トンボ飲料のシャンメリーは、ひねって開栓できる=大阪市北区で2024年12月9日、村田貴司撮影
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 クリスマスパーティーに欠かせない飲み物として愛されている「シャンメリー」。子どもも大人も一緒に楽しめるノンアルコール飲料で、「ポン」という開栓音が、ワクワクする気持ちを高めてくれる。でも、なぜクリスマスにシャンメリー? その歴史をひもといた。

 イルミネーションが輝き、クリスマス関連の商品が街を彩る12月。大阪市港区の「MEGAドン・キホーテ弁天町店」の売り場にも、お菓子などとともにシャンメリーが並んでいる。子どもに人気のキャラクターが描かれたりカラフルだったり。さまざまなパッケージがクリスマスムードを盛り上げている。

 シャンメリーは日本独自の飲料。販売シェア日本一(ということは世界一!)で、1965年から製造する「トンボ飲料」(富山市)の翠田(みすた)章男社長に話を聞いた。

「トンボ飲料」などのシャンメリーが並んでいる売り場=大阪市港区の「MEGAドン・キホーテ弁天町店」で2024年12月10日、水津聡子撮影
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 シャンメリーの誕生は、戦後間もない47年。進駐軍が楽しげに飲んでいたシャンパンをヒントに、「安価で多くの人にとって手が届きやすい飲み物を」と、東京の飲料業者が考案した。

 「ソフトシャンパン」と呼ばれて人気を集め、トンボ飲料など全国の企業が参入した。当時は夜の飲食店の需要が中心で、大人向けの商品だった。「ノンアルコールですので、お父さんが家へのお土産にもしたそうです」

「シャンパン」使用禁止きっかけ

 クリスマスパーティーの定番となったきっかけは66年、当時勢いがあったダイエーで売り出されたことだ。当時トンボ飲料の社長だった翠田康志さんが、クリスマス向けの販売を持ちかけた。

 ダイエー側も「面白い」と話に乗り、お菓子が入ったブーツなどと一緒に売り場に陳列されるように。子どもも一緒に乾杯できる飲み物として、広く家庭で飲まれるようになった。

 フランス政府から「シャンパン」の名称の使用禁止を求める動きが起こり、72年に「シャンパン」と「メリークリスマス」を組み合わせたシャンメリーに改称。76年には全国シャンメリー協同組合が「シャンメリー」を商標登録した。シャンメリーの「メリー」は「メリークリスマス」が由来なんですね。

栓に込められた歴史

トンボ飲料のシャンメリーのビンには「CHANMERY」の刻印がある=大阪市北区で2024年12月9日、村田貴司撮影
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 ところで、シャンメリーの定義って何ですか? 「ポンという開栓音がして、ビンに刻印がある炭酸飲料だけが『シャンメリー』を名乗ることができるんです」と翠田社長が解説してくれた。

 現在、全国シャンメリー協同組合の加盟社は21社。中小企業を守る「中小企業分野調整法」により大手企業の参入は規制されている。

 そういえば、子どものころ浮かれてビンを振ってから開栓し、ふたと中身を天井まで飛ばしてしまったことがあって。今となっては笑い話ですが、当時は天井に残るしみを見るたびに、心がチクッと痛みました……。

 「シャンメリーの容器の歴史は、シャンメリーの栓の歴史と言ってもいいくらいに、いろんな工夫や改善がされているんですよ」と翠田社長は明かす。

 トンボ飲料のシャンメリーの栓は、不測のトラブルが起こりにくいよう、ひねって開ける方式を採用している。もちろん、ポンという開栓音は楽しめる。

 「シャンメリーをお飲みいただくのは、皆さんが集う楽しい時間。何かあったら、水を差してしまいますから」と翠田社長は話す。やさしい配慮ですね。

キティやポケモンも

トンボ飲料が販売している「サンリオキャラクターズ」のシャンメリー。ビンのラベルの絵柄は8種類ある© 2024 SANRIO CO., LTD. APPROVAL NO. L654930=大阪市北区で2024年12月9日、村田貴司撮影
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 今年のクリスマスは、「ハローキティ」など「サンリオ」の人気者や「ポケットモンスター」などのキャラクターが描かれた商品を販売している。ブドウ果汁を10%使った、おしゃれな「シャルドネシャンメリー」は通年で人気だ。

 シャンメリーではないが、甘さ控えめでスパークリングワインに似たノンアルコールドリンク「セレブレ」も販売。アルコールが飲めない人の選択肢を広げている。

 翠田社長が理事長を務める全国シャンメリー協同組合は、全国の児童養護施設の子どもたちに楽しいクリスマスを味わってもらおうと、2005年から毎年シャンメリーを贈っている。20回目の今年も、組合員で手分けして570以上の施設に届けた。まるでサンタさん! 「我々としては『心もうるおす飲料』ということを大切にしていきたいんです」と翠田社長はほほえむ。

 ポンという開栓音は、楽しい時の始まりを告げる「祝砲」。誰かと一緒にシャンメリーを飲む時間は、「幸せな記憶」という何よりのプレゼントなのかもしれない。【水津聡子】

富山の水資源を生かし

 トンボ飲料は1896年創業。創業者の翠田辰次郎さんが、真夏に水面を飛ぶトンボの涼しげな様子から、ラムネに「トンボラムネ」と名付けた。第二次世界大戦中は砂糖が入手できず、事実上の営業停止状態に。1945年の富山空襲では工場も焼失した。しかし、終戦翌年の46年には製造を再開し、多くの人の喉をうるおした。

 現在、ラムネは製造していないが、富山の豊かな水資源を生かした商品を展開している。注力しているのはゼリー。グループ会社の「バランス」で、栄養補給用や食べ物を飲み込みにくい人向けなど、さまざまな種類を製造している。「介護や健康分野のゼリーで、日本は先進国なんです。日本独自のシャンメリーも含めて、海外の方にももっと広げていきたい」と翠田社長は夢を語る。日本が育んだやさしいうるおい、世界にも浸透するといいですね。

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