ゴールデンウイーク(GW)に入ってから各地で真夏日を観測するなど、今年も熱中症への警戒が強まっている。暑さ対策が欠かせないのはペットの犬や猫も同じだが、最近は比較的暑さに強いとされる猫の熱中症も目立つ。理由は地球温暖化だけではないという。
そもそも、犬や猫は体毛が多く鼻と四肢の肉球部分でしか汗をかけないため、体温調節がしづらい。ペットの保険会社「アニコム損害保険」によると、年平均気温が統計開始以来最も高くなった2023年は、熱中症になった犬・猫の診療件数が前年比269件増の1624件(犬1424件、猫200件)に上った。月別ではGWを含む5月(144件)から急増し、ピークの7~8月(計1002件)だけで全体の6割以上を占めた。
同社は13年から、全国主要10都市の熱中症注意レベルを4段階で示す「犬の熱中症週間予報」を発表してきたが、22年からは猫の予報も始めた。21年から発症件数が連続して100件を超えるようになり、分析に必要なデータがたまったという。
東京都目黒区のペットクリニック「CaFelier(キャフェリエ)」の小林充子院長も「ここ数年、猫の熱中症がとても増えた」と話す。10年の開業時はほとんどなかったが、20年ごろから増加し、23年7~10月は多い月で10匹程度を診察したという。
小林院長によると、酷暑が続いていることだけでなく、雑種の家猫の寿命が延びたことも原因の一つと考えられる。交通事故に遭ったり感染症にかかったりするリスクが低いことなどから最近では20歳を超える個体も珍しくなく、熱中症を発症するのは体温調節がうまくできない「シニア」が中心となっている。
さらに、小林院長は新型コロナウイルス禍のペットブームで純血種の猫を飼う人が増えたことも影響しているとみる。「スコティッシュフォールドやブリティッシュショートヘアなどの鼻ぺちゃや、毛が長い種など、うまく熱を発散できない猫自体が増えた実感があります」
熱中症を発症するのは、「完全に家の中で飼われている猫」が多いという。飼育の目安は気温28度、湿度40~50%とされるが、飼い主の留守中は室内の温度管理が難しく、帰宅時に異変に気づくケースが多い。中には猫が誤ってエアコンのリモコンに触れ、電源が切れてしまったケースもある。
猫は暑い時は床で寝そべったり、寒い時は棚に上ったりして、最適な温度を自分で見つける。そのため、「留守にする場合は、ある程度自由に家の中を動けるようにするのが好ましい。部屋によって温度差をつけ、水をいろいろな場所に置くことも重要です」。
一方で、どんな状態になったら熱中症を疑うべきなのか。例えば、犬は口を大きく開けて浅く速く呼吸する「パンティング」をするが、猫は口を開けて呼吸をすることはあまりなく、一度体温が上昇すると熱を下げにくい。全身で息をしてぐったりしていたり、食欲がなくなっていたりしたら症状を疑うサインとなる。口を開けて呼吸をしていたら、既に重症化している可能性が高く、獣医への相談が必要になる。
また、熱中症の症状で体温が高くなっている場合、早く冷まそうとして冷水をかけるのは危険だ。表面の体温が急に下がり、多臓器不全を起こす恐れがある。そのため、ぬれタオルで包み、扇風機でゆっくり冷ましていくのが効果的だという。
群れで暮らしてきた犬は飼い主に体調不良などの異常を伝えてくれるが、猫は捕食される危険から逆に隠れようとする習性があり、サインを見逃しやすい。小林院長は「猫の特性を知り、秋口までは注意深く見守って」と呼びかける。【稲垣衆史】
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