ハリウッド製作陣による真田広之主演ドラマシリーズ「SHOGUN 将軍」(全10話)がディズニープラスの「スター」で独占配信中(画像:© 2024 Disney and its related entities)この記事の画像を見る(6枚)Netflix、Amazon プライム・ビデオ、Huluなど、気づけば世の中にあふれているネット動画配信サービス。時流に乗って利用してみたいけれど、「何を見たらいいかわからない」「配信のオリジナル番組は本当に面白いの?」という読者も多いのではないでしょうか。本記事ではそんな迷える読者のために、テレビ業界に詳しい長谷川朋子氏が「今見るべきネット動画」とその魅力を解説します。

「関ヶ原の戦い」前夜の謀り事

真田広之が主演し、ハリウッドが日本の戦国時代を扱ったドラマシリーズ「SHOGUN 将軍」の全話(10話)が4月23日、Disney+ (ディズニープラス)に出揃いました。本国のディズニーが作ると、日本を舞台にした時代劇が古くて新しいものになる。まさにそんな作品です。映像クオリティが極めて高く、見応えは抜群。たとえハリウッド仕込みの歴史ドラマを見慣れていなくても案外ハードルは高くありません。濃密な人間ドラマにリアリティがあるからです。

時は1600年。歴史上の人物にインスパイアされた登場人物たちが「関ヶ原の戦い」前夜、壮大な謀りを巡らすというストーリーは、ジェームズ・クラベルの小説「SHOGUN」が元となっています。

物語は、それまで日本を統一していた太閤がこの世を去り、諸国が5人の大老によって治められているという設定から始まります。関東地方を治める大名が、真田広之が演じる主人公の吉井虎永です。虎永は窮地に⽴たされるも戦術は「自ら動くな。敵がしくじるまで待て」というもの。徳川家康をモデルにしています。

真田演じる虎永の家臣・按針は物語のもう1人の主人公。ハリウッドで活躍するコズモ・ジャーヴィスが演じる(画像:Courtesy of FX Networks)

もう1人の主人公が外国船で漂着した英国人航海士ジョン・ブラックソーンです。虎永と出会ったことで虎永の家臣となり、按針(アンジン)と呼ばれます。演じているのはアメリカで活躍する演技派俳優のコズモ・ジャーヴィスです。

ヒロインとして登場するのは、キリシタンで通詞を務める戸田鞠子という人物。この時代にしては英語の言語能力が高すぎますが、謀反⼈の娘としての宿命を背負い、自分を押し殺して生きている様が何より印象的に映ります。明智光秀の娘である細川ガラシャがモデルです。

ヒロインの鞠子は明智光秀の娘である細川ガラシャがモデル。国際作品の出演が続くアンナ・サワイが抜擢された(画像:Courtesy of FX Networks)

数年前に活動拠点を日本からアメリカに移したアンナ・サワイがこの役に抜擢されています。イギリスBBCとNetflixが共同制作したヤクザものドラマ「Giri / Haji」や在日韓国人の家族を描いたApple TV+のドラマ「パチンコ - Pachinko」など高い評価を得る国際作品の出演実績があるなか、ヒロイン役は今回が初めてです。

存在感光る「二階堂ふみ」と「浅野忠信」

かつて同じ原作をもとに1980年にもアメリカ4大ネットワークのNBCでドラマ化され、虎永役を三船敏郎が、鞠子役を島田陽子が演じましたが、今回の「SHOGUN 将軍」はこれをリメイクしたものではありません。ディズニープラスの「スター」ブランドのオリジナルドラマとして新しく作られ、キャラクターの作り込みは旬な海外ドラマそのものです。

映画「トップガン マーヴェリック」の原案を手掛けたジャスティン・マークスなどが製作総指揮を手掛け、ドラマ賞レースの常連プロダクションでディズニーグループのFXが製作しています。日本を舞台にした作品ということで、主演の真田をプロデューサーとして迎え入れてもいます。

ザ・家康物語というわけではないのが本作の面白さとも言えます。虎永と按針、そしてこの2人の運命のカギを握る鞠子が中心人物として展開されますが、脇を固めるキャラクターひとりひとりの腹黒さや嫉妬心、覚悟を決めた瞬間や本音をふと語る表情まで描き切っている点が光ります。上質なキャラクター合戦をより堪能できるでしょう。アメリカHBOの超ヒット作「メディア王 〜華麗なる一族〜」を彷彿とさせます。

淀殿をモデルにした太閤の側室・落葉の方は人気女優の二階堂ふみが好演する(画像:Courtesy of FX Networks)

注目キャラクターの1人目は大坂城の城主でもある五大老のひとりで、石田三成がモデルの石堂和成。海外でも名を上げる平岳大の演技力もあって、憎たらしくも政治力のある石堂に惹きこまれます。2人目は淀殿をモデルにした太閤の側室・落葉の方です。ドラマ「VIVANT」に「Eye Love You」と国内人気作に出ずっぱりの二階堂ふみが存在感ある演技で魅せます。悠々と句を詠むだけでなく、鋭い眼光で乱世の動きを読む姿がハマっています。

浅野忠信が演じる虎永の家臣・藪重は視聴者目線のキャラクターだ(画像:Courtesy of FX Networks)

そして、3人目は浅野忠信が演じた虎永の家臣の樫木藪重です。流れの読み方は浅くも、小賢しく動き回り、根は悪くない人間味のある人物像の作り込みはさすがです。浅野の藪重の視点で物語を追っていくと、虎永が形勢逆転できた理由まで納得でき、最後の最後までより楽しめるはずです。視聴者目線のキャラクターとして浅野の役柄に重要な役割を持たせています。

主演の真田以外の日本人の役者のキャスティングは、日本側で行われたこともあって、⻄岡德⾺をはじめ馴染みのある役者から注目新人まで出演していることも受け入れやすくしています。

海外視点の解釈に寛容さが必要だ

一方、史実にはない間違い探しをする見方もあるでしょう。登場人物のモデルはあくまでもモデルであって、そこにとらわれずに見ることをオススメします。そもそも日本の乱世を海外からの視点で切り取っている物語なのです。アメリカをはじめ、海外の視聴者を意識して作られていますから、解釈の仕方に多少の寛容さが必要そうです。

主演の真田は自身初のプロデューサー業も兼任し、製作陣から絶賛される(画像:Courtesy of FX Networks)

むしろ日本人の精神や死の捉え方、自然観を強調したせりふや演出に新鮮味を覚えます。「そなたは己の務めを果たす覚悟はできておるのか?」と真田がすごみのある表情で言い放つせりふは、死をも伴う忠誠心を問うものであることを伝え、また地震の描写では倒壊した家を何度でもすぐに再建できる力があることを映し出しています。本音を隠しがちな日本人を理解するために通詞の鞠子が按針に「耳ではなく、心で聴く修行をなさいませ」と言うせりふなどは、日本が神秘的な国として捉えられていることを表しています。

製作したディズニーグループFX会長のジョン・ランドグラフ氏に直接話を聞くと、日本の歴史ドラマを扱うにあたって900ページに及ぶマニュアルが作られたことがわかりました。役者からスタッフまで全員がそれに目を通したそうです。「完璧主義者とも言える真田さんのこだわりもあって、細部にわたって、誠実に表現した。フェイクではないものを感じてもらいたかった」とも語っていました。

所作などの細かい部分で意外と大きな違和感が生まれますから、その辺りはできる限り注意を払ったことが劇中からも伝わってきます。

公式の発表によると、2月27日の配信開始直後、6日間で900万回再生され、一般ドラマ部門で歴代1位の視聴記録を作り出しています。重要視される初動の数字が成功したことは大きいでしょう。トルコなど他国では歴史ドラマを入り口に海外の視聴者の興味が現代劇にまで広がった事例もあることから、「SHOGUN 将軍」が作った実績に日本を舞台にしたドラマの今後にポテンシャルを感じたくなります。

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