台北のシンボルタワー「台北101」(写真:kaede.enari/PIXTA)この記事の画像を見る(9枚)

4月3日午前8時58分頃(日本時間。台湾時間は7時58分頃)、台湾東部の花蓮(かれん)県沖でマグニチュード7.4の地震が発生。花蓮県で震度6強、台北市でも震度5弱を記録した。

台北市内は当時、いったいどんな状況だったのか。

世界100カ国以上の現地在住日本人ライターたちの集まり「海外書き人クラブ」の会員が、当時の台北市内の様子と、台湾一の高層ビル「台北101」を救った耐震設計について紹介する。

通勤ラッシュ時を襲った大きな揺れ

「403花蓮地震」と名付けられた今回の地震は、1999年9月21日に発生したマグニチュード7.6の地震(921大地震、2400人以上が犠牲になった)以来、過去25年で最大級の規模といわれている。また、発生から1週間で16人の死亡が確認された。

台北市在住の筆者は地震発生当時、ちょうど自宅を出るところだった。

最初は「なんか揺れてる?」程度だったのが、すぐに大きな揺れに変わり、「これはまずい」と机の下に隠れた。天井を見たら、25センチほど離れている2つの照明器具が、あわや衝突かというほどに揺れていた。

30秒ほど経っただろうか。揺れが収まったため、恐る恐る机の下から這い出し、室内の様子を観察した。マンションの3階にある我が家は、幸いにして物が倒れたり壊れたりすることはなかった。

職場はどうなっているだろうか。

出勤を急ごうと地下鉄の駅に向かったが、地下鉄は動いていない。おりしも通勤ラッシュの時間帯。筆者と同じく、代替交通手段を求めてさまよう人たちが、街中にあふれていた。

止まっている地下鉄の駅から、次々と人が出てくる。平常時の何倍にものぼる人たちがタクシー乗り場に押し寄せたため、タクシーは一向につかまらない。バスは動いていたのでタクシーはあきらめて、バスで職場に向かうことにした。

自宅とはまったく違った職場の状況

職場に到着して思わず目を見張った。

地震発生後の職場の様子。引き出しが開いて中のものが飛び出し、コピー機が大きく移動している(写真:筆者撮影)床に落ちたウォーターサーバーボトルと傾いたポスター(写真:筆者撮影)

筆者の職場である台北市内のビルの13階では、机の上にあったものすべてが床に落ちており、引き出しが開いて、中のものが飛び出していた。コピー機が数メートルも動いている。

パソコンのモニターは床に落下し、ウォーターサーバーのボトルは台座から転げ落ちている。ホワイトボードや壁に掛けたポスターは壁からずり落ちていた。

地震が起こった際、すでに出勤していたスタッフは、筆者が自宅で経験したのとは比べものにならないほどの揺れに直面し、かなりの恐怖を感じたそうだ。スタッフに人的被害がなかったのが、本当に救いだった。

まずは床に散乱した電子機器やら書類やらを片付けないといけない。しかし、余震がひどい。午前中はとても勤務できる状態ではなく、繰り返しやってくる余震に怯えながら、ひたすら片付けに追われた。

花蓮で地震は日常茶飯事だったが

ほどなくして、震源地は台湾東部の花蓮県だとわかった。台湾東部はユーラシアプレートとフィリピン海プレートの衝突によって生まれた陸地であり、花蓮県で最も有名な観光地である太魯閣(たろこ)峡谷は、2億年にわたる激しい地殻変動と侵食によって生まれた大峡谷だ。

観光地として人気の太魯閣峡谷の大理石の絶壁。これは昨年6月に撮影したもの(写真:筆者撮影)

大自然の雄大さを味わえる景勝地として人気がある一方で、マグニチュード6規模の地震がほぼ毎年発生している地震頻発地でもある。

友人が花蓮に住んでいるというスタッフが、安否を案じて早速連絡をとったところ、友人からは無事を知らせる一報と、「花蓮では震度4は日常茶飯事だけど、今回の地震はさすがに怖かった」との連絡があったという。

震源地が台湾東部と知り、台北市内の東部の様子が気になった。

筆者のオフィスは台北市の西部にあるが、台北市の東部には高層オフィスビルや百貨店、外資系ホテルなどが集中しており、台湾一の高さを誇るランドマークタワー「台北101」も市内東部にある。

台北101展望台からの風景(写真:筆者撮影)

台北市の西部にある13階のオフィスでも、午前中は仕事にならないほどの状態だったのだ。筆者のオフィスよりも震源地に近く、かつ地上からの高さもある台北101は、地震で大変なことになっているのではないだろうか。

世界最高水準の制振・耐震技術

結論からいうと、台北101は無事どころか「無傷」だった。むしろ「台北101で遭遇した本震より、自宅で経験した余震のほうが揺れを強く感じた」という声がインターネット上にあふれていた。

実際に台北101の35階に勤務しているスタッフに話を聞いたところ、「揺れはほとんど感じなかったし、ものが落ちてくることもなかった」とのことだった。

いったいなぜなのか。

高さ509.2メートルという台湾一の高層ビルで、世界で10番目の高さ(2024年現在)を誇る台北101は、2004年12月31日の竣工から2010年1月4日までの5年と5日間、「世界一の高層ビル」でもあった。当時の建築技術の粋を集めたこのビルは、世界最高水準の制振・耐震設計によって支えられている。

今回の地震では特に2つの設計が、台北101を救ったとされている。

1つは、耐震のために設置されている杭。地中深くに8本もの巨大な杭が打ち込まれ、1000年に一度の超巨大地震にも耐えられる構造になっている。

もう1つは、巨大なウインドダンパーである「チューンドマスターダンパー(TMD)」。

台北101の89階展望フロアから見たウインドダンパー(写真:筆者撮影)

ウインドダンパーとは、風による振動を緩和するための巨大な「おもり」のこと。「チューンドマスターダンパー(TMD)」とは、輪切りにした銅板を何層も重ねて球状にしたウインドダンパーをいう。

高層ビルの揺れ軽減対策として取り入れられており、台北101では、想定される状況に応じてさまざまな揺れ軽減対策が採られている。

台北101では、87階から92階の吹き抜け空間に、直径5.5メートル、重さ660トンの巨大な鉄球が吊るされている。ウインドダンパーとしては世界最大であり、また世界で唯一の一般公開されているウインドダンパーでもある。

ウインドダンパー見学フロアの88階から。大人をはるかに凌ぐ大きさ(写真:筆者撮影)

台北101が強い風や地震の影響を受けたときには振り子のように動いて、建物の揺れを軽減する。左側からの強風や揺れには、TMDが左側に揺れることでビルの平衡状態を維持する。右側からの強風や揺れに対しては、TMDは右側に揺れる。

その効果は絶大で、揺れを4割も軽減できるといわれている。

TMDは2015年8月8日に台湾を襲った台風13号の際に、左右に1メートルずつ動いた記録がある。つまり台北101という超高層ビルの中で660トンの鉄球が横方向に2メートルも揺れたわけで、実際に目の当たりにしたら生きた心地がしなかったに違いない。

しかし、この鉄球があるからこそ、台北101は台風や地震から守られているのだ。

被害の全容解明はこれから

震源地に近い花蓮県では、建物の崩壊や落石で大きな被害が出ていたり、台北市に隣接する新北市ではメトロ環状線の高架橋にずれが生じたりするなど、被災者の救出と全容解明にはまだ時間がかかりそうだ。

被災者が平穏な生活を送れるようになるには、長い時間がかかるだろう。

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