「船がないと、にっちもさっちもいかない」
琵琶湖に浮かぶ沖島。日本で唯一、湖の中に人が暮らす島として知られるこの場所で、住民の足として欠かせない定期船が存続の危機に直面している。島民たちは、この問題にどう立ち向かおうとしているのか。
湖上の孤島、沖島の現状
滋賀県近江八幡市の港から琵琶湖を10分ほど船で進むと、沖島に到着する。かつては800人以上の住民が暮らしていたこの島も、現在は約220人にまで人口が減少した。かつて島の主要産業だった漁業は衰退し、若者の島外流出も相まって、住民の70%を65歳以上の高齢者が占めるまでになっている。
島民の生活を支える定期船
沖島と対岸を結ぶ定期船は、島民にとって欠かせない存在だ。朝晩を中心に1日12便が運航され、通勤や通学、病院への通院など、日常生活のあらゆる場面で利用されている。
【定期船利用者】「私は勤めているんですけど、この船を毎日利用しているんですよ。」
また、島唯一の小学校には14人の子どもたちが島外から通っており、定期船は教育の面でも重要な役割を果たしている。
船長不足で危機に
しかし、この定期船の運航が危機に瀕している。現在、定期船の船長は3人で交代制を取っているが、そのうち1人が来年3月で退職することが決まっている。2人では休むことができず、安全な運航が困難になるのだ。
【おきしま通船 冨田甚一 船長】「今のうちに何とかしないと運航できなくなるので、大変悲痛な思いです。船がないといろんな用事でも使えないので、乗務員を何とか確保して今まで通りに運航したいです。」
高齢化が進む島では、新たな船長候補者を見つけることができずにいた。
地域おこし協力隊に活路を見出す
この危機を打開するため、沖島の自治会は近江八幡市に協力を要請。市は「地域おこし協力隊」制度を活用して、船長候補の募集を行うことにした。
この制度は、自治体がお金を出して若い世代に移住してもらい、地域への協力やPR活動を任せるものだ。今回は、船舶免許の取得を条件に、船長候補となる人材を2人募集することになった。
過去の成功例に希望を見出す
沖島には、この制度を利用して移住に成功した実績がある。4年前に地域おこし協力隊として沖島に来た川瀬明日望さんは、任期の3年を超えて島に定住することを決めた。
【川瀬明日望さん】「湖の色とか空の色とか季節ごとに違うし毎日違うし、『今まで見た中で一番きれい』という瞬間が何回もあるんですよ。その瞬間に出くわすって住んでないと無理じゃないですか。」
川瀬さんは、島の魅力を語る。人口が200人ちょっとしかいない沖島は、中学校の1学年ほどの規模。すれ違う人と会話を交わす、そんな温かいコミュニティの雰囲気が魅力だという。
予想を上回る応募に希望の光
地域おこし協力隊の募集に対する反応は、予想を上回るものだった。
【近江八幡市企画課 土井忠史課長】「ありがたいことに、20代から50代の方、男女合わせて12名の応募がありました。」
定員2名に対して12名もの応募があり、遠くは関東からも応募があったという。沖島に興味のある人、船に興味のある人、田舎暮らしをしたい人など、さまざまな動機を持った人々が応募してきた。
この予想外の反響に、冨田船長も喜びを隠せない様子だ。
【おきしま通船 冨田甚一 船長】「うれしいことですね。ひょっとしたら応募がないかなと思ったんですけど、考えていたよりも多くの方が応募してくださったのでうれしいことです。」
沖島の未来へ
近江八幡市は今月中に作文や面接で選考を行い、早ければ来年2月からの活動開始を目指している。新しい船長候補者たちは、単に船の運航だけでなく、沖島の情報発信や制度の整備など、島の未来を支える重要な役割を担うことになる。
波を一つ乗り越えた沖島。しかし、高齢化や人口減少など、まだまだ課題は山積みだ。定期船の存続問題を契機に、島の未来をどう切り開いていくのか。沖島の挑戦はまだ始まったばかりである。
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