子どもが小学校に入学すると、当たり前のようについてくるPTA。そのPTAの在り方に今、疑問の声が上がっています。
時代に即したPTAのあるべき姿とは。現状を取材しました。
■入学と同時にPTAに自動入会
大阪府高槻市の小学校に子どもを通わせていたAさんは、入学と同時にPTAに入りました。
【Aさん】「入学の準備書類とかの中にPTAの封書が入っているということで、入ったら同時加入。自動入会だったので、意思を確認されることは何もないまま始まりました」
「PTA=Parent(保護者)、Teacher(先生)、Association(組織)」は、保護者と教職員から構成する任意の団体で、本来は入る自由も入らない自由もあります。
しかし、多くの学校のPTAで、こうした半ば強制的な入会が常態化している現状があります。
さらに、Aさんはくじ引きである役割を担うことに。それは「指名委員」です。
次期役員の候補者を選び、時には自宅まで訪れて説得し、選任するPTA内の委員です。負担が大きい「役員」は、なり手がなかなか見つからないこともしばしばだといいます。
■役員決めの活動に驚きの「マニュアル」
そんな中、勧誘を断りづらくさせるための手引きともいえる、驚きの「マニュアル」が高槻市に存在していたのです。
そこには、訪問回数に応じた対応が詳細に記載されていました。
<1回目の訪問>
・あいさつ程度に短時間で切り上げる
・インターホン越しに「指名委員です」と言うとドアを開けてもらえない場合があるため、「〇〇学校のPTAの者ですが、お渡ししたい物があるので開けていただけませんか」と話す。
・2~3日以内に再訪問するため、在宅時間を聞く
Aさんも実際にこのマニュアルを使っていたといいます。
【Aさん】「『玄関先にとにかく出てきてもらいなさい』って言われて。まず最初は規約だけ渡して『ちょっと考えてくださいね』と、返事を聞かずにすぐ引き上げてください(と言われた)」
<2回目の訪問>
・「考えていただけましたでしょうか。今日は“役職”の説明にまいりました」と、役職の説明をする
・断られた場合…「役職についてお話をしないと帰れないんです。これが私たちのお仕事なので」
・他の人を推薦された場合…「その方もいい方ですが、今回は〇〇さんにお願いしたいのです」
・誰とするのか聞かれた場合…「〇〇さんとうまくやっていただける方を、指名委員会ではしっかりと考えておりますのでご安心ください」
・「私たち指名委員が来たことはご内密にお願いします」
さらに、訪問する人数や役割分担までも事細かに勧誘方法が記されていました。
【Aさん】「2回目に行った時に『考えていただけましたか?』って。大体3人で行くんです。1人目は『考えていただけましたか?お願いできませんか?』とお願いする役目の人。2人目が『役員の仕事をどうしてもあなたにお願いしたいんです』と熱意を伝える役。3番目の人が『訪問していることは内密にしてください』と、役割分担をするように、みたいな感じのことを言われていて」
さらには、口説き方まで…。
【Aさん】「『説明を全部すると難しくてできないと言って受けてもらえないから、触りだけ、2割だけ説明したらいいよ』って言われているので。『でも私は知らない人とうまくやっていけるか分からなくて』と言われたら、『あなたに合う人を別のメンバーが探して交渉しているのでぜひ』と。いや(実際は)探してないですよ。もちろん探していないけど、そういう風に言ってとにかく『うん』と言うように持っていってください。『最後にこのことはご内密にお願いします』って。『絶対ご内密にっていうことを言ってください』と。そこをすごく強調された覚えはあります」
高槻市内全ての学校がこのマニュアルを使っていたわけではないということですが、高槻市教育委員会によると、2023年5月まで配布されていたということです。
■PTA退会…待っていたのは子どもへの「影響」
強引に勧誘してまで、役員を決めないといけないPTAとは…。疑問を抱いたAさんは、PTAを退会すると決意。
しかしその先に待っていたのは、子どもへの思いもよらぬ影響でした。
【Aさん】「子どもが『登校班で学校に行きたくない』って言いだして。『何かあったの?』って聞いたら、『同じ登校班の女の子たちから無視されたり、にらみつけられたりする。近所のお母さんたちが出てきた時も、お母さんたちの顔が怖い。でも顔を合わせた時にあいさつをするけど、返事もしてもらえない。もう怖くて行きたくない』と言い始めたんです」
本来は子どもの成長をサポートするためにあるはずのPTA。しかし、実情は保護者同士を分断し、子どもにまで悪影響を及ぼすという事態が起こっているのです。
■PTA上部団体「全国一律の解決策は難しい」
今、各地で同じようなことが相次ぎ、疑問の声が上がっている中、全国のPTAの上部団体はどう受け止めているのでしょうか。
【日本PTA全国協議会 後藤豊郎会長】「先入観とか既存のPTAの在り方の印象が強すぎることが、かなり影響していると思うんです。『PTAってこういうものです』という。現場で起きている入退会の問題、こういったことについても、解決策というのは全国共通一律で生み出すということは、現状難しいという認識。それぞれの地域において個別最適な解決策を展開していただく」
さらに、記者が高槻市で配られていた訪問マニュアルを見せると、厳しい指摘が返ってきました。
【日本PTA全国協議会 後藤豊郎会長】「これってPTAの本質からはかけ離れていますし、大人の学びからもかけ離れている。必要ないと思っているのに無理やりやるっていうことが、中身を理解せずに人を勧誘するという、ある意味典型例じゃないかなという気はします。このマニュアルを拝見して、これがどうかと言われると、『ちょっとこれは考え直しましょう』と、『こういうものをこのままやるのではなくて、無理に押しつけあうような形での運営って良くないですよね」ということは、間違いなく言うと思います」
■1つの解決策? 丹波篠山の「PTO」
それぞれの現状に合わせた対応とは何なのか。一つの答えが兵庫県丹波篠山市の小学校にありました。
保護者の有志が集い、去年からPTAの改革に取り組んでいます。
その名も「PTO=Parent(保護者)、Teacher(先生)、Ouendan(応援団)」です。
【丹波篠山市立岡野小学校PTO 上本浩之会長】「僕らは地域も含めてここの子供たちを“応援”する、その意味を込めて“O”にしようということで、『PTO』」
「PTO」が目指すのは、子どもたちのためということはもちろん、保護者や地域、先生までもが楽しめるコミュニティです。
活動は完全任意。“強制”につながるものは撤廃しました。
【丹波篠山市立岡野小学校PTO 上本浩之会長】「これが入会届です。PTOに参加してもらう時は、年度の最初にこれで意思表示をしてもらう。これが一番重要だと思います。任意というのを続けるのであれば、入会する意思があるかないかの確認が一番重要だと思う」
自動入会だった状況を変えるため、加入・非加入の意思表示ができるよう「入会届」を整備したのです。
その結果、これまで100%だった入会率は73%と、およそ3割減少しました。
それでも、できることだけをやる。活動は全て、アプリで参加者を募る「エントリー制」にして、人が集まらなければ実施しません。
【丹波篠山市立岡野小学校PTO 上本浩之会長】「特に加入しているから参加していないとだめというわけでもないし、みんな保護者ができる時にできることを、という活動を目指しているので、楽しい団体にして、保護者が寄りやすい形に変えていくことは必要やなと」
PTOにやってほしい活動について、子どもたちにアンケートを取り“子供目線”の活動に。
さらに、月に1回は開かれていた夜間の会議をなくすなど物理的な負担も減らし、やりたいことを自分で選べる、保護者にとっても関わりやすい組織を目指しています。
【委員に立候補した保護者】「立候補させてもらったのは、従来の仕事量よりも負担が格段に減っている、役員とかやりやすくなっているかなという思いで立候補させていただいた。みんなの子どもをお手伝いしたいなと」
“強制”をなくし、本当の意味での「任意」を目指すPTO。保護者とともに活動に参加する学校側にも影響を与えています。
【岡野小学校・幼稚園 細見康彦元校長・園長】「この活動が本当にPTA活動として必要なのかなというのが、かなり見えてきたなと。子どもたちにとって必要なのかとかは見直しになったと僕自身も思います。やりたい人がやれる人がやるというのは保護者にとっても負担もかなり減っているし、教職員にとってもかなり負担は減っているなというのは感じています」
【丹波篠山市立岡野小学校PTO 上本浩之会長】「活動の必要性は何なのかっていうところから考えると自ずとやることだけが残ってくるんだっていう、今までやってきたからやり続けるのではなく、毎年考えながら保護者みんなでどんな活動をするかを考えて進むことが大事」
■高槻市でも進む「PTA改革」
高槻市でもPTA改革が進められています。
高槻市立赤大路小学校PTA会長の岩崎健一郎さんは、指名委員の自宅訪問を受けて会長の座を引き受けたといいます。
活動内容に違和感を覚えると共に、自動入会となっている状況などを目の当たりにし、「このままだと違法状態。正さない選択肢はない」と感じ、2023年2月から「改革の三本柱」を掲げて本格的に動き出しました。
<任意加入の徹底>
最初に入会届と退会届を整備することで、自動加入や、それに伴う「役職」の強制を撤廃。
<活動目的の明確化と内容のスリム化>
活動目的を「“学習環境”や“通学環境”の改善」として、子どものための団体であることを明確化。さらに委員会の回数を極力減らし、イベントだけでなく役員や委員も全て「立候補制」にして、人が集まらなかった場合は潔く“実施なし”に。
<活動内容の透明化・IT活用>
活動内容や会費の使い道が不透明だったため、PTAだよりの内容を議事録や改善活動報告として、情報をオープンに。紙のPTAだよりを廃止して、周知などはGoogleやLINEのグループチャットなどを活用。また、総会もオンラインで実施する。
改革するには、保護者一人一人の理解が必要との思いから、説明会を複数回にわたって実施。
他に、専用のメールアドレスを作って質問などを募集し、全ての質問に会長が返信して保護者の不信感を払拭するよう努めたといいます。
また、入会届を整備したことで、これまでより3分の1ほど会員が減少しましたが、副会長の広川靖子さんは「本当にやる気と意欲がある人が集まっている。(人数は)少なくても、いい会になっている」と話します。
さらに、高槻市立赤大路小学校PTAの岩崎会長は次のように話しました。
【高槻市立赤大路小学校PTA 岩崎健一郎会長】「PTAがあることで保護者と学校側が議論して、学校を良くしていこうという場ができる。主体的に自由に参加して、主体的に問題解決できる、保護者と教職員の合議体を目指していきたい」
(関西テレビ「newsランナー」 2024年4月17日放送)
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