政府の成長戦略として科学技術政策の指針を示す「統合イノベーション戦略2024」が3日、まとまった。人工知能(AI)や核融合発電といった先端技術への投資を拡大するだけでなく、国際ルールづくりを主導することが国際競争力の向上に必要だと強調した。
首相官邸で開いた総合科学技術・イノベーション会議で決めた。戦略は①先端技術の開発と支援②国際ルール策定の主導③AI分野の研究開発の強化と安全確保――を3本柱に据えた。近く閣議決定する。
岸田文雄首相は会議で「科学技術創造立国の実現に向けた第一歩だ。ゲームチェンジャーとなりうるコア技術の開発を進め、他の戦略分野との融合による研究開発に取り組んでいく」と発言した。
戦略は日本がデフレ傾向に苦しんだ「失われた30年」のなかで民間企業の研究開発投資は海外と比べて相対的に低下していったと指摘した。
一方で変化の兆しに注目する。長年コストカットの対象になりやすかった企業の設備投資が2024年度はおよそ105兆円にのぼる見通しだ。1991年度の102.7兆円を超えて、バブル期以来の過去最高更新が視野に入る。
この「潮目の変化」を経済成長につなげる具体策として、AI利活用の推進や若手研究者らの人材育成に取り組む必要性を挙げた。
AIは活用と安全対策の両面で進める。生成AIを利用した誤・偽情報の拡散については表現の自由に配慮しながら国際的な連携など制度面を含む対策を進めると提起した。
欧州連合(EU)ではAI規制法が成立している。日本も法規制を念頭に今夏にも「AI制度研究会(仮称)」を設置し具体的な検討に着手すると明記した。
政府は5月、社会的影響が大きくリスクも高いAI開発事業者を対象に「法的規制のあり方を検討する必要がある」との認識を示していた。
先端分野として核融合技術も重視する。核融合発電を「次世代のクリーンエネルギーとして諸外国における民間投資が増加している」と紹介し「早期実現をめざし、発電実証時期を明確化する」と書き込んだ。
政府は24年度中に発電の産業化に備えて安全確保や規制のあり方に関して基本方針を定める。日本は発電の実現時期を「50年ごろ」と想定するものの、これまで実証時期は明示していなかった。米国や中国などは早ければ30年代の実証をめざす。
バイオテクノロジーも成長分野に位置づける。循環型社会の実現に向けて、バイオマス(生物由来資源)関連の市場規模を100兆円に引き上げることを目標に設定する。産官学の連携を推進する。
企業の国際競争力を高めるには、国際ルール策定を主導する努力も欠かせない。戦略は主要7カ国(G7)や東南アジア諸国連合(ASEAN)などと協力して、国際規格づくりを主導すると掲げた。25年春をめどに「国家標準戦略」をまとめると記載した。
研究開発の強化や人材育成は10兆円規模の大学ファンド活用で後押しする。世界トップレベルの研究水準をめざして政府が手厚く支援する「国際卓越研究大学」が中核になる。
東大の川島真教授は研究開発力の強化には、コストカットで足腰が弱った研究環境の整備も重要だと説く。「大学など研究機関の体力は低下した。人員不足や研究者の事務負担といった課題を解決しなければ投資を増やしても効果が出にくい」と話す。
企業や大学の研究開発費は科学技術・学術政策研究所による直近のデータで米国の82.5兆円、中国の48.5兆円に対し、日本は19.7兆円で4分の1から半分ほどの水準にとどまる。米中は金額を年々増やしており、その差は拡大している。
研究水準も危機的な状況にある。論文引用の回数でトップ10%に入る注目論文数は19〜21年平均で日本は13位に沈み、20年前の4位から大幅に後退した。
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