衆議院3補選に事実上全敗したことで、自民党内には、岸田総理が6月解散を封じられたという見方が強まっている。岸田政権は、政治への失われた信頼を今後回復させることはできるのか。今の岸田総理を取り巻く状況は、2021年4月の菅政権の状況と重なる部分が目立つとの指摘も…。
この記事の写真は6枚1)『2021年4月と酷似』との指摘 当時の菅政権は4か月後に…
2021年当時、菅前総理は9月29日の総裁選への出馬を断念したが、当時何が起きていたのか。
2021年4月25日、コロナの第4波が広がる中行われた、菅政権として初めての国政選挙となった衆参3選挙で与党は全敗を喫した。
自民党が「3敗(不戦敗を含む)」したのは、岸田政権の今回の3つの補欠選挙も同じ状況だ。
さらに2021年当時の菅政権では、6月の静岡県知事選挙で自民推薦候補が敗北、7月の東京都議会選挙で自公が目標の過半数に届かず、敗戦が続いた。
岸田政権も今後、5月26日の静岡県知事選挙、7月7日には東京都知事選挙が控えている。
久江雅彦氏(共同通信社編集委員兼論説委員、杏林大学客員教授)は以下のように分析する。
9月の総裁選に近づくほど、ポスト岸田など様々な動きが表面化してくるだろう。現時点では、誰もこの政治改革で火中の栗を拾いたくない、明確なポスト岸田が不在、さらに逆風の中で自民党内で内輪もめを見せたくないという向きもあり、ポスト岸田の動きはまだでていない。とはいえ、静岡県知事選の5月26日になれば、政治改革の議論も山場になり、通常国会の出口も見えてくる。最終的には、与野党どちらが勝ったのに注目が集まる。静岡県知事選の結果が9月の総裁任期満了を前に岸田政権の分岐点になるだろう
2021年の菅政管と現政権の相違はどこか。2021年、国政選挙・地方選挙で連敗した菅総理は9月の総裁選に向け意欲を示していたが、8月下旬、状況はさらに悪化した。
2021年の場合、8月22日、菅総理のお膝元の横浜市長選で、総理に近い小此木八郎(おこのぎ・はちろう)前国家公安委員長が落選。8月26日には岸田氏が総裁選に出馬を表明し「党役員は1期1年、連続3年まで」という改革案を発表した。党内から人事刷新を求める声もあがり、菅政権を支えてきた二階幹事長の交代案が浮上した。
安倍元総理が8月31日、菅総理に「解散すべきでない」と伝えたことを受け、9月1日には菅総理が「解散」を否定。菅総理は局面打開に向けてもう一つのカード、人事を9月6日に実行しようとしたが、事態は急転直下の展開を見せ、9月3日、突然の「総裁選不出馬」表明した。
人事について複数の幹部が「打診されたら困る」と距離を置いたことが原因とされ、特に、二階幹事長の後任人事のメドが立たなかったことが大きかったと見られている。
菅総理は解散権も人事権も封じられ9月末の総裁選不出馬を表明した。岸田首相にとっても8月下旬が正念場となるのか。
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2)岸田政権の今後は… 問われる政治への姿勢2)岸田政権の今後は… 問われる政治への姿勢
久江雅彦氏(共同通信社編集委員兼論説委員)は次のように語る。
当時はまさに激動の1週間だった。しかし、今回とかなり違うと思われるのは、当時はコロナ患者が激増している状況の中、菅前総理はワクチン確保などに手を尽くし、懸命にもがいて努力していた。岸田総理は、何かを成し遂げようとして成就できないままにやめるのかどうか、当時と軌跡は同じだが、2人の総理の政治に取り組む姿勢は、いま見る限りは違うと思う。中北浩爾氏(政治学者、中央大学法学部教授)は、以下のように述べた。
現在の岸田政権の内閣支持率は、当時の菅内閣より約10ポイントも低い。選挙の顔にはなり得ないのが明白で解散はできない。衆院の任期も約1年で総裁選を勝ち抜くことも難しく、人事権を行使しようにも参画する人もおらず、手詰まりの状態だ。起死回生の一手もなさそうな現状では、勇気ある撤退ということも考えざるを得ない局面に入っているのではないか。岸田政権誕生の際、取材を重ねていた末延吉正氏(元テレビ朝日政治部長、ジャーナリスト)は以下のように分析する。
3年前の8月末の、激動の1週間の中で岸田氏が出てきた時、これまでの政治を修正する新しいリーダーではないかと、穏健派保守を中心に期待感が高まっていた。しかしこの3年間、岸田総理が本気で理念と中身を語って実行したものは何一つない。安全保障について動いたが、国民に対して明確な説明はない、定額減税も同様だ。政権の命運をかけ国民生活のために何をするのかが何も伝わってこない。「政治とカネ」の問題は、刷新会議の報告書を記者会見できちんと公開し、処分を行うという基準を示すのが筋だと思う。岸田総理はやりとげる力が続かない。小さなポピュリズムのようなものを感じざるを得ない。次のページは
3)ポスト岸田の動きは?新総裁で解散総選挙を望む声はあるか。3)ポスト岸田の動きは?新総裁で解散総選挙を望む声はあるか。
ANNの世論調査(4月13,14日実施)で「次の総理として自民党の中で誰が良いか?」を尋ねたところ、「わからない・答えない」が1位となった。続いて石破 茂氏、小泉進次郎氏、上川陽子氏、河野太郎氏らの名前が挙がった。
自民党内には、9月の総裁選で“ポスト岸田”を打ち出して「新総裁で解散総選挙」を望む声はあるのか。
久江雅彦氏(杏林大学客員教授)は以下のように述べた。
自民党総裁選の問題は、党の顔が誰になるかで選挙区で議員の生殺与奪がかなり決まってしまい、人気のある人の傘の下に入りたいという動きが起こる。しかし、国民の側からみれば、人気投票ではなく、国民のために何をやってくれるのか、政治への距離や無関心が広がった中で信頼を回復してくれる人なのかどうなのか、という観点から選ばれなくてはいけない。たた、石破氏がこのような調査でいつもトップで名前が挙がるのは、石破氏の意見に共鳴する人が多いということが一定程度あるのだと思う。上川氏は突然浮上してきた存在で、麻生氏の支持や岸田派である中で、総理になった場合、結局麻生氏や岸田氏の傀儡ではないかと見られる可能性もある。そうならないために、どんな国を目指すのか、今回の裏金問題や経済をどうするのか、自身の考えを明確に示していく必要があるだろう。中北氏は「ポスト岸田」の動きについて、以下のように述べた。
石破氏は長きにわたって安倍政権の下で異論を唱え続け、「脱安倍」を強烈に印象づけてきた。上川氏はもし総理になれば日本初の女性総理になる。女性活躍のために力を尽くしてきて、国際感覚にも優れた人格者だ。この2人であれば、見識を持って国を動かしていく能力はあるとみている。「ポスト岸田」はこの2人が中心となるだろうが、新たな動きが出てくることも期待したい。次のページは
4)自民党政治への不信感が高まる中、「政権交代」の可能性は?4)自民党政治への不信感が高まる中、「政権交代」の可能性は?
通常国会会期末まで残り1ヶ月半余り、今後の動きについて、久江雅彦氏(杏林大学客員教授)はこう語る。
通常国会の会期末に、野党は内閣不信任決議案を出すだろうが解散はほぼなくなった。岸田内閣はこれまで、問題が起こった後の対応がすべて後手で守りに回っている。時間はあまりないが、ここから先、国民の期待に応えるべく熱意と覚悟をもって取り組む攻めの姿勢を示すことができれば、菅氏と同じ軌跡をたどるのではなく、9月総裁再選出という芽も出てくるのではないか。中北浩爾氏(政治学者、中央大学法学部教授)は、野党の動きに注目をする。
自民党に対する不信感が高まる一方で、政権交代への期待も乏しい中で、野党第一党の立憲民主党が政権交代に向けたビジョンとチームを作っていけるかが鍵だ。7月7日の都知事選挙を勝てるかどうか。そして、9月には党代表選がある。徹底した議論をして、政権交代への態勢を整えていくことがなければ、国民の期待に応えることができない、ここに私は注目している。末延吉正氏(元テレビ朝日政治部長、ジャーナリスト)は与野党双方が変わるべき時であると示唆した。
政権交代しても大丈夫だという方向に野党第一党を中心に、一致団結をして動きを作って行く必要がある。立憲民主党には野田元総理のような人材もいる。いま大きな役割を果たしていくべき時だ。自民党は下野しない限り本質的に変わることがなかった政党だ。野党は、この国会で自民党をきちっと追及してもらいたい。自民党も腹を据えて本気で改革していかないと手詰まりになっていくだろう。<出演者>
久江雅彦 (共同通信社編集委員兼論説委員、杏林大学客員教授。永田町の情報源を駆使した取材・分析に定評)
中北浩爾(政治学者 中央大学法学部教授。専門は政治学。自民党の歴史などに精通。著書に『自民党−「一強」の実像』など多数)
末延吉正(元テレビ朝日政治部長。ジャーナリスト。永田町に独自の情報を持つ。湾岸戦争など各国で取材し、国際問題に精通)
「BS朝日 日曜スクープ 2024年5月5日放送分より」
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