はなまるうどんやロッテリアなど、渋いチョイスが魅力のイトーヨーカドー武蔵小金井店のフードコート(筆者撮影)時にレストランであり、喫茶店であり、高齢者の集会所にもなる「フードコート」。その姿は雲のように移り変わりが激しく、楽しみ方は無限大。例えるなら「市井の人々のオアシス」だ。本連載では、そんな摩訶不思議・千変万化な「フードコート」を巡り、記録しながら、魅力や楽しみ方を提唱していく。第2回はJR中央線・武蔵小金井駅にある「イトーヨーカドー」のフードコートを訪れる。

「ムサコ」と聞いて、何を思い浮かべるだろうか。再開発によって多くのタワーマンションが林立し、20年ほどで人口が6万人も増えた神奈川県川崎市は中原区の駅「武蔵小杉」はその筆頭であろう。JRの複数路線と東急線が乗り入れていることから交通の便が良く、「住みたい街」としての人気が高い、非常にブランド力のあるエリアだ。

武蔵小杉に乗り入れているJR東日本と東急電鉄のそれぞれにもまた、ムサコは存在する。

そのうちの一つが、東急目黒線の駅、武蔵小山。東京都品川区に位置する。大規模なアーケード商店街の「パルム」があり、品川区という都心部ではあるものの、子育てのしやすさなどから根強い人気を得ている。

そして最後のムサコが、今回訪問するフードコートのある、武蔵小金井である。

【画像】JR中央線・武蔵小金井にあるイトーヨーカドーのフードコートはまさに「市民の憩いの場」だった…街とフードコートの様子を見る(32枚)

中央線の中でも、緑とファミリーの街

武蔵小金井はJR中央線の駅で、東京都小金井市にある。ここまで紹介した2つのムサコが東にあったのに対して、西のムサコとでも呼ぼうか。

「西のムサコ」武蔵小金井をさまよう(筆者撮影)

中央線といえばカルチャーの雰囲気がムンムンと漂う路線であり、アーティストや芸人などが住んでいることも多い。特に中野~三鷹辺りは若者を吸引して離さないブラックホールのような区間である。

ただ、その中央線も三鷹から西に進むと、様相がやや変わる。武蔵境、東小金井、武蔵小金井はそれより東の駅とは違い、ファミリー向けという印象が強く、緑も多い。武蔵小金井はその代表格だろう。

通勤ラッシュ時の混雑が激しいことで知られる中央線だが、始発電車がそこそこ多く出ている点からも人気が高い。

中央線でイメージする雑多な街とは異なる印象だ(筆者撮影)

緑でいえば、武蔵小金井の周辺エリアは桜の名所として知られる。公益財団法人東京都公園協会によると、江戸幕府8代目将軍・徳川吉宗の時代に、玉川上水の両岸にヤマザクラの植樹がなされ、花見が奨励されたという。

市井の人は、甲州街道や五日市街道を歩いて桜を見物、府中宿に泊まってまた翌日は歩いて帰る、といったコースが定番だったとされる。

駅を出てすぐ、緑が広がる(筆者撮影)

以降も小金井エリアは桜の名所として知られ、1924年に花見用の臨時乗降場として開業したのが、現在の武蔵小金井駅のルーツである。その後、正式な「駅」に昇格したのは1926年だ。

駅周辺にはいくつもの大規模な公園がある(筆者撮影)

周辺で桜の名所として知られるのは小金井公園だが、それ以外にも公園が充実している。駅前の案内板では5つの公園を紹介しており、腹ごなしにいくつか回ってみることにした。

もう桜というにはやや遅いし、小金井公園に行くのは芸がない。そこでまず、都立野川公園へ。

色褪せ加減に味がある、野川公園の案内図(筆者撮影)

テニスコートやバーベキューができる広場に、ただただ広い原っぱ。公園に対する「この要素、あってほしい」が詰まった空間が広がる。

とにかく原っぱが広い(筆者撮影)

アヒル、ニワトリ、カメを散歩させる人に遭遇

何をするでもなく歩いていると、アヒルとニワトリ、カメを散歩させている人がいた。人間に慣れているのか、近付いても逃げずに触らせてくれる。ニワトリのとさかなんて生まれて初めて触ったかもしれない。武蔵小金井の、懐の深さを感じる瞬間となった。

四季折々の野草や野鳥、昆虫を見られる自然観察園(筆者撮影)一歩踏み入れると緑と静けさに包まれる(筆者撮影)

せっかくなので、もう一つ、同じ都立の武蔵野公園へ。野川公園は、比較的自然をそのまま民草に開いたような公園という印象を受けたが、こちらはまず「武蔵野の泉」という大きな噴水がお出迎え。

まるで遺跡のような武蔵野の泉(筆者撮影)

夏場であれば小さな子どもたちが水遊びしていそうな場所だが、まだ4月末ということもありうら寂しい。こちらも小規模ながらバーベキュー広場がある。野川沿いにはツツジが植えられており、曇り空でも赤が映える。

さて、腹ごなしも済んだので駅に戻り、フードコートへと向かうことにしよう。

「ドンキ」の北と「高級スーパー」の南、印象は対照的

今回訪問するのは、武蔵小金井駅南口のイトーヨーカドーにあるフードコート。武蔵小金井駅は北口と南口で見える景色が違う。

北口から出たところで1枚。左のほうにドン・キホーテ(筆者撮影)

北口から外を見ると、何より空が広い。南口と比較して高層のタワーマンションがほとんどないのだ。すぐ見えるところにドン・キホーテもある。高級スーパーの三浦屋や成城石井が営業している南口とは好対照だ。

一転、南口は高層マンションが目立つ(筆者撮影)

イトーヨーカドー武蔵小金井店は2009年にオープン。再開発の目玉的な施設の一つであり、フードコートがある4階にはベビー用品店のアカチャンホンポが入居していたり、「こどもトイレ」があるなど、ファミリー向けを意識している印象を受ける。

2009年にオープンしたイトーヨーカドー武蔵小金井店(筆者撮影)

余談だが、エスカレーターのあまりの遅さには驚かされた。

フロアマップはこんな感じ(筆者撮影)

フードコートも当然にファミリー層が多い。それも、赤ん坊連れが目立つ。

通常のソファ席やカウンター席だけでなく、赤ん坊を寝かしながら食事もとりやすい、座敷席のようなものもあるのが特徴的なフードコートだ。

本連載の初回で訪れた、神奈川県・川崎市の溝口のフードコートでは、見なかった光景である。その街を表す、フードコートならではの違いを感じる。

席でいえば、カウンター席にはコンセントをそろえていて、そこでは「コンセント ご自由にお使いください。パソコン・ゲーム機・携帯電話等」と書いてあるにもかかわらず、至るところに「『飲食』以外のご利用は、ご遠慮ください 勉強・ゲーム・会議禁止デス」という掲示があって困惑する。

「おっ親切!」と思いきや(筆者撮影)赤と黄色、極めて目立つ色で「禁止デス」とくぎを刺す(筆者撮影)

「禁止です」ではなく「禁止デス」。「禁止death」ではなかったのでまだよかったが、とはいえ「デス」と言われると、私としてはややギョッとしてしまった。

が、その警告もむなしく、カウンター席で充電しながら寝ている人もいれば、動画を楽しんでいる人もちらほらといた。ま、ドリンクは注文していたようだし、この日は満員ではなかったので、店員さん的にも「大丈夫デス」なのだろう。

定番の顔ぶれが揃う

フードコートで営業しているのは「築地 銀だこ」「ロッテリア」「はなまるうどん」「ペッパーランチ PLUS」「ミスタードーナツ」「サーティワンアイスクリーム」「東方餃子坊」「リンガーハット」。ファストフードにおやつ、麺類に中華といった、定番のラインアップがしっかりそろっている。

定番のラインアップ(筆者撮影)

ここで私が気になったのは、はなまるうどんとロッテリアである。

まず前者について。フードコートの4番打者といえば麺類、中でも安価で、待ち時間が基本的になく、その場で受け取れるうどんはその中でも「3割40本120打点」。要するに最強のポジショニングにあると私は考えている。

そしてそのうどんの絶対王者といえば、丸亀製麺。フードコートで目にする機会も多いが、一方ではなまるうどんはそう多くないような……。調べると、近辺のイトーヨーカドー内フードコートにははなまるうどんがよく出店しているようだ。

やっぱりうどんは大人気(筆者撮影)

同様に、ファストフードもフードコートの定番。そんな中でマクドナルドでもケンタッキーフライドチキンでもモスバーガーでもなく、ロッテリア。

渋い。もちろんはなまるうどんもロッテリアもダメだというわけではない。とにかくチョイスが渋い、そう感じたのだ。いうならば「つなぎの4番」のような……。

ファストフードとしては渋めのチョイスである、ロッテリア(筆者撮影)

その他に面白いと思ったのが、謎の中華店である東方餃子坊。フードコートの中華・餃子では際コーポレーションの「紅虎餃子房」などを目にすることが多く、一方の東方餃子房は見たことがない。

フードコートには珍しい、サンプルがズラリ(筆者撮影)

調べても運営会社は出てこないし、どうも三重のイオンモールに同名の店があることしかわからない。

メニュー構成も異様に多い(筆者撮影)

それでいて、フードコートとしては珍しく食品サンプルがあったり、豊富すぎるメニュー構成に加えて弁当の販売もしているなど、かなり気合が入っている。何ともまた渋い店といえよう。

はなまるうどんとロッテリア、つなぎの4番を楽しむ

今回選んだのは、渋さに惹かれてロッテリアとはなまるうどんの2つ。子どもを連れてちょいと散歩、その道中で食事といったイメージで。ロッテリアは比較的すぐに注文して商品を受け取れたものの、やはりうどんの人気は根強い。フードコート内を見渡しても、随一の盛況ぶりだ。

ロッテリアで注文したのは、絶品ビーフバーガーセット。セットはあえてポテトではなく「チキンからあげっと」を選んだ。ハンバーガーを食べたいなと思っても、なかなか街中でロッテリアを見かけることは少ない。

ここぞとばかりに頼んだ絶品ビーフバーガーは、ビーフよりもソースのパンチがかなり効いていて大人な味。一方のチキンからあげっとは肉が柔らかく、子どもでも食べやすそうだと感じた。

いつ以来だろう、ロッテリアのハンバーガー(筆者撮影)

はなまるうどんでは、冷かけと天ぷらを2種類。うどんは何を選ぶかによって、かなり価格の柔軟性が高いのが強い。そして、うどんに天ぷらやおにぎりを付けて豪勢にしても、安い。

ただ注文するだけでなく、天ぷらを自分で選んで取れるのもエンタメ要素があり、人気が出るのも納得だ。うどんを大盛りにすれば、取り皿で子どもに取り分けてコスパ良く済ますこともできる。

安定のうどん おたまが本格的な感じでちょっとうれしい(筆者撮影)

散歩でやや疲れた体に、つゆの冷たさと、いりこだしの効いた塩分が染みる。大ぶりなとり天も食べ応えがあってうれしい。

おやつはやっぱりミスドで

せっかくだから、おやつもいただこう。私とフードコートの延長戦だ。

さて、アイスかドーナツか……賑わいに釣られてミスタードーナツを選択。ミスタードーナツのドーナツに、ロッテリアのセットで購入したアイスコーヒーを合わせる。こうしたエキシビションも、フードコートならではの風景といえるだろう。

ミスドmeetsロッテリア(筆者撮影)

食事とおやつを終えて一服、「デス」が怖いので早々にフードコートを後にした。長居するのもフードコートの醍醐味だが、武蔵小金井は街歩きに適している。小腹をすかせに、また散歩しよう。もうさすがに、ニワトリは帰宅しているだろうけれど。

カラフルな座敷席。(この日に関しては)意外に利用者は少ないようだった(筆者撮影) 武蔵小金井周辺やイトーヨーカドー・フードコートの他の写真 前へ
  • JR中央線・武蔵小金井駅

  • 改札はこんな感じ

  • 周囲には背の高いマンションが結構建っている

  • 周囲には公園が充実

  • 心落ち着く風景だ

  • イトーヨーカドーの外観

  • 定番、ゆえに最強である

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