コーシャ認定を受けた製品を手にするビンヨミンさん。右上はコーシャジャパンが出す認定マーク=東京都大田区で
「日本ではまだ認知されていないが世界には必要とする人が多くいる。日本で自分にできることがあると気づいた」。コーシャ認定に取り組む企業「コーシャジャパン」(東京)の社長で宗教指導者のビンヨミン・エデリーさん(47)は語る。同社は日本では初の認定機関だ。 コーシャはヘブライ語で「適正な」を意味する。牛や羊などひづめが割れていて反芻(はんすう)する種類の動物、猛禽(もうきん)類などを除く鳥類、ひれやうろこがある魚などは食べてもよい。食肉処理にも、有資格者が苦痛を与えないことが求められる。このほか、肉類と乳製品は一緒に食べてはならず、調理器具も分けるなど多くの決まりがあり、認定権限を持つ宗教指導者が判断する。 コーシャ認定は、スーパーマーケットなどが普及し消費市場が拡大した第2次世界大戦前後に米国を中心に始まった。ハインツやコカ・コーラといった食品大手の製品をはじめとする100万点以上を認定する機関もあり、2023年の市場規模は日本円で3兆円を超えるとの調査もある。 認定を取得するには、宗教指導者が原材料から製造過程、機械の洗浄方法まで厳しく審査。その後も決まりがきちんと守られているか繰り返し点検が行われる。認定は宗教的な意味にとどまらず、食の安全安心につながるとして、ベジタリアン(菜食主義者)や食への関心が高い人ら、ユダヤ教徒以外にも広く受け入れられているという。 ビンヨミンさんはイスラエル出身。ユダヤ教の中で最も戒律が厳しいとされる超正統派で、自身はコーシャフードしか口にしない。1999年に来日した際は、食べられるものを探すことに苦労した。 海外でも日本食は人気だが、ほとんどの食品はコーシャ認定を受けていない。「日本の食品を世界につなげたい」と、この年に事業を開始。現在、日本国内の認定機関は同社を含めて数社にとどまる。 これまでに旭酒造(山口県)の日本酒「獺祭(だっさい)」や、京料理本家たん熊(京都市)が提供するコーシャ会席など、40社以上の数百の認定に関わった。ビンヨミンさんは「しょうゆやみそなど日本の伝統食品は、製造工程がシンプルで認定が容易なことが多い。コーシャをきっかけに、より多くの企業が新たなマーケットにアプローチできるように貢献したい」と話す。◆杉原千畝の縁で関心高まる高山
コーシャ認定を受けた岐阜県高山市内の植物工場(五十嵐優樹さん提供)
第2次大戦中に多くのユダヤ人難民を救った外交官、杉原千畝の出身地、岐阜県八百津町や周辺の自治体などは「杉原千畝ルート」と銘打ち観光客の受け入れに力を入れる。コロナ禍前の2019年には、ユダヤ教徒が多いイスラエルから約1万2千人が同県高山市に訪問。来訪者の増加に合わせて、コーシャ認定への関心も高まっている。 同市で植物工場を経営する五十嵐優樹さん(39)は22年、英国に本部があるコーシャ認定機関の審査を受け、工場全体を対象として認定を取得。野菜や食用の花「エディブルフラワー」など、工場で生産する約60種類の農産物全てが戒律で食べることが許された食品になった。 現在は東京都内で各国の大使館員が利用するスーパーなどに出荷する。五十嵐さんは「機内食に使うため、コーシャ認定を取った食材を探しているとの声もかかった」と認定のメリットを話す。
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