大分市神崎の大分マリーンパレス水族館「うみたまご」は今春、2004年に現在の施設が開館して以来初めてセイウチの繁殖に成功し、雌の赤ちゃんが誕生した。公募で「いちこ」と名付けられ、10月末現在、体長約130センチ、体重約147キロと順調に成長している。一般公開もされており、開館日には母の泉と館内を歩く姿が間近で見ることができる。
いちこは、泉と鳥羽水族館(三重県)で飼育されている父ポウとの間に生まれた。うみたまごによると、国内におけるセイウチの飼育数は約20頭。近年は国際情勢の悪化で輸入が難しくなっており、減少傾向にあるという。また、妊娠可能な排卵期が年に1度しかないため、一般的に繁殖が難しいとされる。
うみたまごには、成獣のセイウチが泉を含めて3頭いるが、すべて雌のため、19年から鳥羽水族館と連携。排卵期の2~3月ごろに約1カ月間、個体を貸し借りする「ブリーディングローン」を始めた。いわゆる「妊活」で、排卵期に雄雌を同居させて交尾を促す。
泉は19年から計4回、鳥羽水族館に出張。同年もポウとの間で妊娠が確認されたが、翌年流産した。他の雌も妊娠はするものの、死産が続き、10時間以上の移動を強いる出張に反対する声も上がったという。
そんな中、23年7月に泉の妊娠が判明。担当飼育員の沢田達雄さん(43)は前回が流産だったため、安産に導くことを決意。まず母体への負担を減らそうと、同10月ごろから来館客と触れ合うショーへの出演を減らした。
また、胎児向けに栄養をとろうと食欲旺盛になっていたため、時間をかけてエサを与えて満足感を高めたり、摂取カロリーを抑えるためにお湯を飲ませたりして体形維持にも努めた。
そして4月15日午前7時33分、体長約122センチ、体重約55キロでいちこは誕生。沢田さんは当時の思いを「僕らの使命は動物に最大限の敬意を表し、努力すること。しんどかったが、苦ではなかった」と振り返った。
沢田さんによると、いちこは怒ると口角が上がり下顎(したあご)を震わせる。感情が分かりやすく顔に出るところが「かわいい」と話し、「どこに行っても愛される存在になってほしい」と願う。個人的には、繁殖の確率を上げたいという目標があり、早くも「いちこの子供の顔が見たい」とほほ笑んだ。【山口泰輝】
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