(写真:プラナ/PIXTA)

「ずっと結婚しないままでいると、若いうちはいいけど老後は一人ぼっちで寂しくなるよ」という声が特に既婚の高齢者から寄せられます。

確かに、結婚し子や孫に囲まれて過ごす老後と比較すれば、一人のままで暮らす人の生活は、客観的に見て「寂しい」ものと映るのかもしれません。実際、生涯未婚の人はやがて親も他界し、会社を定年退職した後は他者とのつながりもなくし、終日誰とも会話することのない日々が続く人もいます。

結婚したとしても「老後一人ぼっち」に

しかし、「結婚すれば一人ぼっちにならないか」といえば、必ずしもそうではありません。たとえ、結婚したとしても、配偶者との離婚で一人に戻る可能性もあります。離婚だけではなく、仲睦まじい夫婦であっても老後の配偶者との死別は避けられません。必ずどちらか一方が先に亡くなり、残されたほうは一人になってしまいます。

つまり、有配偶者であっても、生涯未婚者と同様「老後一人ぼっち」になる可能性があります。そして、その際留意したいのは、「一人ぼっちの寂しさ」に弱く、孤独耐性がないのは、女性よりも男性のほうです。

内閣府の実施した2023年「孤独・孤立の実態把握に関する全国調査」によれば、60代において「孤独を感じる」割合は、有配偶男性は15%であるのに対し、未婚男性は37%、離別男性は33%と、有配偶か否かで倍以上の開きがあります。

ちなみに、同じ60代女性の場合は、有配偶13%、未婚19%、離別22%と配偶関係でそれほど大きな違いはありませんが、男女とも共通しているのは「一人が寂しい」と思うのは、ずっと未婚でいた場合と同等並みに、一度結婚した後にまた一人に戻ったほうが強く感じる場合があるということです。

2020年の国勢調査において、生涯未婚率(50歳時未婚率)は、男28.3%、女17.8%となり、これは国勢調査の始まった1920年以来過去最高記録となりましたが、未婚だけではなく離別や死別も含めた独身の割合についてはあまり話題になりません。

そこで今回は、還暦独身率(60歳時点における未婚離別死別合計の独身率)について計算してみます。計算式は、50歳時の未婚率を計算する生涯未婚率同様、55〜59歳の独身率と60〜64歳の独身率を平均したものとします。

それによれば、2020年の国勢調査のデータでは、還暦独身率は男性29%、女性は27%となりました。これは生涯未婚者も含めた数字ですが、未婚者を除外した婚歴有(離別死別)のみ独身率で見ると、男性10%、女性17%と女性のほうが上回ります。男女の数字の差異については後述します。

まとめると、結婚しようがしまいが、男女ともほぼ3人に1人は60歳の還暦を迎える時点で独身であるということであり、たとえ結婚しても男性の1割、女性の2割は還暦祝いを一人で迎えることになるかもしれないのです。

還暦独身率の長期推移を見ると…

この還暦独身率と婚歴有還暦独身率を1920年からの100年間の推移で示したのが以下のグラフです。

実は、大正時代の1920年から戦後復興期でもある1950年代までは、還暦独身率は男性で約2割、女性で4割強もありました。この時期は皆婚時代で生涯未婚者はほぼなく、離婚も少なかったので、そのほとんどが死別による独身者が多かったようです。

単純に全体の平均寿命が延びた分だけ、60歳時点での独身率が減り続けたわけですが、それは裏を返せば、戦前は老後に一人ぼっちに戻っても、寿命の関係で「一人で生きる期間」は短かったことになります。しかし、男女ともに平均寿命が80歳を超える現代においては、60歳で一人に戻ったとしたら少なくともあと20年は一人で生きていく必要があることになります(高齢再婚でもしない限りは)。

むしろそうした「老後一人ぼっち」という覚悟ができているのは、未婚者及び婚歴有でも女性のほうだけで、現在既婚の男性は「妻が看取ってくれる」と安心しきっている場合が多いのではないでしょうか。だからこそ、定年退職後に熟年離婚などを突きつけられると、一気に話し相手のない生活となり、元既婚男性のほうが途方に暮れるのです。

婚歴有の還暦独身率・都道府県ランキング

さて、そんな婚歴有の還暦独身率ですが、都道府県別の違いについても見てみましょう。男性の1位は、宮崎県、次いで沖縄、福岡と続きますが、トップ10の中に、九州沖縄勢が6県も含まれます。一方、女性の1位は沖縄県、次いで青森、宮崎と続きます。男女ともトップ10は、宮崎、沖縄、福岡、鹿児島、高知、愛媛、北海道、大阪でほぼ共通しています。反対に、男女共通して婚歴有の還暦独身率が低いのは、滋賀、福井、長野あたりとなっています。

このランキングを全国平均値との差分で独身率の高いプラスを赤系、マイナスを青系で色分けするとエリアごとに興味深い結果が浮き彫りになります。

婚歴有の還暦独身率が高いのは男女ともにほぼ近畿から先の西日本に集中し、反対に低いのは東日本に集中しているという点です。

離別と死別の独身者といっても60歳時点では男女とも死亡率は少ないので、これは離婚によって独身となった割合に大きく影響されます。実際、都道府県の2020年の特殊離婚率との相関を見れば、男性0.4976、女性0.4231と男女とも正の相関が見られます。東日本の中で北海道と青森だけ独身率が高くなっているのも、それらふたつの地域の離婚率が高いことで説明ができますし、滋賀や福井の独身率が低いのもそもそも離婚率が低いからと言えます。

独身率に男女で10%ポイントもの差がつく背景

では、離婚の影響が大きいとしたら、男女で離婚率は同じはずなのに、なぜ独身率に男女で10%ポイントもの差がつくのかと思うかもしれません。が、離婚しても再婚はします。そのうえで、再婚率は男性のほうが高く、再婚相手は初婚女性を選ぶ割合が高いからです。

私はこれを「時間差一夫多妻制」と呼んでいますが、離婚した男性が再婚のたびに初婚女性と結婚することが多いために、結果として「未婚男性余り現象」が発生します。冒頭で書いた通り、離婚した男性は未婚男性並みに孤独耐性がない寂しがり屋ですので、「離婚後の一人ぼっち」に耐え切れず再婚活動にいそしむのでしょう。逆に、四国や九州沖縄地方の女性は、離婚後は一人で生きていけるたくましさがあるのかもしれません。

また、「寂しがり屋」という観点でいえば、北海道や東北各県の離婚男性にも言えます。これら北国地域の離婚率はかなり高めで全体的に40%以上の離婚率ですが、離婚した男性の再婚達成率も西日本全体に比べて高く、結果青森以外の東北各県の男性還暦独身率が低くなっています。

しかし、それは皮肉にも未婚男性の初婚相手となったかもしれない未婚女性を奪うことになり、特に東北地方において、「結婚したくても相手がいない」ことによる初婚数の大幅減少状況を作り出してしまっています。

結婚しても誰もがいつかは一人に戻ることがある

今回は60歳という年齢に絞って分析しましたが、さらに年齢があがれば、特に男性の死亡率が高まり、75歳以上になると圧倒的に死別による独身戻り女性が増えます。国立社会保障・人口問題研究所の推計によれば、2040年には未婚と離別死別による独身者を合わせた15歳以上人口の割合は、ほぼ有配偶人口と同等になります。つまり、人口の半分は独身者(ソロ)になるわけで、もはやマイノリティではなくなります。

独身というと若い年代を想像しがちですが、長く続く少子化によって若者人口は減少しています。すでに、男性の場合は、若者(34歳まで)の独身人口より35〜64歳の中壮年独身人口のほうが上回っており、それはやがて65歳以上の高齢独身人口が最大化することになります。

結婚しても、誰もがいつかは一人に戻ることがある。もちろん、結婚した時点で離婚や死別のことなどを考える人はいないでしょうが、確実に訪れる未来に向けて「老後一人ぼっちになったときに自分はどう生きるか」を考えたりすることも大切かと思います。

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