[著者プロフィル]田原史起(たはら・ふみき)/東京大学大学院総合文化研究科教授。1967年、広島県生まれ。一橋大学大学院社会学研究科博士課程修了。社会学博士。専攻は農村社会学、中国地域研究。『草の根の中国─村落ガバナンスと資源循環』(東京大学出版会)でアジア・太平洋賞大賞を受賞。(撮影:梅谷秀司)中国各地の農村に20年以上通い、人々と酒を酌み交わして見えてきた現実。圧倒的多数派である農民の実像を知れば、中国観察の解像度が格段に上がる。『中国農村の現在 「14億分の10億」のリアル 』(田原史起 著/中公新書/1056円/304ページ)書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします。

──現在の中国の農村社会を包む空気を「まったり感」と形容しているのが印象的です。

中国人14億のうち、10億は農村とその周辺に軸足を置いて生活している。中国の都市化率(都市に住む人口の比率)は2023年で66%にまで上昇したが、農村戸籍のまま都市に住む人も多い。そうした人々の生活基盤は今でも故郷の「県」にある。

中国では、中央政府の下に省、市(地区)があって、その次が県となる。伝統的に、中央から官僚が派遣される最末端の単位が県だ。これが全国に2000ほどあり、平均的な人口規模は50万人といったところだろう。県は都市と農村の双方を含む最もコンパクトな地域社会(県域社会)で、中国社会の「細胞」だといっていい。

県の中心である小都市「県城」の雰囲気はどこも似通っている。北京や上海のような大都市の競争社会とはまったく違い、ぬるま湯につかって現状維持をよしとする「まったり」としか形容できない空気だ。そして習近平政権が進める「新型都市化」とは、小都市である県城に若い世代の農民を引きつけ、「まったりした世界」に同化させる取り組みだとみている。

この記事は会員限定です。
登録すると続きをお読み頂けます。

ログイン(会員の方はこちら) 無料会員登録

登録は簡単3ステップ

東洋経済のオリジナル記事1,000本以上が読み放題
おすすめ情報をメルマガでお届け

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。