「何度言っても聞かない」「すぐにかんしゃくを起こす」など子供の困った行動や子育ての悩みを改善し、親と子供のよりよい関係づくりを目指すプログラムとして、いま注目されているのが「ペアレントトレーニング」だ。ペアレント=親が学ぶことで、子供の行動が変わるきっかけになるかもしれない。

ほめ方もポイント!「ほめる力」

2024年11月、長崎市の子育て支援センターで開かれたのは、3歳から小学2年生の子供を持つ保護者向けの「ペアレントトレーニング」だ。「ペアレントトレーニング」とは、もともとADHD「注意欠陥多動症」などの発達障害のある子供を持つ家庭を支援するためにアメリカで開発されたプログラムだ。

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しかし現在は、発達障害と診断されていなくても「友達となじめない」「落ち着きがない」など、発達で気になることがある保護者が自ら受講するケースも増えている。この日参加者は、家庭での子供の行動にどう対処したかを発表した。

年中(5歳)の娘を持つ受講者は「朝ごはんを食べるようになったけど時間がかかる。行儀が悪いので、私が『早く!』と言ってしまう。子供は『何で早くって言うと!』となるから、極力抑えて抑えて『元気もりもりになるよ、強くなるよ~』っていうようにしたら自分で食べるようになった」と子供への声かけの仕方で行動が変わったようだ。

作業療法士 徳永瑛子さん(長崎大学大学院 生命医科学域 助教)

この保護者の話に、作業療法士の徳永瑛子さん(長崎大学大学院・生命医科学域 助教)は「お子さんによってうれしいほめ方、響くほめ方は違うのでどれがいいのかを探すのがいい。娘さんの場合は励まし系がいいのかもしれない」とアドバイスをした。徳永さんによると、ペアレントトレーニングで最も重要なポイントは「子供をほめること」だと話す。

作業療法士 徳永瑛子さん:
子供はお母さんのことが大好きですからほめることでお母さんから認められた、お母さんに愛されていることを実感することができる。さらにお母さんに認められるためにいい行動をしようとする。いい行動が増えていくことが効果として見込まれる。

あえて反応しないことも方法

他にも、視覚的な工夫を行うことでできることを増やし自立を促す「環境調整」や、子供がかんしゃくを起こすといった行動をした場合に、あえて反応しない時間を作り、子供の自発的な行動を待つ「選択的無視」もひとつの方法とされている。

自身も4歳の息子を持つ徳永さんが実践し、自立を促したある方法がある。それが「トークンシステム」だ。

徳永さんが考えたのは、息子が保育園で支度をする際に動作の流れが一目でわかるようなイラスト表で、「自分の靴を靴箱にしまって、靴下を入れて水筒をかけて、歯磨きコップを置いて洋服をしまって、リュックをかけたらハグができる」というものだ。この一連の流れを1回できたらマルをつけていき、それが10回できれば本人が好きなおもちゃをもらえる仕組みだ。

子供の特性や好きな物にあわせた目標を設定し、達成すると「ごほうび」がもらえる「トークンシステム」で、子供は何をしたらいいかが明確になり、達成感を得られるように設計されている。

徳永さんによると「これを20回やったら定着した。今ごほうびなしで朝の準備をしている。トークン表で習慣化させると後は自立しやすくなる。一生ごほうびがないとダメかというとそんなことはない。重要なのは、ごほうびがなくてもしっかりほめ続けること」 だという。

ごほうびシステムの「落とし穴」

しかし、「ごほうびシステム」にも「落とし穴」がある。なかなかお風呂に入ろうとしない娘をその気にさせるため、おもちゃで引きつけることに成功した保護者だったが新たな悩みが出てきた。

4歳の娘はお風呂に入る際おもちゃがない時に、「今日は楽しいことないの?」とおもちゃを要求してくるようになったという。保護者は、ごほうびがないと動かないようにならないかと心配になり、とまどいを隠せなかったという。

この子供の行動に対して、徳永さんは親が気を付けなければいけない点があると話す。

作業療法士 徳永瑛子さん:
よくあるのが、ぐずったからこれを出すのはダメ。「ぐずればごほうびが出る」になってしまう。「これをあげるから頑張りなさい」を提示するのはOK。でも子供はぐずっていない、要求していないのがポイント。全ての決定権は親。ここが逆転してしまうともらえないんだったらしませんよ、となる。

1日5分の親子の特別な時間

さらにもうひとつ、良好な親子関係を作る上で欠かせないのが「スペシャルタイム」だ。

「スペシャルタイム」とは、子供と親が2人きりで子供の好きな遊びをする時間で、その効果について、作業療法士の徳永瑛子さんは「好きな遊びの中でお母さんからポジティブな言葉をかけてもらうことで、ものすごく愛されていることを実感するし、大切にされていることがわかる。1日5分間だけ子供にポジティブな言葉がけを子供にたくさんかけることで、子供を客観的に見ることができ、子供のいいところに気付くことにもつながる」と話す。

こうした子供の発達や行動に不安を抱える保護者などを支援する取組みは、長崎県全体にも広がっている。県は発達障害を持つ子供の養育経験がある保護者が相談役となり、同じ親として子育ての悩みや不安を共有する「ペアレントメンター」による個人相談を受け付けている。

また、幼稚園や小学校などの依頼を受けて現地に赴き、教師や職員を対象に研修も行っている。派遣の依頼は年々増加傾向にあるという。

ペアトレは全ての保護者に

ペアレントトレーニングの講座は全部で8回あり、6回を終えたころには、参加者は大きな変化を感じている。

5歳の娘を持つ受講者は「子供の笑顔が増えた。子供の困り感がよくわからない部分があって、子供も私もイライラしてどうしたらいいんだろうということがあったけど、ペアトレを受けて勉強になって、子供と落ち着いて向き合うことができた」という声や、小学1年生の息子と2歳の娘を持つ受講者からは「息子の困った行動を減らしたいけど方法がわからず、悩みを抱えたまま息子と向き合っていたが、(ペアトレでは)やりやすいこと、すぐに実践できることばかりを教えてもらえるのでよかった」と話す。

作業療法士 徳永瑛子さん:
ペアレントトレーニングは、もともとは発達障害・ADHDを持つお子さんに対して有効といわれているプログラムだが、個人としてはどんな保護者さんもやり方を知っておくことで子育てがうまくまわるようになるのではと。ちょっとしたいい所のほめ方、指示の出し方、日常生活で当たり前にやることだけど習う機会がない。子育てのやり方を学ぶ機会がないので、そういう意味ではこのペアトレは知っておくことでどんな方でも活用できる。

子供との関わり方を学ぶ「ペアレントトレーニング」。子供の困った行動に、親自身が対応や捉え方を変えることで親子関係を良好にし、子育てに笑顔が増えるきっかけになるのかもしれない。

ペアレントトレーニングなど子育てに関する講座については、Ngasaki子ども発達サポートひろば「にこっと」まで。子育て中の人ならどなたでも参加可能。(095-842-0116)

(テレビ長崎)

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