4月29日、バトントワリングチームの元指導者小城桂馬容疑者(40)が、教え子だった高校3年生の男子選手(当時18)に、わいせつな行為をした疑いで逮捕された。警察の調べに対して容疑を認めているという。
この記事の画像(3枚)「日本バトン協会」の外部委員会の調査報告書では、元指導者の男が去年「指導者としての優越的地位」に乗じて、重大なセクシュアルハラスメントを3回行ったと認定されている。
また報告書によると、協会の前理事長は、男子選手から十分に話を聞かなかった上、容疑者と男子選手の「同意の上での事案」であったなどとして、当初は協会内で情報共有をしなかったという。その後行われた弁護士などによる調査に対し、バトントワリングチームの責任者で容疑者をよく知る人物も、”非協力的な態度”を取り続けたというのだ。 「被害者が、声をあげた、助けを求めたことは、本当はすごく難しいこと。よく話してくれたと、評価すべきことなのに…」 こう話すのは、子どもを性暴力から守る活動に取り組む、仙頭真希子弁護士。今回の事件を受け、子どもの性被害について聞いた。
■「被害者が助けを求めることができたのはとても大切」
子どもが被害を言い出すということはすごく難しいことです。周囲の大人は、そのことを踏まえ、子どもの話に真摯に耳を傾ける必要があります。同様の被害を受けた子どもが複数いることも十分想定されます。今回、被害者が「おかしい」と思って助けを求めることができたのはとても大切で、肯定すべき、評価すべきことです。 また、本件のように「子どもが同意した」と、加害者が主張することはよくありますが、「同意」というのは、互いの意思を尊重し合える対等なコミュニケーションの上に成り立つものなので、子どもと大人・指導者と生徒という上下関係がある中で、「真の同意」は得られません。特に、本件のように利害関係を有する指導者の立場にある大人に対して、子どもが対等に意思表示をすることは困難です。周囲の大人にそのような知識があれば、本件のように「同意の上での事案」として片づけられることはなかったはずです。
■学校や習い事の中での特殊性
学校や習い事の先生など、一定期間、関わり続けなければいけない相手の場合、被害を言い出せないことも多いです。被害を言い出すことによって、子どもの日常生活が壊れてしまうことを恐れ、子ども自身だけでなく保護者も、事が大きくなることを危惧して、動けなくなってしまいます。ですから、学校や習い事での上下関係は、セクハラや性犯罪の温床になりやすいと言えます。
■国語や算数と同じように 学校での「性教育」が重要
私は2017年頃から、各地の保育や学校などで、子どもや保護者・教員向けに性教育の講演を行ってきました。この数年で、保護者の間では認知度も必要性も広まってきたと感じています。色々な所で子どもの性教育の講座は広まっていますし、子ども向けの絵本もたくさん出ています。子どもの性教育に特化した保護者向け情報サイトなどもあり、「幼児期、児童期、思春期の男女それぞれへの具体的な向き合い方」といった必要な情報もすぐに手に入ります。 しかし、一方で、保護者によって意識にすごく差があることも実感しています。だからこそ、園や学校での教育が大事です。保護者の意識レベルにかかわらず、すべての子どもが、国語や算数を身につけるのと同じように、性教育も学べるようにしなければいけません。義務教育の間に、学校が「今後、生きていく上で大切なこと」を教えていくことが、とても重要だと思います。
■学校による差が大きすぎる現状
とはいえ、教育委員会、学校、地域、それぞれの差が大きいのが現状です。 去年、ジャニーズの事件がニュースになって、「男の子でも被害にあう」ということを、たくさんの人が認識しました。それを受けて内閣府が、去年9月に「男の子と保護者のための性暴力被害ホットライン」を開設しました。 私は小学生の子どものPTAからの連絡メールでそのことを知ったのですが、他の自治体の知人に聞くと見たことがないと言います。教育委員会に問い合わせると、「学校に伝えました」と。学校が出していないのか、出し方が悪くて周知されていないか、うまく伝わっていませんでした。私の所も、PTAのメールで保護者宛てに連絡がきただけで、子どもの目には触れていません。せっかくそういう窓口を作っても、子どもが実際目にして相談するまで至っていない。子どもたちに分かりやすい状態で伝わっていないのでは意味がありません。 これは一例であり、このようなことはたくさんあります。地域で積極的に取り組んでいる所もあれば、教育委員会によって学校によってバラバラだったりする。令和5年3月から、子どもを性犯罪・性暴力から守るための「生命の安全教育」が、全国の学校で本格的にスタートしました。ですから、本来はどこの学校もしっかりと取り組まなければいけないのですが、実際はできていない。ここに大きな課題があるのです。
■性教育は幼児の時から
性教育を始めるのに一番やりやすいのは、保育園ぐらいです。男女の身体の違いに興味を持つなど、子どもの正常な好奇心から来る行動が、大人の目に見えやすいので、そのチャンスをとらえてみんなに教える。また、この頃だと、弟や妹が生まれることも多いので、どうやって赤ちゃんができるのか、どこから生まれてくるのか、日常的に話題にして性教育ができるチャンスでもあります。 とにかく小さい内に、どれだけ教えられるか。そして、例えば「プライベートゾーンの話(水着で隠れるところ+口は、簡単に人に見せたりさわらせたりしてはいけない、写真に撮らせたり撮ったりしてはいけない)」や、「自分の体のことは自分で決めていけるのだよ」といった基本的かつ大切なことは、繰り返し繰り返し、小学校に入っても伝え続けることが大切です。 その上で、次のステップとして、「場面による被害(学校や部活、習い事といった所での、先生や上級生とのケース)」や「被害にあった時の対処法」を教えていく必要があると思います。
■声をあげることが特別ではない社会をみんなで作る
子どもたちが「言っても大丈夫なんだ。声をあげることは特別なことではないんだ」と思える環境を整えていかなければいけません。そのためにも、保護者だけでなく、社会全体で、この問題に興味を持って欲しいです。そして、ひとりひとりが、疑問に思ったら学校や教育委員会に積極的に働きかけていく、皆の力で子どもの性教育現場を変えていければと強く願います。 (仙頭真希子弁護士)
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