行政機関がマイナンバーを使って個人の情報をやりとりする「情報照会」について、会計検査院が自治体などを抽出して2022年度の利用状況を分析したところ、地方税や年金給付関連など1258種類の事務手続きのうち、38・5%に当たる485種類で利用実績がなかったことが判明した。検査院は15日に公表した報告書で、「紙の書類」の提出など住民側に負担が生じている恐れがあると指摘。デジタル庁などに対し「情報照会」の活用を主導していくよう求めた。
「情報照会」は個人の納税情報などマイナンバーにひも付けされた情報をオンラインでやりとりし、行政を効率化する仕組み。自治体の窓口などで住民票や課税証明書、生活保護受給証明書が不要になるなど、住民側の利便性も向上する。政府は14~22年度だけで全国的なネットワークシステムの整備・運用、自治体システムの改修に総額約2100億円を支出した。だが検査院の報告書は活用が進まない現状を示し、マイナンバー制度を巡る混乱の一端が浮き彫りになった形だ。
今回の検査は、11県と435市町村など451の地方公共団体を抽出して実施された。検査院はデジタル庁や総務省など7府省庁のデータも用い、自治体などが「情報照会」可能な1429種類の事務手続きのうち、1258種類について調べた。
その結果、「情報照会」の利用実績がまったくなかった手続きは485種類に上った。さらに別の649の手続きでも、利用したのは調査対象団体の1割未満にとどまることが分かった。業務フローの見直しやマニュアルの作成が間に合わなかった▽書類を提出してもらった方が効率的だと認識していた――ことなどが自治体側の主な理由だという。
検査院は「本来ならマイナンバーカードを行政の窓口に持参するだけで申請できるのに、手数料を支払って住民票の写しを提出するなど住民側に負担が生じた恐れがある」としている。一方、「情報照会」は試行が始まった17年の149万1000件から年々増え、22年度は3029万5000件となった。
デジタル庁の担当者は検査院の報告書について、「マイナンバー制度全般を推進する立場として重く受け止めている。情報連携の推進は国民の利便性向上という意味でも重要と考えており、事務手続きを所管する省庁への照会件数のデータ提供などを進めていきたい」とコメントした。
「情報照会」を巡っては、検査院が22年10月、生活保護関連の事務手続きについて、175の事業主体の約2割が一度も利用していなかったとする検査結果を公表した。【渡辺暢】
鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。