円安と物価高で迎えた今年の大型連休。後半は天候に恵まれそうで、近場でのキャンプやバーベキューに出かける人も多いだろう。だが、食中毒のリスクを甘く見ると楽しい休日が暗転しかねない。
「慣れ」に潜むリスク
「キャンプを始めて8年、気が緩んでいたかもしれません」
4年ほど前、群馬県の藤井裕哉さん(35)は家族4人で2泊3日のキャンプを楽しんだ。数日後、妻が腹痛に襲われた。クリニックで出された薬を飲んだが痛みは治まらず、総合病院を受診した。
「出血寸前の状態です」。コンピューター断層撮影(CT)の画像で見た妻の大腸は腫れ上がっていた。腸管出血性大腸菌O111による食中毒と診断された妻は5日間、入院。軟便の症状があった藤井さんと長男も検査で陽性と判明した。
腸管出血性大腸菌は主に牛の腸に存在し、解体処理の過程で肉の表面に付着する。感染力や毒性が強く、死のおそれもある。
医師から、キャンプの食事が原因の可能性が高い、と指摘された藤井さん。食材の管理に思いが至った。
クーラーボックスに、ラップで包んでビニール袋に入れた冷凍肉を詰めてキャンプ場まで運んだ。
「肉は食べる時、完全に解けていた。同じやり方で問題がなかったので、これでいいと思い込んでいた」
藤井さんはこれを機に、保冷剤を多く入れるなどクーラーボックスの使い方を勉強し直したという。
バーベキューには豚肉が「最適」
消費者庁が2019年6月に実施したインターネット調査(有効回答2000人)によると、野外でバーベキューをした人の76%が食材や調理器具を自分たちで用意していた。
一方、食品や調理器具の扱い方を「学んだことがない」人は79%にのぼった。食事で自分や同行者が体調を崩した人は9%で、このうち2割は、症状が重かった。
食中毒の原因は、ウイルスや寄生虫もあるが、気温や湿度が上がる時期、注意したいのは細菌だ。保健所勤務が長い食品衛生アドバイザーの小暮実さんは、市販肉の半分に食中毒菌が付いているとされる鶏肉に注意をうながす。
「生焼けによるカンピロバクター食中毒が毎年報告され、まれにギラン・バレー症候群により手足がまひする後遺症も出ています」
これらを踏まえ、小暮さんは「バーベキューには豚肉が最適」と話す。野外は火の調節が難しいので、初心者は参考にしてほしい。
肉はジッパー付きの保存袋に
クーラーボックスに食材を詰める際、肉の入れ方には、注意が必要だ。ラップやビニール袋で他の食材と一緒にすると、肉汁が出て菌が野菜などに付着する。これを食べて発症する2次汚染の被害が後を絶たない。
アウトドアショップ「エルブレス」の三澤友康さんは「肉はジッパー付きの保存袋に入れてからクーラーボックスへ」と注意喚起する。
日本バーベキュー協会会長の下城民夫さんは自宅での下ごしらえを推奨する。肉は食べる大きさに切って下味をつけ、野菜もカットしておくといいという。
湧水(ゆうすい)による集団食中毒も起きている。川や沢の水について、下城さんは「飲むのはもちろん、野菜を洗うのも絶対にだめ。どんなにきれいに見えてもたくさんの菌がいます」。
また「生の牛肉は絶対に手で触らないで」と強く呼び掛ける。毒性の強い腸管出血性大腸菌が付着した手で食事をすると、菌が体内に入ってしまう。調理の際は、どんな肉でも「芯までしっかり火を入れる」が大原則。これを怠ると一気に食中毒のリスクが高まる。
三澤さんによると、トングが原因で腹痛になる人が毎年いる。複数のトングを用意して、生肉をつかむトングは、他の食材を触らないように区別する必要があるという。【磯崎由美】
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