを搭載したトラックの方が事故率が低下していた。  平均の事故損害金額を比較すると、自動ブレーキを搭載していた方が371万円としていない場合より84万円高くなった。損害金でみると、自動ブレーキの効果には限りがあることがより顕著になった。  自動ブレーキが効果的に働いていない要因として研究では、「マイクロスリープ」と呼ばれる15秒未満のほんのわずかな睡眠によって居眠り運転が引き起こされたと指摘。時速80キロでトラックが走行していれば、2秒で50メートル近く進む。数秒の居眠りでも運転手がブレーキを踏むなどの回避行動をとらなければ、自動ブレーキ単独の性能では事故の被害を軽減できなかったと分析している。  一方、自動ブレーキの性能は年々高まっており、21年から新車に搭載が義務化された新基準のブレーキは、18年から義務化された旧来のものと比べて事故率が下がった。  同大医学部の客員教授としてマイクロスリープを研究している塩見利明・愛知医科大名誉教授(71)は「現行の自動ブレーキの性能では、居眠りをしてしまうと事故を防ぎきれない。運転中の画像などから居眠りの兆候を早期に検知し、自動ブレーキも含めた安全運転支援システムをつくることが必要」と話した。

◆車間距離保って

 時に総重量が20トンになる大型トラックは、停止するまでに時間を要する。そのため運転手は急な飛び出しや前を走る車の速度など、危険予測を心がける。  研究に参加した福山通運の安全管理課長川口健吾さん(45)は「前の車との車間距離を十分に保つように」と社内で助言している。  損害金が確定した事故を対象とする今回の研究では、居眠り運転事故の場合に自動ブレーキの効果が限定的になることを示した。  川口さんは「公道は雨や坂道などさまざまな条件が絡み合い、想定しているように自動ブレーキが利かない場合もあるのでは」と推察。「実際の事故のデータから自動ブレーキの限界が明らかになったのは大きな成果。運転手が十分な睡眠を取れるように労働環境を整えたい」と力を込める。


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