韓国発Netflix人気バラエティ番組「フィジカル100」シーズン2: アンダーグラウンドが初登場でNetflix公式ランキング世界1位に。俳優のイ・ジェユン(写真)も汗まみれの筋肉バトルに参加する(画像:Netflix)この記事の画像を見る(5枚)Netflix、Amazon プライム・ビデオ、Huluなど、気づけば世の中にあふれているネット動画配信サービス。時流に乗って利用してみたいけれど、「何を見たらいいかわからない」「配信のオリジナル番組は本当に面白いの?」という読者も多いのではないでしょうか。本記事ではそんな迷える読者のために、テレビ業界に詳しい長谷川朋子氏が「今見るべきネット動画」とその魅力を解説します。

初週で早くも世界1位を獲得

「完璧な肉体を持つ者はいったい誰なのか?」100人の強者の中から、その答えを探る番組がNetflix韓国の「フィジカル100」です。ひたすら走ったり、砂袋を運んだり、無限にスクワットしたりと、聞こえは極めて地味ですが、見れば夢中にさせ、映画やドラマのようなセットで行われる決死の筋肉バトルに惹きこまれます。韓国はバラエティ番組でも強さを証明しています。

これまで「イカゲーム」を筆頭に世界ヒットを飛ばしてきた韓国ですが、リアリティショーのジャンルではこの「フィジカル100」が初めてNetflix公式の週間グローバルTOP10 (非英語TV部門)で世界1位の記録を達成しています。

国体選手をはじめスポーツエリートも参加。筋力、持久力、敏捷性、バランス、そして意志の力を競う(画像:Netflix)

シーズン1が2023年1月に全世界配信されたとき、未知数の番組という印象が強く、そもそもバラエティ番組は地域限定の人気になりがちですが、それでも各国で順位を上げていき、世界1位にまで上昇。多少粗削りな部分がありつつ、「イカゲーム」がヒットした理由のように、ゲーム内容そのものはシンプルに、セットがとにかく映えます。そして赤いつなぎ服ほどのインパクトはありませんが、石膏の胴体というキャッチーな象徴アイテムを揃えるセンスの良さが光っていたことが大きそうです。

シーズン1で実績を作った後、次作の制作にすぐさま取り掛かり、そんな勢いも味方にしてか、2024年3月19日に全世界配信が開始された「フィジカル100」シーズン2: アンダーグラウンドは初週で早くも世界1位を獲得。87カ国で週間TOP10入りを果たしています。北米から欧州、アジア、アフリカと、地域に偏ることなく人気を得ていますが、日本は含まれていません。PR用のTikTokショート動画を通じて徐々に知られているといった状況でしょうか。決勝戦エピソードが配信された4月2日に全9話が揃ったところです。

現役の国体選手から俳優まで真剣勝負

日本円で約3300万円にあたる3億ウォンの賞金獲得を目指す参加者には、現役の韓国国体選手や少し前までそうだったスポーツエリートが100人中、30人もいます。総合格闘技UFCでかつて活躍したキム・ドンヒョンなど知る人ぞ知る顔ぶれも。また流行りのクロスフィットトレーナーから、ボディビルダー、ストリートダンサー、ユーチューバー、スタント俳優まで筋トレが日常茶飯事の面々が登場し、警察官や大工、経営者など職業にバリエーションを持たせています。体格も44キロから200キロまで幅広く、シーズン1より女性の出場者が増えています。

総合格闘技UFCでかつて活躍したキム・ドンヒョンは注目参加者の1人(画像:Netflix)

Netflix作品の顔なじみメンバーもいます。前作に参加した元消防士をはじめ、人気恋愛リアリティショー「脱出おひとり島」に出演したタレントや、「ペーパー・ハウス・コリア」でオスロ役を演じた俳優のイ・ギュホ、そして「ONE PIECE」からはゾロ役の新田真剣佑を真似た筋肉系コスプレイヤーが参加しています。ただし、イロモノ枠だと思わせるのは登場シーンだけです。番組では「クエスト」と呼ぶ、生き残りをかけた競技が始まると、参加者の誰もが真剣勝負を余儀なくされます。ラブコメ韓国ドラマの常連俳優イ・ジェユンも特別扱いされることなく、汗まみれの姿を見せます。

参加者の人数は100人。生き残りをかけた競技「クエスト」が行われる(画像:Netflix)

この番組の良さは、たとえ誰一人わからなくても、筋力、持久力、敏捷性、バランス、そして意志の力を競う過酷な「クエスト」に挑戦する姿そのものに面白さを見出していることにもあります。懸垂の回数をただただ数えている場面でさえも、その数に圧倒されてつい見てしまうといった具合です。例えるなら、関心を持っていなかった五輪種目をたまたま見始めたら、緊張感あふれるその姿に魅了されて見るのがやめられないという感覚に近いのかもしれません。つまり、参加者のキャラクター性に頼り過ぎていないのです。中途半端な笑いの要素やMC、スタジオコメントもありません。

男女の性差があってもハンデはなく、一対一のデスマッチが行われる(画像:Netflix)

基本的には男女の性差があってもハンデはいっさいなし。シーズン1では物議を醸した場面もありました。勝ち残りたいがために、一対一のデスマッチで明らかに体格の差がある女性をマッチョな男性が指名したからです。シーズン2でも男女横並びのルールが変わることはありませんでしたが、今度は女性が男性を指名するという見せ場が作られています。「タイマンには自信がある。私は戦いに来たのでどうせなら強い人と対戦したい」と、潔く言い放った総合格闘家の女性の挑戦は見ものです。

ドラマさながら「地下鉱山」のセット

昨年8月の撮影中、ソウル市内にあるコンベンションセンター内に組まれたセットの一部がプレス公開され、実際にその現場を見て驚いたこともありました。まずはその規模の巨大さです。シーズン1のときからセットの規模感を売りにし、シーズン2ではさらに拡大させて、サッカー場2つ分の敷地面積で撮影が行われたことがわかりました。

さらに、バラエティ番組でもドラマのセットのような作りが世界的には流行っていることを反映させてか、コンセプトも明確です。シーズン1では「古代ギリシャ」、シーズン2では「地下鉱山」をテーマにした世界観のセットを用意しています。60台のダンプカーで運搬された150メートルを超える鉱山トロッコ用鉄製レールと300トンもの砂で構築されたセットは壮観です。

「地下鉱山」をテーマにした理由について、企画したチャン・ホギプロデューサーは、「地下鉱山そのものが、人類が熾烈な競争の中に投げ込まれ、不条理と戦いながら生きていかなければならなかった時代をイメージし、番組の設定にピッタリだと思いました」と語っていました。こうした雰囲気作りによって、参加者の緊張感や高揚感といった感情を引き出す効果を狙っているのです。それは視聴者にも確実に伝わってきます。

またチャンプロデューサーがかつて特殊部隊に所属していたことが番組作りに大きく影響したようです。「陸軍に入隊して、特殊部隊にいました。そこはまさに『フィジカル100』のミニマム版のようにたくさんのクエストがあり、すべての訓練をこなさなければならない。しかも皆、強者だらけ。そんな特殊部隊から芽生えたアイデアです」。

強靭な身体を追い求める超硬派なスポーツエンターテイメントというと、日本の「SASUKE」がこのジャンルを開拓したわけですが、時代に合わせた新しい見せ方が「フィジカル100」にはあります。加えて、音楽、映画、ドラマの世界ヒットをバラエティ番組でも生かす攻めの姿勢が番組人気につながっているのかもしれません。

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