ヒトのiPS細胞(人工多能性幹細胞)から、精子や卵子のもととなる細胞を大量に作る方法を開発したと、京都大の研究チームが発表した。チームの斎藤通紀(みちのり)・京大高等研究院教授(細胞生物学)は「簡単に増やせる培養法を確立できた。生殖細胞の形成過程や、不妊が起きるメカニズムなどの解明に応用できる」と期待を寄せる。成果は20日付の国際科学誌ネイチャー(電子版)に発表した。
遺伝情報は精子や卵子といった生殖細胞によって世代を超えて受け継がれるが、遺伝子の働き方を決める情報は世代ごとにリセットされている。ヒトの場合、精子や卵子のもととなる始原生殖細胞が、親世代から受け継いだ情報を消去して「初期化」されると、前精原細胞・卵原細胞を経て精子・卵子に分化する。しかし、この過程は謎に包まれ、ほぼ未解明の状態だった。
斎藤教授らのチームはこれまでにヒトiPS細胞から始原生殖細胞に非常によく似た細胞(PGC様細胞)を作り、マウスの細胞と混ぜて培養することで、卵原細胞を作ることに成功していた。しかしこの方法は効率が悪く、マウスの細胞に頼らざるを得ないことも課題だった。
今回の研究で、チームは生殖細胞の分化に必要な「初期化」に働く特定のたんぱく質を突き止めた。このたんぱく質をPGC様細胞に加えたところ、初期化が起こり、前精原細胞・卵原細胞に分化させることに成功した。さらに、この細胞は分化しながら膨大に増えることも分かった。
斎藤教授は「ヒトで『初期化』がどのように起きているかを詳細に突き止めることができた。今後は、前精原細胞・卵原細胞から精子・卵子を作る研究を進めたい」と話す。【菅沼舞】
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