岩手県山田町の畑で、かつてIT企業に勤めていた男性が有機野菜を育てている。
「食の大切さに気づき、農家への転身を決意した」と話す男性が、13年前に新たな人生を歩み始めたその挑戦の軌跡と農業の未来への思いを追った。
岩手県山田町で野菜を生産している、宮古市出身のいわき農園の代表・岩城創さん(45)は、13年前から農薬や化学肥料を使わない有機農業で野菜を栽培している。
岩城さんは、「有機質の肥料を与えることで、甘さや旨味といった有機栽培ならではの特徴が出ると思う」と話す。
岩城さんの野菜を普段から食べている消費者からは、「甘くて、あくが少ないような感じがする」「甘みがあり美味しい」という声が聞かれた。
岩城さんは大学卒業後、仙台のIT企業に5年間勤めたが、自分探しのため訪れたオーストラリアでの旅を通して食の大切さに気づき、農家への転身を決意したという。
「食に対するありがたさ、大切さをすごく感じて、そこから食に対する興味が湧いてきて、農業をやってみようと思った」と岩城さんは振り返る。
2010年に岩城さんは農業用ハウス5棟を借り、10年以上耕作放棄された土地を再生させることから始めた。
農業経験が全くなかった岩城さんは、一関市内の野菜の生産を手掛ける会社で2年間研修を受け、そこで有機農業を学んだ。
有機農業を選んだ理由を「地球環境を守っていく上で、どういった農業をすれば貢献できるのかを考えたとき、有機農業をしようと決めた」と語った。
1年目に栽培した野菜は、ほうれん草と小松菜の2種類だった。有機農業では農薬を使わないため苦労もあった。
岩城さんは「例えば虫がついたりして出荷できないものが3割ぐらいは出ている」と話す。
しかし悪戦苦闘しながらも有機農業を続けてきた13年が経った今、農業用ハウスは30棟に増え、面積は50アールになった。
手がける野菜の種類もミニトマトやトウモロコシなど、2種類から現在は10種類まで増えた。
売上も順調に伸び、2023年度は約2500万円で、13年前の10倍以上となっている。
さらに3年前には法人化し、現在は従業員6人を雇用するまでに成長した。
一方で、岩城さんは農業に携わる担い手が減少していることに危機感を抱いている。
国の調査によると、2020年の農業の担い手は年々減少しており、2005年と比べると約半減している。
さらに年齢別で見ると、60歳以上が全体の約8割を占め、高齢化が急速に進んでいる。(出典:農林水産省「農林業センサス」)
岩城さんは「(人が増えないのは)農業がもうからない産業だと見られる。そこは事実の部分もあるので、きちんともうかる農業をすることで、『農業やってみたい』と思えるような仕事にしていかないといけない」と語る。
その取り組みの一つとして、岩城さんが2024年から本格的に始めたのが、家族連れなどに野菜を収穫してもらう体験イベントだ。
「収穫の喜びを分かち合って、少しでも子どもたちが農業に興味を持っていただく。そういった担い手対策につなげられればという気持ちもある」と岩城さんは話す。
この日のイベントには宮古地域から34組の家族が参加し、旬の大根や人参、ほうれん草の収穫を体験した。
さらに、山田町内の飲食店の協力で、採れたての野菜を使ったおすすめの料理も提供された。
参加者は、大根や春菊、白菜などの野菜がふんだんに入ったつみれ汁を味わった。
参加した家族からは「人参とか大根が甘かった」「子どもが興味を持っていろんな野菜を食べるようになってくれたら良いなと思う」という感想が聞かれた。
岩城さんは「野菜を作るだけじゃない、農業の魅力もいろいろ発信しながら、それを事業の中に取り入れていきたい」と語った。
はじめは野菜を作ることで精一杯だった岩城さん。
13年の歳月を経て、今は次世代へ希望をつなごうと農業の可能性を広げている。
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