きなこ3個、あんこ2個がセットになった定番メニューの「安倍川もち」=静岡市駿河区で

 江戸時代に東海道の宿場町として栄えたころから、広く愛されてきた静岡市の「安倍川もち」。もちにきなこをまぶしたものと、もちをこしあんで包んだものと両方が楽しめ、小ぶりで弾力があるのが特徴だ。  静岡を代表する銘菓で、複数の企業が手がける。ただ、戦時中は物資不足で生産が途絶えてしまった。戦後に復活させたのが、やまだいち(同市)の創業者、故山田一郎氏だ。  戦後の混乱期、菓子の原料の配給統制は厳しく、なかなか許可が出なかった。「地元の銘菓を何としても復活させたいと、先代は決して諦めなかった」と2代目の照敏(てるとし)さん(73)。当時の静岡市長をトップに「安倍川もち保存振興会」を設立。官民挙げて国と何度も交渉し、全国初となる菓子原料の特別配給にこぎつけた。  1950年3月、静岡駅で1箱50円で販売したところ、人気に。その様子はNHKラジオで全国放送された。その後、旅行仲間と気兼ねなく食べられるようにと、1人分ずつの個包装になり、持ち帰りやすい土産品として全国に広がった。当時の昭和天皇、香淳皇后も各地への視察などの際、わざわざ静岡駅で電車を止めて買い求めたという。  素材にはとことんこだわる。国産のもち米を杵(きね)でついてこしのあるもちに。毎朝仕込む手作りで、より生のもちに近い味わいを目指している。きなことあんこは、北海道産の大豆と小豆を使った自家製だ。  同社が土日祝日に営業する静岡市駿河区登呂の「もちの家」では、できたての安倍川もちを提供している。もちは注文が入ってから小さくちぎり、きなこをまぶしたり、こしあんで包んだり。実際に作ってもらうと、手際良くあっという間に1人前が完成。口に入れるとまだほんのり温かく、かみしめるほどに上品な甘さが広がった。  安倍川もちは、徳川家康が命名したとの逸話も。照敏さんは「歴史や伝統を守りながら、これからもお客さんに良いものを届けていきたい」と力を込めた。  文・河野紀子 写真・立浪基博

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 やまだいちの安倍川もち=写真=はJR静岡、浜松、掛川各駅の売店などで販売している。きなこ3個、あんこ2個の1人前が個包装になっており、2人前600円から。  安倍川もちは、江戸時代の滑稽本「東海道中膝栗毛」にも登場しており、同社の包装紙には主人公の喜多八が描かれている。  遠方の人には、電話での地方発送を受け付けている。平日午前9時~午後2時に、フリーダイヤル=(0120)228218=へ。


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