立山黒部貫光のトロリーバス。車両は都市を走るバスとほぼ同じ姿ながら、屋根から伸びたトロリーポール、そして屋根上の架線が特徴だ(2024年9月13日に筆者撮影)

大げさな表現ながら、2024年(令和6年)は「全国唯一」と形容される鉄道が相次いで2種類も姿を消した年として記憶されるであろう。広島市内の住宅団地で運行していたスカイレール、そして北アルプスを貫く山岳観光路「立山黒部アルペンルート」のトロリーバスだ。

姿は鉄道に見えないけれど……

スカイレールとは、ロープウエーで使われているようなゴンドラを、モノレールのような鋼鉄製の橋桁、正式には軌道桁にぶら下げ、ロープでけん引する乗り物である。一方のトロリーバスは、車両自体は街中でよく見かける路線バスのような姿ながら、電車のように架線から電力を取り込んで走る乗り物だ。

走行中のスカイレールの車両。見た目は車両がロープウエー、線路は懸垂式モノレールで、急な傾斜の坂を上り下りしていた(2004年11月18日に筆者撮影)

鉄道の仲間とは言うものの、スカイレールもトロリーバスも多くの人には鉄道に見えないだろう。スカイレールに似ているロープウエーは正式には索道(さくどう)と呼ばれ、法規上は鉄道の親戚としての扱いを受けているが、トロリーバスはどう見ても「有線の電気バス」そのものだ。車両の上に敷設された軌道桁や架線の存在が、鉄道として扱われるかどうかの決め手となっている。

走行中の揺れ少なく

スカイレールは、鉄道会社のスカイレールサービス(広島市)によって、JR西日本山陽線の瀬野駅に隣接するみどり口駅から、1.3キロメートル離れたみどり中央駅までの間を運行していた。高台に造成された住宅団地「スカイレールタウンみどり坂」の住民の足として活躍してきたが、24年4月30日限りで営業を終えている。

車両がむき出しとなったロープにぶら下がっていればロープウエーとなるところだったが、実際には軌道桁が存在するためにモノレールの一種として分類され、車両がぶら下がる「懸垂式モノレール」として扱われた。この構造のおかげでスカイレールはロープウエーと比べて走行中の揺れが少なく横風にも強かったのだ。

湘南モノレールや千葉都市モノレールといった、国内に現存する2つの懸垂式モノレールとは似ても似つかない。最大の相違点は、駅と駅との間ではロープに引っ張られて走り、車両が自走しないという点だ。

ならばロープウエーに分類しておけばよいのにと思うのだが、駅の中では自走するため懸垂式モノレールの仲間となった。車両は駅に近づくとロープから離され、リニアモーターの仕組みで走る。そして駅を出発すると再びロープをつかむ。

駅ではスカイレールの車両はロープから離され、リニアモーターで自動的に運転されていた(2004年11月18日に筆者撮影)

リニアモーター式の地下鉄では、車両に直線状のリニアモーターを搭載し、線路に敷かれたリアクションプレートとの間の反発や吸引により、車両が走ったりブレーキをかけたりする。一方のスカイレールでは、車両の造りを簡素なものとする目的からか、車両にリアクションプレート、軌道桁にリニアモーターと、構成が反対になっている。

「レールのない電車」扱い

今度はトロリーバスを見てみよう。富山県の立山黒部貫光(たてやまくろべかんこう)によって運行されていて、標高約2450メートルにある室堂(むろどう)駅と、大観峰(だいかんぼう)駅との間の3.7キロメートルを結ぶ。残念ながら、24年11月30日限りで営業を取りやめると発表されている。

架線があり車両が決められた場所以外を走行できないという理由から、鉄道として分類された。法規上は無軌条電車、つまりレールのない電車として扱われている。

トロリーバスは自動車のバスのようにハンドルで操作し、アクセルペダルで加速、ブレーキペダルで停止させる。計器類は電圧計や電流計、圧力計と、電車と同じものが搭載されている(2024年9月13日に筆者撮影)

トロリーバスが走る仕組みは電車とほぼ同じだ。車両は屋根から伸びた「トロリーポール」と呼ばれる棒状の装置を用いて架線から電気を取り入れ、後輪の前方に設置されたモーターを動かす。モーターで生み出された回転力はプロペラシャフトを通じて後輪へと伝えられる。

一般的な鉄道では架線は1本しか張られていないが、トロリーバスには2本の架線が平行して敷かれた。ご存じのように電気回路を構成するにはプラスとマイナスの2本の電線が必要で、立山黒部貫光によると、室堂駅から大観峰駅に向けての進行方向右側の架線に流れているのがプラス、左側がマイナスなのだそうだ。

となると、1本しか張られていない一般的な鉄道の架線のほうが気になるだろう。架線には通常プラスの電気が流れていて、マイナスの電気が流れているのはレールだ。架線から取り込まれた電気はモーターを回転させるなどの役割を果たした後、車輪からレールへと流れていく。

スカイレール、トロリーバスとも「全国唯一」の構造があだとなって姿を消す羽目に陥った。営業開始が1998年(平成10年)8月28日のスカイレール、1996年(平成8年)4月23日のトロリーバスとも、2020年代を迎えると車両や設備の更新が必要となったが、他に類を見ない特殊な鉄道であることから更新費用がかさむと試算され、とても維持できないと判断された。スカイレール、トロリーバスとも、バッテリーで走行する電気バスに置き換えられるという点が興味深い。

愛知に「変わり種」2つ

全国にはもう「変わり種」の鉄道はないのか、と嘆く向きもあるだろう。実はまだ興味深い鉄道が2つあり、どちらも愛知県内を走っている。

一つは名古屋市の大曽根(おおぞね)駅と小幡緑地駅との間の6.5キロメートルを結ぶ「ガイドウェイバス」だ。車両はディーゼルエンジンやハイブリッド式の路線バスで、一般道路も走行可能。専用の高架橋を走るときには、車両の案内装置の誘導によって走るためハンドル操作が不要となっている。東京を走る新交通システム「ゆりかもめ」などと同じ案内軌条式の鉄道に分類され、2001年(平成13年)3月23日に営業を開始した。

ガイドウェイバスは軌道上をバスそのものの車両が走る乗り物で、国内には名古屋ガイドウェイバスただ一つしか存在しない(2001年8月20日に筆者撮影)

もう一つは、名古屋市の藤が丘駅と愛知県豊田市の八草(やくさ)駅との間の8.9キロメートルを結ぶ「リニモ」である。運行を担当している鉄道会社は愛知高速交通だ。正式には「常電導吸引型磁気浮上・リニアインダクションモーター推進方式」と呼ばれる、リニアモーターによって車体が浮き上がり、前に進む仕組みを採用している。JR東海が開発中の超電導リニアがこの手の乗り物では国内で初めてかと思いきや、リニモは2005年(平成17年)3月6日の営業開始以来、19年の歴史を積み重ねてきた。

磁石の力で車体が浮き上がり、走行するリニモ。2005年に開催された愛知万博(愛・地球博)の会場へのアクセスにも用いられた(2005年5月26日に筆者撮影)

どちらも珍しい鉄道に変わりはなく、特にリニモは技術の見本市のような鉄道でもある。スカイレールやトロリーバスは姿を消してしまうが、ガイドウェイバスもリニモも末永く営業を続けてほしいものだ。

梅原淳(うめはら・じゅん)
1965年(昭和40年)生まれ。大学卒業後、三井銀行(現三井住友銀行)に入行、交友社月刊「鉄道ファン」編集部などを経て2000年に鉄道ジャーナリストとして活動を開始する。「JR貨物の魅力を探る本」(河出書房新社)、「新幹線を運行する技術」(SBクリエイティブ)、「JRは生き残れるのか」(洋泉社)など著書多数。雑誌やWeb媒体への寄稿、テレビ・ラジオ・新聞等で解説する。NHKラジオ第1「子ども科学電話相談」では鉄道部門の回答者も務める。

【関連記事】

  • ・国内最後のトロリーバス廃止へ 立山黒部、2024年12月
  • ・ダムカレーの形が変わる? 立山黒部で「2大名物」終了
  • ・広島スカイレール終了へ 国内唯一の交通システム
  • ・廃止の広島スカイレール、代替EVバス30日運行開始

【過去の「鉄道の達人」】

  • ・変わる鉄道の切符 紙にICカード・QRコード、顔パスも
  • ・東海道新幹線、開業から60年 常識外れの速さで整備
  • ・進化する鉄道の地震対策 脱線事故を防ぐには
  • ・海辺の鉄道めぐる様々な苦労 潮風・砂・波との戦い
  • ・ドクターイエロー引退へ 人気の検測車両は技術の塊
「日経 ライフスタイル」のX(旧Twitter)アカウントをチェック

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。