制服とシャツ、体操着で4万円
東京都中央区で2児を育てる40代女性は、長男が春から都内の公立小学校に通う。2月上旬に説明会が開かれ、学用品の用意を指示された。
上履き、上履き袋、ランチ袋、ランチョンマット、防災頭巾、筆箱、鉛筆、消しゴム、定規、名前ペン、下敷き、雑巾、縄跳び、自由帳に加え、「連絡帳、色鉛筆、のり、はさみ、クレパス、粘土とかは学校で一括購入するので入学後に集金するみたいです」(女性)。
当記事は、AERA dot.の提供記事です女性の子どもが進学する小学校には制服がある。シャツと夏用のポロシャツはそれぞれ2枚ずつ購入した。体操着も指定で、制服と合わせて4万円ほどの出費になった。
「小学生は背が伸びれば新調も必要になるので、追加の費用もかかります。安くはないです」
バス通学となるため、定期券も購入した。小児の定期券の値段は、1カ月3780円、半年は割引があって2万410円だ。最低でも年間4万820円はかかる。
「これからも都度、いろいろな費用がかかってくると思いますが、小学校の間にいくらかかるのかはわかりません。なので、入学時に6年間で何にどのくらい費用がかかるのか、目安を知りたいなと思います」
神奈川県在住で3児を育てる男性(44)は、今年、次女と長男がそれぞれ中学校と小学校に進学予定だ。ともに公立の学校に通う。
長男の小学校では、制服はなく、体操着も白いTシャツと短パンという指定があるだけ。そのため、入学時の負担はそこまでなかったという。
一方で、次女が入る中学校では「制服代の負担感が大きい」という。夏服2着と冬服1着で、5万円ほどかかる。
クレジットカード事業などを営む株式会社モデル百貨が、20代~40代の男女計1200人に対して行ったアンケートによると、男性が洋服に年間かける金額は3万8349円だったという(20代~40代男性の平均額)。
中でも、40代男性は、最も年間の消費額が大きかったが、それでも4万8028円だった。このことからも、いかに制服が高価な買い物かがわかる。
男性も「長い期間使うものなので、ある程度の金額は想定していましたが、それでも高いなと感じます。近所に3月で同じ中学を卒業する子がいたので、冬服はその子にもらって、夏服だけを買い、できるだけ出費を抑えることにしました」と話す。
書道セット、柔道着…入学後も続々
隠れ教育費は入学後も続々必要になる。ドリルや書道セット、リコーダー、柔道着など、各教科ごとに必要な物品や、部活動、修学旅行の積立金など、私費で負担するものが出てくる。
さらに、給食費がかかる自治体もまだまだ多い。男性が住む地区では、小学校・中学校で給食費が月4千円程度かかる。男性は「小さくない出費だと感じます」と話す。
義務教育を受けるために必要な諸経費はどのくらいなのだろうか。文科省が隔年で実施している「子供の学習費調査」(令和3年度版)によると、公立小学校では1年で学校教育費(学用品・実験実習材料費、通学費、修学旅行費など)が6万5974円、学校給食費が3万9010円かかっているという。
中学校はそれぞれ、13万2349円、3万7670円だ。足し合わせただけでも、小学校6年間で62万9904円、中学校3年間で51万57円かかる計算になる。
これは塾代や部活動でかかる費用などを含まない金額だ。それらとは別に、小学校は年間35万2566円、中学校は同53万8799円がかかることになり、費用はさらに膨れあがる。
男性も、実際に子どもが小中学校に入るまでは、こうしたさまざまな費用を意識することはなかったという。
「経験してみて初めて、『あれもこれもお金がかかるんだ』とわかりました。その都度払っているので気がつかないですが、細々したものでも足し合わせると、公立でも意外と費用がかかるんですよね……」
こういった費用は、いわゆる「隠れ教育費」と呼ばれるものだ。
もちろん義務教育だから、必要なものを全て無償にすべき、というわけではない。しかし、少なくない額が私費負担となっている状況が続いているのはなぜなのだろうか。
埼玉県の公立小・中学校で20年以上事務職員として働き、「隠れ教育費」研究室でチーフディレクターを務める栁澤靖明さんは、学校の構造的な問題点を指摘する。
「家庭にかかる費用を検討するセクションが確立されていないことが、一つの原因だと思います。そのため、制服などの指定品は家計にとって安くない出費であるにもかかわらず、そもそも『指定』であることや金額が果たして適正なのか議論されることが少ないです」
つまり、体操着でも運動靴でも一度学校の“指定品”になると、ずっとそのまま続いている、というケースが少なくない。また、ワークやドリルなどの授業内で使用される教材についても同じことがいえる場合もある。
しかし、教員らとコミュニケーションを取ることで、変化していく部分もあるという。
栁澤さんは「どんな授業をしたいのか」ということを問いかけるようにしているという。すると、代替品で対応できたり、私費負担をなくしたりできる場合があるのだという。
たとえば、従来は「きのこ栽培キット」を一人一つ購入していた授業で、牛乳パックをプランター代わりに使ったり、また、授業ではきのこの成長具合が条件によって異なることを学ぶのが目的のため、一人一つの購入をやめ、クラス単位で必要な分を購入したりなどに変更したという。
「話すと私費ではなく、公費で対応できる場合や、授業で子どもたちに学んでほしいことを別の方法で達成できる場合もあります。事務職員と教員のかかわり方を変えていけば、『隠れ教育費』問題も改善できる面があると思います」(栁澤さん)
保護者も声を上げるべき
一方で保護者の側が声を上げていくことも必要だという。
保護者などへのアンケートの実施が法制化され、学校現場でも保護者の声を反映していく姿勢ができてきた、と栁澤さんは感じている。
「お金のことも声を上げていくことが大切だと思います。『学校指定の制服だから高価でも仕方ない』『一つ一つの出費は少額だから、卒業するまでしのげばいい』と思わずに、お金に関することで疑問を感じたら、質問してみるといいと思います」
栁澤さんは「隠れ教育費」問題も、近年、その問題点が語られるようになってきたPTAのように、声を上げやすい空気が出てくると状況も変わっていくのではないか、という。
「PTAの問題も、当事者たちが声をあげることで社会問題化していったと考えています。学校は、保護者の声を重要視するので、そういった声が一つあるだけでもガラッと変わることもあります。なので、まずは保護者アンケートなどで疑問を投げかけてみてはどうでしょうか」
(AERA dot.編集部・唐澤俊介)
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