政府の知的財産戦略本部(本部長・岸田文雄首相)は4日、「知的財産推進計画2024」を決定した。経済安全保障に関する技術や知財の流出防止策として流出リスクに応じたアクセス管理などに取り組む方針を明記した。日本に有利な「国際規格」の拡大に向けた25年春の国家戦略の策定も盛り込んだ。
知財計画は知財の保護や活用など多様な分野について各省庁の政策の方向性を示す。首相は「国際競争力を強化していく上で、科学技術政策や経済安全保障政策との連携は不可欠だ」と強調した。
経済安保の技術流出に関して計画では「国際的な研究開発で技術流出のリスクが生じており、リスクマネジメントの徹底が図られるべきだ」と指摘した。資金を拠出するなど国が委託する研究開発事業に特化し、内閣府や関係省庁が具体的な議論を進める。
営業秘密侵害事犯の検挙事件数などは近年、増加傾向にある。23年6月には国立研究開発法人・産業技術総合研究所(茨城県つくば市)に所属する中国籍の研究員が、研究データを中国企業に漏らした疑いで逮捕された。
研究事業の委託先からの知財の流出防止も課題だ。政府が研究開発を民間企業に委託した場合、民間企業が知財権を保有することが可能になる。企業の親・子会社が外資だったり外資に買収されたりすると、重要技術の国外流出の懸念が残る。
知財計画には日本に有利な「国際規格」の拡大も盛り込んだ。人工知能(AI)や量子など先端技術のほか、環境や経済安保を主な戦略領域に想定し、日本企業の海外展開を後押しする。官民連携で取り組む新たな国家戦略を25年春をめどに策定すると示した。
国際規格は国際標準化機構(ISO)や国際電気標準会議(IEC)といった機関が作成する。これらの枠組みで品質管理や互換性確保を目的に製品・部品の標準仕様を定める。日本企業にとって自社の技術や活動に適合する国際規格が採用されれば、市場創出や市場競争力向上につながる。
中国、欧州連合(EU)、米国はすでに国家戦略を発表している。日本は知財戦略本部が06年に「国際標準総合戦略」を発表したが、最新の国際情勢を踏まえた国家戦略を欠いてきた。
知財のAIによる活用のあり方にも触れた。首相は知財保護とAI活用の両立に向け「手引きなどを作成・公表し、事業者や権利者の取組を促進する」と述べた。
AIが創作に関与しても「人を発明者に認定すべきだ」と明記した。現時点ではAIが自律的に創作活動をしているという事実は確認できないと判断した。今後の技術進展や国際動向を踏まえ引き続き検討すると言及した。
ネット上の海賊版対策では官民の実務者会議を設置する。サーバーが国境を越えているケースや匿名運営を可能とするサービスの出現により、サイト運営者の特定が困難になっている。最新情報の共有を図りながら、海賊版に対する取り組みを官民一体となって進める。
「声」の権利保護を巡っては、関連法における論点整理をする方針も示した。声優や俳優の声を無断で学習した生成AIでつくった合成音声の開発や販売は問題になっている。知財計画と同日に公表した「新たなクールジャパン戦略」では民間ルールの策定も促すと示した。
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