このGW、テレビでは外国人観光客によるオーバーツーリズムを取り上げているのをよく見かけませんか?その深いワケとはーー(画像:bee / PIXTA)

ここまで今年のゴールデンウィークは、主に「自宅か近場」「猛暑」「混雑」という3つの観点から報じられてきましたが、なかでも際立っているのは「混雑」。しかも円安を絡めて外国人観光客にスポットを当てるケースが続き、「オーバーツーリズム」という切り口からの特集が増えています。

象徴的なのはテレビの情報番組。朝の「羽鳥慎一モーニングショー」(テレビ朝日系)や「めざまし8」(フジテレビ系)、午後の「情報ライブ ミヤネ屋」(読売テレビ・日本テレビ系)や『ゴゴスマ~GOGO!Smile!~』(CBC・TBS系)、夕方の「news every.」(日本テレビ系)や「Nスタ」(TBS系)、土日の「情報7daysニュースキャスター」(TBS系)、「サンデーモーニング」(TBS系)、「ワイドナショー」(フジテレビ系)など、ほとんどの番組で外国人観光客の多さや問題点を報じています。

特筆すべきは、これまでのようなインバウンドの経済効果をポジティブに扱ったものではなく、ネガティブなトピックスとして扱われていること。なかには、はっきり「観光公害」と言うコメンテーターもいますが、なぜゴールデンウィークにこのような報じられ方をされているのでしょうか。

自宅で過ごす人の多い今年のGW

まず前提としておきたいのは、「今年のゴールデンウィークは自宅で過ごす」という人が多いこと。

「ミヤネ屋」などでは、「GWは自宅で過ごす人」が約半数の46.8%(昨年から5.2%増)に上がり、「GWの予算」は2万9677円(昨年から9617円減)に下がったという明治安田生命のアンケートを紹介していました。これは自宅で番組を見ている人に「自分だけではない」「今年は仕方がない」などと留飲を下げてもらうための構成でもあります。

自宅で過ごす人が多い最大の理由は、物価高や円安の影響。金銭面の不安から海外旅行を控え、外出したとしても近場に留め、さらに猛暑も加わって、「自宅で過ごそう」という人が増えているようです。

日ごろから情報番組が重視しているのは、視聴者に寄り添うような切り口を選んで放送すること。かつてのような開放感のあるゴールデンウィークなら、人気のスポットや空港、ターミナル駅、サービスエリアなどと中継で結び、インタビューで楽しげな声を拾うなど、ポジティブなムードで放送するでしょう。また、渋滞や行列などの一見ネガティブな情報も、当事者の苦労を伝えつつ、笑いを交えてなごやかなムードでリポートするのが定番で、これは自宅でテレビを見ている視聴者への配慮でした。

しかし、今年のような物価高や円安の影響をもろに受けて閉塞感のあるゴールデンウィークで求められるのは、視聴者にとってガス抜きになるような切り口。「円安の影響で国内の観光地はにぎわっている」というポジティブな切り口ではなく、「地元住民はオーバーツーリズムに困惑している」というネガティブな切り口が採用されやすくなります。

「出かけなくてよかった」の安堵

とりわけ「海外旅行などの大型連休らしい遠出を我慢した」という人は、物価高や円安、引いては賃金が上がらないことなどへの不満を抱えているため、フィットするのは具体的な問題点をあげる構成・演出。

たとえば、各番組で「国土交通省は混雑緩和のため、江ノ島電鉄の鎌倉駅―長谷駅間の徒歩移動を呼びかけ、鎌倉駅周辺に誘導員を配置し、地図を配っている」というニュースが頻繁に扱われています。

先日の「Nスタ」では、「混みすぎてスマホの電波が入らない」「満員で江ノ電から全く景色が見えなかったよ」「普段の週末でも人が多い。今年は恐怖」というSNSに書き込まれた悲鳴のような声を紹介していました。

もちろん問題提起という意味合いはあるものの、制作サイドとしては「自分はこの人たちより、まだいいほうかもしれない」というホッとした気持ちにさせたいところもあるものです。

一方、裏番組の「news every.」では、江ノ島電鉄だけでなく、京都市の路線バスもピックアップ。「外国人を中心に観光客が増えたことで地元住民が乗れない」という事態が発生していることを紹介しました。また、京都市交通局が主要観光地を結ぶ観光特急バスの休日限定運行を決定したものの、スタートは6月でゴールデンウィークには間に合わないという情報も、自宅に留まる視聴者に「出かけなくてよかった」と思わせられるものです。

その他の番組でも、オーバーツーリズムの弊害として、国内ホテルの宿泊料金がインバウンドの影響で高騰していることや、ゴミや騒音、道路横断などの交通ルール違反、私有地への不法侵入、環境破壊などをストレートにピックアップ。「地元のキャパシティを超えた観光客が押し寄せる」ことの危うさや、「地元住民の生活を守らなければいけない」という状況をわかりやすく伝えていました。

このように外国人観光客で混雑する観光スポットの映像をたっぷり見せて、自分の現状を肯定してもらうことは重要なポイントの1つ。これまではその象徴が渋滞の映像でしたが、今年はオーバーツーリズムの映像に変わった感があるのです。

ただ、ほとんどの番組はオーバーツーリズムの現状を紹介するだけで、解決方法を掘り下げようとはしません。これは家でテレビを見ている人の多くは直接的な被害者ではなく、解決方法にはさほど関心がないからでしょう。

今年はキャスターが自虐しない理由

ちょっと面白いのは、情報番組のキャスターやコメンテーターが例年のような自虐的なコメントをあまり言わないこと。

例年ゴールデンウィークの混雑や渋滞などを伝えるとき、キャスターやコメンテーターたちはお決まりのように、「われわれは仕事ですが……」などと自虐して笑いを誘おうとしますが、今年はほとんどありません。それは「番組を見ている視聴者が、仕事でこそないものの、さほど遊んでいるわけではないから」ではないでしょうか。

オーバーツーリズムが特集されるその他の理由としては、前述した鎌倉や京都などのように「外国人観光客が集まるところは名所であり、視聴者の認知度が高く、映像としても映える」という制作上のメリットもあります。美しい景色と大勢の外国人というコントラストは映像として面白く、彼らが混雑の中でも日本を楽しむ姿を見て誇らしさを感じる視聴者もいるでしょう。

さらに、なぜ外国人観光客は日本のこの場所を選んだのか。そこでどんな思い出ができたのか。オーバーツーリズムになるほど外国人観光客が増えたことで、「家族やカップルの悲喜こもごもが見られるショートドキュメンタリーとして楽しんでもらおう」という意図もあるようです。

滞在費用の安い都市になった東京

イギリス・ホリデーマネーレポートの「滞在費用の安い観光地ランキング(対象は世界40の観光地)」で東京は4位という結果を紹介するメディアも多々ありました(1位がベトナム・ホイアン、2位が南アフリカ・ケープタウン、3位がケニア・モンサバ、5位がポルトガル・アルガルヴェ)。「東京がこの中に入るのか」とショックを受けた人もいるのではないでしょうか。

「ニュースキャスター」では、外国人観光客によるバスの貸し切り、ヘリコプターのチャーター、新幹線のグリーン席を占拠状態などの羽振りのよさを紹介。さらに、今年2月にオープンした豊洲の「千客万来」を訪れた日本人と外国人が使った金額の格差をピックアップしていました。寿司を思う存分食べたアメリカ人に対して、「(高いから)お腹いっぱいにならなくてコンビニの菓子パンを食べた」という日本人の声を取りあげていたのです。

決して外国人観光客が悪いわけではないことはわかっているけど、どこか怒りにも似たやり切れないものを感じてしまう。国内に留まり、外国人の姿を見る機会が多い今年のゴールデンウィークは、情報番組がそんな思いを共有する場として提供されているのでしょう。

住民と観光客が共存できる環境整備も求められている

基本的にオーバーツーリズムの判断基準は、「観光客が地元住民の利益になるかならないか」。もし観光客が増えたことで不利益を被る地元住民が増えたら、個人対応では限界があり、自治体と連携して適切な対応を取っていきたいところ。大阪府では外国人観光客からの徴収金を検討しているように、地元住民と観光客が共存できる環境の整備が求められ始めています。

ただ、徴収の基準や金額設定、事務手続き、在日外国人の対応、「差別にあたる」という反対などのハードルがあり、地元に還元するまでの仕組み作りは簡単ではないでしょう。

ともあれ、地元住民の救済と観光資源の保護は急務になりつつあり、トイレや案内板といったインフラの整備など、課題は山積しているように見えます。できれば情報番組には視聴率獲得に向けた煽情的な切り口だけでなく、これらについても掘り下げてほしいところです。

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