戦後 互いの安否を確認して励まし合おうと
郵政博物館などによりますと、明治時代の郵便制度のスタートに伴い普及したとされる、現在のような年賀状のやりとり。
戦争をへて一度は激減したといいますが、1949年のお年玉くじ付きの年賀はがきの発行をきっかけに復活し、戦争でばらばらになった人たちが互いの安否を確認して励まし合おうと再び多くの年賀状がやりとりされるようになったということです。
ピーク時は44億枚発行の年も 年々減
ただ、日本郵便によりますと、年賀はがきの発行枚数は、平成16年・2004年用の44億枚あまりをピークに減少傾向が続いています。
▽SNSやメールで新年のあいさつをするケースが増えていることや、
▽企業間でコストの削減や環境への配慮で年賀状を取りやめる動きが出ていることなどが要因とみられるということです。
料金がこれまでの63円から85円に値上げされた来年・2025年用の年賀はがきはさらに需要が落ち込むと見込まれ、当初の発行枚数は10億7000万枚と前の年より25%減りました。
減少率は比較できる2004年用以降で最も大きくなっています。
年賀状離れの傾向は、企業の調査からもうかがえます。
筆記具メーカーが去年行った調査で、2024年用の年賀状を「出す」と回答したのは、全体の43.8%でした。(対象:20代~60代の働く男女397人)
1979年の調査開始以来、50%を下回ったのは初めてだということです。
「出さない」と回答した人に理由を複数回答で尋ねたところ、
▽「LINEなどのメッセージアプリで代用」が61%と最も多く、
次いで、
▽「準備が面倒」が45.7%、
▽「フェイスブックやインスタグラムなどのSNSで代用」が32.7%
などとなっています。
”年賀状 やめます”をどう伝えるか 悩む人も
NPO法人の理事長を務める北海道旭川市の岩岡勝人さん(61)は、長年、仕事の関係者などと年賀状のやりとりを続けてきました。
多い年で300枚ほどを送り、5年ほど前から徐々に枚数を減らしてきましたが、物価高が続く中、年賀はがきの値上がりが最後の一押しとなって、年賀状をやめることを決断しました。
岩岡さんは近く、これまで送っていた人たちに年賀状をやめることをメールで伝えようと考えていますが、どのような文章であれば相手に失礼にならず、今後もつながりを保てるか悩んでいるといいます。
現在、文章を練っている段階で、「来年以降はSNSなどでつながっていただければうれしいです」という一文を添えた上で、フェイスブックや旧ツイッターのXなどのリンク先を掲載することを検討しています。
また、SNSを使っていない人たちには、年始に電話であいさつすることも考えているということです。
岩岡さんは「つながりが切れていくのがいやなので、やめるのは苦渋の決断でした。年賀状のやりとりだけの人とは今後、関係が保てなくなるかもしれないというのが一番苦しいです。そうならないように、いろんな方法を使って関係を続けていきたいです」と話していました。
手書きで気持ち 伝えるために年賀状続ける人も
東京・杉並区で、創業91年のコーヒー豆の専門店を営む中澤恒夫さん(84)は、妻の信子さん(77)と息子夫婦の4人で店を切り盛りしています。
中澤さんの店では、注文を受けた喫茶店などにコーヒー豆を発送する際に、手書きでお礼のメッセージを添えることにしていて、中には「いつもおいしいコーヒーをありがとうございます」などと手書きで返事をくれる人もいるといいます。
日頃、こうしたやりとりを大切にしている中澤さんは、毎年、信子さんとともに手書きにこだわって年賀状を送ってきました。
その理由について中澤さんは「ひと文字ひと文字をおざなりに書くのではなくて、『ありがとう』の『あ』の字に心を込めて書くので、LINEやメールとは違うと思います」と話します。
2人は現在、来年用におよそ200枚の年賀状を準備しています。
このうち50年以上の親交がある喫茶店の夫婦に向けた1枚には、信子さんが「あけましておめでとうございます」と書いた上で、中澤さんが「いつもご夫婦元気でおすごし下さい」とつづり、色鉛筆で梅の花のイラストを添えていました。
中澤さんは、「年賀状を書く時に一人ひとりの顔を思い浮かべることで、相手とつながっていると感じられるので、それだけで年賀状の目的は達成していると思います。『本当にありがとう』『元気でやっていこうね』という気持ちを込めて、これからも年賀状を続けたいです」と話していました。
負担感じつつも ”心を通わせる大切な文化” 続ける人は
千葉県我孫子市に住む元高校教師の江畑哲男さん(71)は、毎年、自身の近況をまとめた文章や干支のイラストを載せたオリジナルの年賀状をパソコンで作成しています。
その枚数は、毎年200枚ほど。
川柳が趣味の江畑さんは、年賀状に1句を添えるのをこだわりにしていて、ことしの年始用には、心臓の手術から回復し、新たなことに挑戦したいという気持ちを込めて、「リニューアルした心臓と仰ぐ富士」と記しました。
年賀はがきの値上がりによって家計への負担は感じていますが、来年以降も引き続き年賀状を出したいと考えています。
その大きな理由が、40年あまりの教員生活で出会った多くの教え子たちの存在です。
現役世代としてさまざまな分野で活躍する人や、すでに還暦を迎えた人など、年に一度、一人一人の近況を知り、つながりを確かめられる重要な機会になっているといいます。
江畑さんは「年賀状は互いに心を通わせることができる大切な文化だと思います。値上がりはしましたが、全国津々浦々に85円で届けられるので、これからも続けたいです」と話していました。
専門家は…
社会学が専門で、年賀状に関する著書もある東海大学の澤岡詩野 准教授に、年賀はがきの値上がりの影響について聞きました。
東海大学 澤岡詩野 准教授
「今のシニア層は年賀状を出す慣例の中で育ってきた人たちなので、やめるのは失礼ではないかと悩みながら続けてきた人もいます。今回の値上がりはみんなが納得する理由になるので、そういう意味でもやめるという決断をする人が少なくないのではないでしょうか」
年賀状をやめる際に大切にしたいポイントは
そして、年賀状をやめる際に大切にしたいポイントとして、澤岡准教授は、
▽これまでの送り先にはがきなどで伝える際に、相手を大切に思う気持ちやこれからもつながり続けたいという気持ちを表す一文を添えることや、
▽自分の電話番号やメールアドレス、SNSのQRコードやIDなど今後の連絡方法を明示することを挙げています。
そのうえで次にように話していました。
東海大学 澤岡詩野 准教授
「年賀状は本来、コミュニケーションの手段の一つで、出すかどうかは相手との関係性次第で自由に決めればよいと思います。年末年始に自分の大切な人たちを思い浮かべて、その人たちとどうつながっていきたいか、年賀状をきっかけにゆっくり考える時間にしていただけたら」
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