災害や自死などで親を亡くした遺児や、保護者が病気や障がいを抱えて働けない家庭を対象にした「あしなが奨学金」を希望しても受給できない子どもが増えている。九州エリアを統括する「エリアマネジャー」で自身も当事者として活動する、熊本県立大3年の谷岡奈央さん(21)に「あしなが奨学生」の現状や子どもたちを取り巻く状況について話を聞いた。【山口桂子】
――奨学金の希望者の状況は
2024年4月に高校入学した遺児らの「予約採用」の申請者は全国で過去最多の1800人に上り、そのうち54・7%が不採用となりました。熊本県内では41人が申請し18人が不採用でした。物価高などで生活が苦しくなり申請者が急増している一方、寄付でまかなっている奨学金の財源が追いついていないためです。
――どのような事情を抱える子どもたちがいますか
私の身の回りでも、親にガンや重度の身体障がいがあったり、熊本地震をきっかけにうつ病を発症して親が働けなくなったりした学生がいます。私自身は高校1年の時、家計を支えていた父親がくも膜下出血で倒れ、後遺症で精神障がいを抱えて働くことができなくなりました。4人姉妹で経済的にも大変で、大学進学後にあしなが奨学金の存在を知り申請しました。
――当事者としてどのようなことを発信したいですか
「あしなが」のコミュニティーは、さまざまな境遇にある同世代が家庭の事情を打ち明けて交流したり、一つの居場所になったりしていると感じています。一方で、財源を寄付でまかなっているため、採用には募金活動への参加が条件になっています。街頭に立って活動することがハードルになっている学生がいるのも事実です。私自身も「正直、嫌だな、つらいな」と感じたこともあります。子ども自身ではどうしようもない事情で奨学金を希望しているにもかかわらず、さまざまな負担を強いられており、寄付だけでなく公的な支援で財源をどうにかできないかと考えることもあります。
――活動の原動力となっているのは
「後輩たちのために」という思いで乗り越えてきました。財源を増やすには、当事者の声を直接伝えることのできる街頭募金活動が重要になります。街頭で活動する人の数が多いほど注目されやすくなり、寄付も集まりやすくなります。この春の街頭活動では県内の高校生ボランティアの数を増やすため、学校への依頼に力をいれたところ、昨秋の約4倍の延べ約100人が参加してくれました。どこに生まれたかや、どのような境遇かによって将来の選択肢を自分で選べない子どもが一人でも減ってほしい。そんな思いで、活動を続けていきたいです。
たにおか・なお
京都府京丹後市出身。2024年2月から「あしなが学生募金事務局」の九州地区学生代表、九州エリアマネジャーを務める。将来は「全ての人が尊厳を持って生きられる社会にしたい」と、国際協力に関わる仕事に就くのが夢。23年は1年間休学し、あしなが育英会の研修プログラムでウガンダに9カ月間留学。現地の子どもたちの学習支援などに取り組んだ。「あしなが学生募金」の学生ボランティアを募集中。問い合わせはホームページから。
鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。