グローバルプラットフォームによる、オリジナルドラマや映画が続々と配信されるなか、“誰も観たことのない作品”の製作を掲げ、話題作を多く生み出しているNetflix。
最近では、俳優の賀来賢人がNetflixに企画を持ち込み、原案&主演を務めた『忍びの家 House of Ninjas』の世界的ヒットが注目され、佐藤健が主演&共同エグゼクティブ・プロデューサーを務める『グラスハート』(2025年配信)も製作が進んでいる。
日本でも演者による企画、プロデュースの流れが一般的になり、世界につながるNetflixが受け皿になっていくのか。
一方、ネットニュースやSNSを大きく盛り上げるのは、テレビの地上波連続ドラマの話題がほとんどだ。そんな状況をNetflixはどう見ているのだろうか。映画会社・日活からNetflixに移籍したコンテンツ部門ディレクターの髙橋信一氏に聞いた。
SNSで話題沸騰の「シティーハンター」
現在SNSを中心に話題を呼んでいるのが、1980〜1990年代の人気漫画を実写化したNetflixの最新映画『シティーハンター』だ。Netflix週間グローバルTOP10(非英語/映画)初登場1位を記録 (4/22~28)。髙橋氏は本作でエグゼクティブ・プロデューサーを務める。
そんな本作の魅力について、髙橋氏は「日本の実写映画でまだやれていないことを考えたときに、この原作でこれまでにない新しいガンアクションに挑戦したいと思ったのが、製作のきっかけです」と振り返る。
加えて、『シティーハンター』の魅力として伝えたいと髙橋氏が考えたのが、物語の舞台になる街であり、この10年で大きく変わった令和の新宿・歌舞伎町だ。
そこには日本の歓楽街の歴史がある。かつて混沌として、危うい輝きを放った東洋一のネオン街は、時代の流れのなかで浄化され、クリーンな街へと生まれ変わりつつある。その一方で、ここ数年の歌舞伎町には、トー横キッズと呼ばれる若者たちが集まり、闇や影の部分が再び色濃くなっている印象もある。
本作は、セットではなくロケ撮影を通して、生々しい歌舞伎町の街のにおいを劇中に漂わせている。それが物語のなかで重要な役割を担っているのだ。
歌舞伎町は「シティーハンター」の重要な要素
ロケは、歌舞伎町シネシティ広場をはじめ歌舞伎町内の各所で敢行された。大勢のエキストラが参加したロケは、新宿区、歌舞伎町商店街、新宿警察署の協力を得て実現したものだ。これも歌舞伎町の空気感を伝える重要な要素であり、歌舞伎町の日常の夜がリアルに映し出されている。
Netflix映画『シティーハンター』©北条司/コアミックス 1985「新宿・歌舞伎町は『シティーハンター』のアイコニック的存在であり、主役といっても過言ではないほどです。歌舞伎町でのロケは何としても実現したく、かなり時間をかけて、地元と丁寧にやりとりを進めてきた結果、快く受け入れていただきました。これまでにも歌舞伎町で撮影した映画はありますが、それらをしのぐ、異例の規模になっています」
インバウンド観光需要の高まりとともに、歌舞伎町は外国人観光客でにぎわっている。そんな日本を代表する繁華街を映画でフィーチャーするのは、作品にとっても、街にとってもメリットが大きいだろう。
Netflix映画『シティーハンター』©北条司/コアミックス 1985「歌舞伎町で撮影をしたい作品は多いのに、撮影できないのはとても悲しいこと。本作をきっかけに、歌舞伎町での撮影が増えたらうれしいです。撮影環境を含めて、日本の映像業界がよりクリエイティブに発揮できる環境になっていってほしいという思いがあります」
徹底的に作品と向き合い続ける髙橋氏の映像業界歴は長く、岩井俊二監督の映画制作会社・ロックウェルアイズで劇場用映画、CMやミュージックビデオ、ドラマなどの映像作品のプロデュースを8年ほど手がけた後に、日活に移籍した。
日活では、それまでと同様の映像作品を手がけながらも、バラエティや音楽ドキュメンタリーなど仕事の幅を広げた。
日活からNetflixに移籍した
「その頃ですね。Netflixのオリジナルコンテンツの規模感やエンターテインメント性に衝撃を受けたのは」
日本映像製作の常識の範疇にとどまらない企画性、日本だけでなく海外の観客にも作品が直接届くグローバルプラットフォームであるNetflixを次のステージとして一歩を踏み出した。
Netflixに移籍したコンテンツ部門ディレクターの髙橋信一氏(写真:筆者撮影)髙橋氏がNetflixで手がけてきたのは、脚本開発などの企画立案から、製作プロデュースに至るまでの、映像コンテンツ製作全般だ。
2020年の入社からすでに『浅草キッド』『ゾン100〜ゾンビになるまでにしたい100のこと〜』『地面師たち(2024年世界独占配信予定)』『極悪女王(2024年世界独占配信予定)』などの映画やドラマから、『LIGHTHOUSE』『トークサバイバー!』といったバラエティ、日米韓チーム共同プロデュースの『ONE PIECE』など話題作を多くプロデュースしている。
髙橋氏に、Netflixとそれまでの日本の映像会社との仕事の違いを聞いてみると、「視聴者から楽しんでいただけるのであれば、前例のない、見たことも聞いたこともないような企画でも、背中を押してくれる環境が大きい」と語る。
「企画の検討でポイントになるのは、物語のどこに新規性があり、視聴者はどこに驚いてくれるのか、どこに喜んでもらえるのか。作品のコンセプトやテーマに共鳴してもらえるか。この物語はおもしろいのかといった部分に注力しています。原作が何万部売れているか、既存のファンがどのくらいいるのかなどは、企画の検討の過程で話題にあがったことがありません。たしかにファンベースは大事なのですが、最優先事項には決してなりません」
そうなると、企画の最重要ポイントはどこになるのだろうか。
「新しい主人公像であったり、その主人公が成し遂げていく物語に、いままでにないストーリー性があるかどうか。それを映像化してみたいと思うか。誰も見たことがないものを追求していくことが、いちばん重要かもしれないです」
冒頭でも述べたように、ここ最近のNetflixには、俳優たちと共同で作品を製作する流れがある。
俳優のなかには、演じるだけではなく、演出やプロデュースに興味を持ち、Netflixシリーズ『グラスハート』では共同エグゼクティブ・プロデューサーとして参加している佐藤健や『イクサガミ』でアクションプランナー兼プロデューサーとしても参加をする岡田准一のようにクリエイティブ面を含めた製作全般に関わって、作品をよりよくしていこうという意識が強い演者も少なくない。
俳優が企画製作をする作品が続く理由
ハリウッドなど欧米では、俳優が製作会社を立ち上げ、自ら企画・製作や出演するケースが以前からあるが、日本でもそれが一般的になっていくのだろうか。
それに対して髙橋氏は「たまたまNetflixでそういった作品が続いているというのはありますが、いま改めてそのトレンドを感じることはありません」と語る。
「主演&プロデュース企画」として俳優の名前が前面に打ち出される作品は、その俳優たちのファンベースがヒットのカギとなるのであれば、多くのファンを抱える原作を映像化したエンターテインメント大作と、企画の立て付けは変わらないようにもみえる。
しかし髙橋氏は「そこは意識していない」と否定する。
「Netflixが俳優の企画を優遇しているわけではありません。先ほどの話と同じですが、あくまで企画がいいことが大前提です。『忍びの家』には、映像化するにあたって映像化するべき新しい発想がありました。俳優の方たちが賀来賢人さんの熱量に反応して、新しいチャンスだと感じることで、こうした作品が増える、というのはあるかもしれません」
そうした流れが増えていけば、日本でのユーザー数の多さに加えて、ワンストップで世界へつながるNetflixは、その受け皿の位置づけとして最上位になるだろう。
「俳優のみなさんを含む日本のクリエイターの方が新たなチャレンジをするうえでNetflixはその選択肢の1つですが、オリジナル作品を生み出すのが難しい時代のなかで、企画性を最重視することに魅力を感じていただけているのであれば、こんなにうれしいことはありません。ただ、われわれはオリジナルも、原作IP(知的財産)もバランスよくやっていきたい。多方面の方々にNetflixの作品群に興味を持ったり、共鳴していただければうれしいです。
俳優の方だけではなく、映画業界、テレビ業界関係なく、日本のクリエイターみなさんにそう思っていただきたいです。原作の認知がいかに大きいか、という物差しではなく、この物語はこれだけおもしろいんだという情熱や挑戦の1つを一緒にやっていきたいという思いです」
地上波ドラマに対する考え方
一方、日本はアニメやドラマをはじめ国内コンテンツが圧倒的に強い市場と言われている。2024年は『不適切にもほどがある!』(TBS系)が旋風を巻き起こした。ネットニュースやSNSを大きく盛り上げるのは、こうした地上波連続ドラマの話題がほとんどだ。
オリジナルドラマや映画を製作するプラットフォーマーとして、髙橋氏はその状況をどう見ているのか。
「個人的には地上波ドラマも楽しく拝見していますが、自分の企画においてそのトレンドを意識することはありません。ただ、トレンドが生まれた背景や、視聴者からどこに熱狂していたのかは分析します。
いま考えた企画が作品になる2〜4年後のタイミングに、現在の社会性やトレンドがどう変わっているかを考える要素の1つにはなっています」
髙橋氏はNetflixに入って4年。いま課題に感じていることを聞くとこう答える。
「いま手がけているのが、映画やドラマフォーマット、アンスクリプテッドと呼ばれるバラエティや恋愛リアリティショーを含めて、年間15本前後。もっともっと作品を作っていきたい。魅力的なコンテンツを増やしていくことで、みなさんがテレビをつけたらまずNetflixを見ているというのが理想です。定常的にNetflixを見ていただけるようにするために、より多くのNetflixにしかない作品を作る努力は続けていきますし、それが目標だと思っています」
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