頑張らなきゃ、変わらなきゃ、と疲れてしまうなら、そのままの自分をまずはいたわり、大事にすることが大切です(写真:小日向 みう / PIXTA)新年度が始まって1カ月が過ぎました。GW明け、新しい環境で慣れようと頑張ってきたことの疲れが出るのもこのころ。またこの時期に限らず、仕事でミスをして落ち込んだり、誰かと比べて自分はできないと凹んだり、「つらい」「しんどい」と思うときは私たちの人生において多々あります。精神科医の藤野智哉さんは、そのような人たちに向けて、成長する前に、頑張る前に、まずは自分をいたわること、ケアすることの大切さを伝えています。藤野さんの著書『「そのままの自分」を生きてみる』から一部を抜粋しお届けします。

雑に扱われることに慣れないで

世の中には、ひどいことを言う人が少なからずいます。

「仕事のできない人間が残業するのは当たり前だろう。夜できないなら朝早くきて仕事しろ」などという上司。

「家のことをちゃんとするのは君の役目なんだから、いくら疲れているからって料理やそうじを手抜きしないで。きちんとやってくれないと」というパートナー。

人間は仕事だけをする生き物ではありません。夜はしっかり寝ないといけないし、食事をとり、人生を楽しむ時間も必要です。

家事なんてできるほうがやったらいいし、疲れてしんどいときまで、ちゃんとやる必要もありません。

けれども、ついつい真面目な人や、いい人ほど「仕事のできない自分が残業するのはしょうがないか」「要領よく、うまく家事をできない私が悪いから」なんて思ってしまったりします。

あるいは、「頑張って成長しないと」なんてますます頑張ってしまったり。

真面目に生きれば生きるほど生きづらいって罠ありますよね、人生……。

でも、待ってください。

仕事ができてもできなくても、家事ができてもできなくても、あなたの体と心は大切に扱われる価値と権利があります。

仕事ができないからといって、上司に雑に扱われる筋合いはありません。疲れているときに家事を手抜きするくらいで、パートナーに責められるいわれもありません。

雑に扱われることに慣れると、ますます自分を無価値だと感じてしまいます。

まずは「自分が雑に扱われている」と気づくこと。

追い込まれ狭くなった視野を広げ、今の状態が間違いだと気づくこと。

それができれば、定時できちんと帰るなり、上司に訴えるなり、異動を願い出るなり、転職活動するなり、必要な対処法が見えるようになってきます。

パートナーに対しても、「それは違うんじゃないかな」と言えたり、「もっと手伝ってほしい」と言えたりします。

あるいは、家事がラクになる電化製品を買ったり、話し合って適切な対処ができるようになります。

自分の価値を認めて大切にする

雑に扱われないためには、自分を安く見積もらないことも大事です。

安売りしていたり、雑に扱われているものって、人から大切にされないと思いませんか?

人間も同じようなところがあります。

まずはあなたが、あなたの価値をきちんと認めてあげて、大切にすること

これができないと、相手からも大切にされなかったりします。

仕事だったら、「安易に引き受けない」とか、「しんどくなるほど残業しない」とか。パートナーだったら、「言うべきときにはノーと言う」とか、「違和感があったら意見を言う」とか。

そういう「自分を大切にする行動」をしてみてください。

自分の価値を尊重する行動を重ねるうちに、「雑に扱われること」が減っていくのかなと思います。

何かをやめるのが難しいワケ

たとえば、ブラックな職場でへとへとになって働いていて、まわりから見ても、本人すらも「休んだほうがいい」と思っているのに、なぜか休めない。

定期的に集まる友人グループは話が合わないし、ストレスだし、気が重いけれども、ずるずる付き合ってしまっている。

パートナーに愚痴を言うと「そんな友人なら友人じゃないから離れたら」と言われるけど、なんとなく離れられない。

こんなことがあったりします。

「コンコルド効果」という言葉を知っていますか?

「コンコルド効果」とは、今までつぎ込んだものがムダにならないように、間違ったことであってもやめられずに続けてしまう状態になることです。

休んでしまうと、離れてしまうと、「これまでの我慢」とか「うまくやろうとした努力」などを否定することになってしまう。今までつぎ込んできたものがムダになってしまう。

だから、ずるずると続けてしまうわけです。

これと同じように「自分を変える」って多かれ少なかれ、これまで生きてきた自分の人生をある種、「否定することになる」という難しさがあります。

「変わりたい」と言いつつ、具体的に「こんな自分になりたい」という目標を掲げている人は実は少なかったりします。

「変わりたい」は、「このままの自分ではダメ」「もっとちゃんとしなきゃ」「もっとできるようにならないと」という気持ちの延長線上に蜃気楼のように存在しているようなもので。

ただ、あやふやな感じで「今の自分ではダメな気がする」「こんな状況のままでいいの?」みたいに思っていたりします。

そしてその気持ちを「変わりたい」に変換してしまっているのです。

変わりたいのに「変われない」なら……

けれども、それって考え方によっては「これまでやってきたこと、今までの生き方を含めた、今の自分を否定すること」でもあるんです。

「変わりたい」という意識は「今の自分はダメ」というメッセージを自らに送ることにつながってしまうのです。

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だから「変わりたい」といっても「今の自分の否定」につながるので、不安になったり、怖くなったり、「なんとなく変われない」となるのです。

「自分を変えたい」が今の自分を否定することになるなら、そして、「結局変われない自分はダメなんだ」と苦しむくらいなら……。

「自分を変えたい」という気持ちをいったん手放したっていいのです。

「変わらなきゃ。なのになんで自分は変われないんだろう」と悩んでしまうなら「なんとなく自分は変わりたいんだな」ということだけ頭の片隅に置いておいて、全然違うことをするのもアリだと思います。

そうすることで、自己を否定してしまう気持ちが薄れたら、人は自動的に変わるかもしれないし、世界の見え方が変わるかもしれません。

「今の自分がダメだから変わりたい」ではなくて、「今の自分も好きだけど、次はこういう自分も面白いかも」「こうなったら可能性が広がるかも」。そんなスタンスで「変わりたい」と思えたらいいですよね。

「変わりたい」気持ちにも、「こんな自分はダメだから」の否定からくるものと、「やっぱり私、もっと〜になりたい」と素直に心から思えるものがあります。

自己否定なのか、そうでないのか。

それがわからないうちは、「私、変わりたいんだな」くらいの気持ちの受け止め方で、まずは自分をいたわったり、ケアするほうを優先してみてください。

「変わりたいのに変われない」と悩むくらいなら、今は向き合う時期ではないと考えてみてもいいんじゃないでしょうか。

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