相続した不動産の登記が4月に義務化された。土地の所有者が分からず災害復興や都市開発の妨げになることを防ぐためだ。重病などの正当な理由がなく、一定期間内に登記しなければペナルティーが科されることも。義務化前に相続している不動産も対象で、専門家は「遺産分割の協議に時間がかかることもあり、早めに手続きを始めて」と呼びかける。 (古根村進然)  2021年に成立した改正不動産登記法によって、今年4月以降は「不動産の取得を知った日から3年以内」に登記を申請することが求められる。  取得を知った日について、相続手続支援センター(東京)名古屋支部の雁部有里香さん(37)=写真=は「通常は被相続人(元の所有者)の死亡日になる」と説明。「ただ、相続が発生したことを知っていても、相続財産に不動産があることを知らなかったり、不動産の所在が分からなかったりする場合は登記義務は生じない」と解説する。  「正当な理由」がなく申請しない場合、法務局が申請を促す「催告」を相続人に通知。応じない場合、10万円以下の過料が科される可能性がある。  正当な理由について、雁部さんは「相続人が重病であることや、遺産分割協議をすることが難しいドメスティックバイオレンス(DV)の被害者、経済的に困窮しているケースが該当する」と語る。相続人が多数いて戸籍関係書類の収集に時間がかかったり、遺言の有効性が争われたりしている場合も含まれる。  義務化された4月以前の相続分は、27年3月末までに登記する必要がある。この場合も登記を怠れば過料の対象になる。  また、手続きがより簡易な「相続人申告登記」も創設された。遺産分割協議が難航して期限に間に合わない場合、自らが相続人であることを法務局に届け出れば義務を果たしたとみなされる制度だ。  ただ、この方法でも、分割協議の決着後3年以内に相続登記をすることが求められる。相続人が複数いるケースでは、各自が行わなければならないことにも注意が必要。さらに、雁部さんは「相続人申告登記をしても不動産の所有者になるわけではない」と注意を促す。対象となる不動産を売ったり、抵当権を設定したりはできない。  登記すれば、その人の住所が載った証明書類が第三者にも閲覧可能となるが、今回の義務化に合わせてDVやストーカーの被害者らは、現住所の代わりに弁護士事務所や被害者支援団体などの所在地を記載できるようにした。  登記の手続き自体は司法書士らの専門家に頼らず、相続人本人でもできる。ただ、被相続人の出生から死亡までの戸籍や、遺産分割協議書といった必要書類に加え、不動産価格に基づく登録免許税の計算も求められる。雁部さんは「書類の収集などには時間がかかり、専門家でさえ申請を終えるまでに通常2カ月ほどかかる。被相続人が養子縁組や離婚などをしているケースでは、さらに時間が必要になる」と指摘。それぞれの状況に応じ、専門家への依頼も検討するよう促している。

<相続登記> 土地や建物の所有者が亡くなった場合、相続した人が法務局に届け出て、名義を変更する手続き。これまで任意だったことが、所有者が分からない土地を生む要因の一つとされてきた。国土交通省によると、全国の713市区町村が2022年度に実施した地籍調査で、不動産登記簿だけでは所有者の所在が分からない土地の割合は約24%にのぼる。相続後の未登記が目立ったほか、所有者が転居後に住所の変更登記をしていないケースもあったという。

◆相談件数も増加傾向 司法書士会連合会 50カ所にセンター

 日本司法書士会連合会(東京)によると、相続登記に関する司法書士への相談件数は増加傾向にあり、登記義務化の影響が大きいとみている。  連合会は2021年3月、全国50カ所の司法書士会に「相続登記相談センター」を設置。共通のフリーダイヤルを設け、相続登記についての相談予約を随時無料で受け付けている。連合会によると、各センターへの相談件数は21年度に計4666件だったが、23年度には倍近い計8882件となった。自分以外の相続人と連絡を取ったり、必要な戸籍を収集したりすることが難しいといった相談が寄せられているという。  連合会の里村美喜夫副会長は「相続人が大勢だったり、相続人に認知症の人がいて、成年後見人が必要だったりして煩雑な手続きが求められる場合もある。気軽に相談してほしい」と話す。(問)同センター=フリーダイヤル(0120)137832 

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