空き家対策特別措置法に基づき名古屋市が解体した空き家=同市千種区で(同市提供)
壁や屋根の一部が雑草で覆われ、敷地内には外れた戸や窓が散らばる。建物も傾きかけ、突っかい棒に支えられていた。老朽化が激しいこの空き家があったのは、名古屋市千種区の住宅街。市が今年1月、初めて空き家対策特別措置法に基づく行政代執行を決め、解体した。1941(昭和16)年に建てられたとみられ、近くの住民によると、40年ほど前からは、誰も住まない状態が続いていた。 「台風が来ると崩れるのでは」「たばこの投げ捨てで火事になるかも」。周囲に不安感を与えていた。野生動物がすみ着いたり、頻繁にごみが投棄されたりしていた時期もあったという。 市によると、登記上の所有者が死亡し、相続が進んだ結果、所有者が増え、権利関係が複雑になっている。中には行方が分からない人も。今の所有者のうち所在が分かる人には行政手続きに従い文書で対応を求めてきたが改善されず、倒壊する可能性が高まったため代執行に踏み切った。費用は約140万円で、市が所有者に請求する。支払われなかった場合、土地を差し押さえ、競売にかける可能性もあるという。◆23年10月で900万戸
このケースのような都市部を含め、全国で空き家が増えている。総務省の調査(速報値)によると、2023年10月1日時点で900万戸と過去最多。448万戸だった1993年から30年間でほぼ倍になった。 特に長期間不在などの理由で、放置すると危険な状況になりかねない物件が目立つ。行政代執行で解体されるケースも増えており、22年度までに全国で180件にのぼる。これを含め、市区町村によって修繕などの何らかの対策が取られた空き家は22年度末までで16万8千件を超える。 19年の国交省の調査では、空き家を所有するようになった理由は「相続」が約55%を占める。ただ、思い入れのある実家は売ったり貸したりするにはハードルが高い。遠く離れて暮らしている人も多く、手入れや不動産業者との交渉などを頻繁にすることが難しい場合もある。 空き家にする理由(複数回答)は「物置として必要」(60・3%)が1位だが、「解体費用をかけたくない」「さら地にしても使い道がない」なども続く。利活用が進まない背景には経済的な理由もあるようだ。◆民間の支援事業も
一方、利活用を促す支援サービスが増えつつあるなど、空き家を巡る環境も変化している。近隣住民の積極的な関与や、民間会社の支援などで地域の空き家が解消された事例もある。 滋賀県米原市の男性は、自宅の隣で長い間空き家だった物件を買い取り、23年3月に自費で解体。その跡地を駐車場として利用している。木造かやぶきの平屋の建物は、瓦が自分の敷地内に落ちそうになるといった状態だった。男性は「とにかく何とかしなくてはいけない」と危機感を抱いていたという。所有者が分からなかった物件(上)(クラッソーネ提供)を買い取り、解体後につくられた駐車場(下)=滋賀県米原市で
所有者が分からなかったため、市に相談。市の申し立てによって選任された相続財産管理人が、土地や建物を男性に売却した。市と連携する企業クラッソーネ(名古屋市)が提供する、解体業者の比較サービスを利用。納得できる工事費で解体できた。男性は「防犯や景観の面でも良くなかった。安心で便利になった」と駐車場を見つめる。 昨年12月には、改正空き家対策特別措置法が施行。適正に管理されない空き家は、固定資産税の軽減が受けられなくなるなど、国も対策を進める。さらに、利活用などを支援するNPO法人や民間企業が活動をしやすくなる「支援法人」制度も設けられた。 横浜市立大教授の斉藤広子さん(不動産学)は「相続し、積極的な理由がなくそのままにしている『なんとなく空き家』が多い」と現状を分析。「知らぬ間に相続し、顔も見たことがない人と話し合わなければならないケースもある。長い間放置すれば問題が深刻化する。上手に利活用するため相談できる場所を見つけ、『こんなふうに使ったらどうか』などと前向きに考えてみては」と呼びかけている。 (海老名徳馬) ◇ 核家族化や人口の減少で、住まいのあり方も大きく変化している。空き家を巡る問題もその一つ。長い間家族の暮らしを守った建物のその後を、どのように考えればいいのか。現場や専門家に取材し、考える。空き家にまつわる相続や売却と賃貸、近隣での環境問題、その他の困り事などに関する情報や意見をお寄せ下さい。 住所・氏名・年齢・職業・電話番号を明記し〒100 8525 東京新聞生活班へ。
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