全額公費負担での新型コロナウイルスのワクチン接種(特例臨時接種)が3月末に終わり、ワクチン保管用に国から全国の自治体に配られるなどした冷凍庫約2万台が役目を終えた。超低温の冷凍庫は大きく、電気代もかかるため家庭用には向かないが、多くの自治体の呼びかけに大学や病院などが手を挙げた。中には意外な場所で第二の道を歩み出した冷凍庫もあった。
福岡市動物園のバックヤードに2月末、10台の冷凍庫が設置された。現在、飼育スタッフが冷凍庫に入れているのは、シロサイのフン。健康管理のために採取したものを冷凍保存している。これから夏に向けては、エサとなる果物や氷の保管場所としても重宝されそうだ。同園広報の川島佑介さん(41)は「広い園内で各獣舎の近くに冷凍庫を設置できるため、スタッフの負担も減る。この夏は熱中症対策の氷も多く作れるので、動物たちも喜んでくれるだろう」と歓迎する。
厚生労働省によると、冷凍庫は▽ファイザー社製ワクチンをマイナス75度で保管する超低温冷凍庫▽モデルナ社製ワクチンをマイナス20度で保管する低温冷凍庫――の2種類で、いずれも耐用年数は6~10年。国は約2万台を約90億円で確保し、2021年から全国の自治体に計約1万5000台が無償で譲渡された。
ただワクチンの無料接種の終了が近づいた23年末、自治体から「(冷凍庫を)どうしたらいいのか」という問い合わせがあったことなどから、同省は自治体に対し、譲渡や売却などで有効活用を促す通知を出した。これを受け、多くの自治体が一斉に動き出した。
福岡市には国から141台の冷凍庫が支給されており、国の通知後、市は庁内で冷凍庫を必要とする部署を検討。市内の中学校や高校、消防署などに49台を譲ることにした。さらに市内の病院や大学にも希望を募り、故障の3台を除いた残りの89台全ての譲り先が決まった。5月までに無償で譲渡する予定で、市の担当者は「台数が多かったが庁内でジャンルを問わず声かけをしたところ、希望が多かった。新たな場所で役立ててもらえれば」とする。
九州地方のある町では、研究目的の使用が想定される大学が町内になく、保有する10台弱の冷凍庫にニーズがあるかどうか当初は懸念していた。ところが、町のホームページで公募してみると、個人や企業などから100件以上手が挙がった。公益性の高いところを優先して譲渡先を決め、4月中旬までに全て無償で引き渡した。
一方、13台を保有していた埼玉県では、ワクチン接種をする医療機関を中心に呼び掛けて調整したが、県衛生研究所で1台を活用する以外に引き取り先が見つからず、23年末に12台を約14万円かけて廃棄した。感染症対策課の担当者は「県庁の会議室などで保管しており、通常の態勢に戻す必要があり廃棄に至った」と話した。
同省によると、活用例は「火葬前の死んだペットの一時保管用」や「ぬれた本を図書館で修復するため」など多様で、自治体にもこうした情報を共有している。同省の担当者は「使い道は自治体の判断に委ねているが有効活用してほしい」。なお、国保有分の7000台は売却する予定という。【田崎春菜】
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