来店者にコメの特徴などを説明するOKU陽介さん(左)=「AKOMEYA TOKYO」名古屋ラシック店で

◆店舗で対人販売

 首都圏など全国24店舗でコメを中心に販売する「AKOMEYA(アコメヤ) TOKYO」。若者でにぎわう名古屋・栄の商業施設にある店舗で店長のOKU陽介さん(45)は「島根県飯南町産のコシヒカリは歯応えが良くて、出雲大社(同県出雲市)に奉納されている」と説明した。耳を傾けた女性は「ご縁がありそう」と商品に手を伸ばした。  店内では全国各地の約25品種を2合分(300グラム)ずつ立方体の真空パックに入れて並べている。一般的な5キロ、10キロといった販売量より少量にし、品種の食べ比べがしやすいようにした。手のひらにのるさいころ形のパッケージに顧客の心も躍る。贈答用としてのニーズもあるという。「産地の努力や工夫といったストーリーを伝えることで消費者が共鳴し、コメへの思いがつながる社会をつくりたい」  店では2~4月、おにぎりに向くとして数量限定で仕入れた滋賀県長浜市西浅井町産の「いのちの壱」が注目された。大粒で炊きあげると香りが良く、もちもちした食感が特徴。「ユニークな取り組みをしている生産者です」とOKUさんは薦めた。パッケージには「RICE IS COMEDY」の文字。「コメ作りは喜劇だ」との意味だという。興味が湧き、産地を訪ねた。

◆レンゲ農法 守る

レンゲが満開となり準備が整った田を見つめる清水広行さん=滋賀県長浜市で

 「汗水垂らして大変、みたいな稲作のイメージを変えたい」。市内の兼業農家でつくる「ONESLASH」の社長、清水広行さん(37)は言う。そう願ってパッケージに記した一文は、10ヘクタールでコメを作る会社の農業部門の名称にもなっている。  かつてスノーボードの選手として活躍した清水さんは、各地を回る中で故郷のコメは全国でも勝負できると感じていた。過疎化で耕作を続ける人が減ったため、16年に実家の建設会社で働きながら稲作を始めた。  当初から田植えや稲刈りなどの体験会を開催。その様子を動画で配信したり、イベント会場などに出向いたりしてファンを増やした。主食用の稲作以外にも、コメ由来のバイオマスプラスチック「ライスレジン」を活用した事業や、地域の空き店舗の活用といった不動産事業などに取り組む。多くの機会で知り合った人を巻き込み、新事業で故郷を元気にするためだ。  清水さんたちの田は、毎年春にレンゲ畑になる。根の部分に植物が育つための養分を蓄えるためだ。花ごとすき込めば、土が肥える。4月下旬、田んぼは紫のレンゲの花が満開だった。今年も田植えの準備は整った。  「かつて土地や藩の経済力をその収穫量で示したように、日本人にとってコメは貨幣と同じ。まさにアイデンティティーだった」と清水さん。「その大切さを、多くの人に再認識してもらいたい」と語る。  コメの味やその産地を守りたいと願う人と、その思いを遠く離れた消費者に伝える人。日本の主食を将来につなぐ、人の輪ができつつある。 (藤原啓嗣)

◆パックご飯 高まる需要

 コメ自体の消費量が減り続ける一方、電子レンジで温めて手軽に食べられるパックご飯の需要は伸びている。共働きや単身の世帯が増え、かつての非常食という位置付けから、日常的な食べ物へと変化している。  パックご飯は、コメを殺菌してから炊き無菌包装する「無菌包装米飯」と、コメを容器に入れて炊いてから殺菌する「レトルト米飯」の2種類に分かれる。農林水産省によると、この二つを合わせた生産量は、1999年に約7万トンだったが、昨年は3.5倍の約25万トンで過去最高になった。  年間1億1500万食を製造するウーケ(富山県入善町)の花畑佳史社長(54)は、「ニーズに追いつかない状態」と話す。きっかけは、東日本大震災という。備蓄用として注目され、賞味期限前に食べた分だけ買い足す「ローリングストック」も定着。さらにコロナ禍で、巣ごもりや在宅療養者に向けての需要が高まったという。花畑社長は「一日でも早く製造ラインを増設し、コメの消費減を食い止めたい」と話す。 (石川由佳理)


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