「国会通信簿リターンZ」採録
自民党派閥の裏金事件でまたしても問題化した「政治とカネ」。対応を巡り迷走する自民党や世論から遊離した政治を見るにつけ、カネがかからない政党本位の政治を目指した平成の政治改革とは何だったのかと考えてしまいます。
御厨貴、松原隆一郎の両東大名誉教授がホスト役となり、世代を超えて若い人たちと対話するRe:Ron企画「国会通信簿リターンZ」。「政治をどこから変えるのか」と題した第2回は、女性政治家・候補者を支援するStand by Womenの代表である濱田真里さんと、東京から家業を継ぐため奄美大島にUターン、地方の政治にモヤモヤを抱える西平せれなさんをゲストに迎え、語りあいました。採録版をお届けします。(進行 編集部・吉田貴文)
女性議員は増えてはいるが
――女性政治家・候補者を支援してきた濱田さんですが、この活動を始めた理由は何ですか。
【濱田】政治分野のハラスメントの研究をするなかで、女性議員を増やすためには、彼女たちをサポートする活動が必要だと感じたからです。
現状のように政治の場を男性が占めていると、女性が関わる社会問題が課題として認識されにくい、可視化されにくくなる、といった問題がしばしば指摘されます。たとえば、地方議員を対象にした内閣府の調査で力を入れている分野を聞いたところ、出産、子育て、少子化対策、介護、福祉などにおいて、女性の方がより力を入れているという結果がでました。
女性議員は少しずつ増えてはいますが、1人、2人程度では不十分です。議会で自分の意見を通すには、賛同してくれたり相談したりできる仲間が必要です。あるシンポジウムに登壇した女性議員が、議会に女性が自分1人だけだった時は、本当につらかった。公開されている議会はまだマシで、密室の空間だと孤立してさらにつらく、女性が2人になった時はすごくうれしかったと語っていました。
――西平さんは西平酒造の4代目代表ですが、酒造りの世界も「男社会」との印象があります。
【西平】 まさしく男性社会で、会社でも業界の集まりでも女性は私だけというのが日常茶飯事。東京でミュージシャンをしている時には気付かなかった居心地の悪さ、肩身の狭さを感じます。
――多数派の男性はそういう点に無自覚です。ところで、女性議員が増えない理由の一つに、ハラスメントがあると指摘されます。
【濱田】地方議員が対象の内閣府調査によると、立候補を検討したり準備したりしている時にハラスメントを受けた女性は65.5%。議員になった後は42.3%と約20ポイント減るものの依然、高い。議員になってもなかなか議員として見てもらえないという声も耳にします。政治家は男性がなるものというイメージが強いことも、ハラスメントがなくならない背景にあると思います。
【西平】自分では気づかないうちにハラスメントを受けることもあるので、濱田さんの支援活動は女性議員にとって心強いと思います。
議論が深まるプロセスにするには
――2人の話を聞いていかがですか。
【御厨】いろんな組織や会議に女性を入れようという風潮は強まっていますが、1人、2人ではダメなんです。ところが、たとえば10人の委員会に女性が4人はいると議論の質が変わります。ある女性が発言すると、フォローする女性がいる。さらに議論を発展させる女性も出る。そうなると男性側に気付きが生じて議論が深まる。そういうプロセスを幾度も見てきました。
社会では女性の参加が必要だという段階は通り越して、「数が質に転化する」段階に来ています。なのに政治の場では女性議員がなかなか増えない。ただ、国会はともかく地方では、女性議員が増えている議会もあるようです。いいことだと思います。
【松原】経済では1990年代から、特に消費財の購買者は女性ということで、生産側に女性の視点が必要だと言われてきました。しかし、現実には現場の変化は遅い。業績アップのためにも変えるべきでしょう。
政治について言うと、私は東京都杉並区在住ですが、区長が女性になってまちの雰囲気が盛りあがっています。何かを変えるために、女性パワーが必要な時代だと感じます。
【濱田】「数が質に転化する」という視点は大事です。先ほど、内閣府の調査だと女性の方が子育てや介護などに関連する政策に力を入れる傾向が強いという話をしましたが、本来は男性的なテーマと女性的テーマがあるのがおかしい。
男性と同じように女性もそれぞれ思想や専門を持っています。しかし、女性が少ないので、子育てを取り上げるべきだという風になってしまう。数が担保されると、女性議員もそれぞれが持つ多様性を生かせます。その意味でも数は重要です。
【松原】大学院にいる女性の関心分野は安全保障、哲学など多岐にわたります。この多様さがどうして政治に反映されないのか。女性議員だから子育ての問題をやりなさいというのは、不思議な気がします。
島の将来めぐり若者がけんかも
――話を「地方」に移します。地方は首長によって変わる。地方自治はかつて「民主主義の学校」と言われましたが、課題が山積する今の地方では、「課題解決の実験場」にも見えます。東京から戻ってみる奄美大島はどんなところですか。
【西平】2021年に世界自然遺産に登録されるなど認知度が上がるにつれ、自分たちの島っていいところだという意識が高まっています。私たち30代をはじめ、20代や10代といった若い世代の中でも、奄美を盛り上げよう、発信力を強めようという熱気が高まっているように感じます。
土地に根付くお酒の黒糖焼酎と、音楽の島唄、織物の大島紬(つむぎ)がある最高の島と思っていますが、どうやって守り、将来につなげていくか。集まって議論していると、けんかになることもあります。島をどうにかしようという空気が若者の間にあります。
昨年の市議選では、うちの会社の当時20代の社員が立候補してトップ当選しました。パラオで観光ガイドをしていた経験を生かし、奄美からグローバル展開しようと頑張っています。
ただ、市議会全体の現状を見ると、30代が2人、女性も2人しかいません。そこで、次回の27年市議選には皆で立候補しようと、同世代の熱い子たちに呼びかけています。
――濱田さんは「地方」についてどう見ていますか。
【濱田】ハラスメント研修などで地方議会によく行きますが、都内で見える景色と地方の景色は、同じ国かと思うほど違います。都会では女性が3割を占める議会も普通にありますが、地方では、例外はありますが、女性が圧倒的に少ない。ジェンダー意識に根付く圧力、服装や髪形、振る舞いに“女性らしさ”を求める向きも強い。いわゆる昭和の空気感が残っています。
一方で、地方に可能性を感じる部分もあります。たとえば、若い世代が議員にどんどん立候補している地域もある。地方で企業再生を手掛けている人から、地方の会社でも女性、若者、よそ者をどう取り込むかが大事だと言われたことがありますが、政治も同じ。昔からの慣習や地元のルールで作られた強固な世界を透明化するために、いかに外の目を入れるかがカギを握る。若者の立候補はその点で意義があります。
外の目の必要性は、ハラスメントについても当てはまります。最近、地方議会のハラスメントがメディアで取り上げられるケースが増えました。ハラスメントをすることは政治生命を脅かす行為だという認識に変わってきたように思います。その流れで、研修に呼ばれることも非常に増えました。ハラスメント体質を変えようという意識の芽生えを感じます。
地方復興に必要な視野とは
――御厨さん、松原さん、どうですか。
【御厨】2011年の東日本大震災後、復興に関わりました。地域の復興プランを見ると、必ず成長モデルで人口増を前提としていた。復興住宅を建てれば、スーパーも来るし、小学校も必要になるという、あり得ないモデルです。政治家が縮小モデルを掲げたくなかったのです。成長するとは思っていないけれど、成長モデルを言わないと、選挙に落ちると言っていました。
今は、そういうモデルを出そうという動きはなくなりました。身の丈にあった、あるいは身の丈より縮めなくてはいけないという風に変わっている感じがします。能登半島地震などを見ていると、地方の復興についてウソを言わなくてもいいようになりつつあると思います。
【松原】私も3・11後の復興にかかわりましたが、高台移転しても街の住民構成は以前とは一変してしまうと現地で意見を申し上げたら、「まとめ上げる苦労が分かっていない」と叱られました。その方はかなり年配で、復興が完成するころには引退されているかもしれない。若い家族は教育のために転出していました。長期の視野が必要な復興のようなケースでは、若い人が関わって街づくりをしないとダメだと思います。
【濱田】内閣府のリポートに、地方では若い女性が都市部に流出し、未婚の男性が未婚女性を大きく上回っているというデータがありました。それが少子化の要因にもつながるとの指摘も。就職先、進学先がないというだけでなく、性別による無意識の押しつけを避けるために、多様な価値観が受け入れられる都市部に行くようです。若い人や女性を受け入れる、多様性のある環境をつくらなければならないと思います。
【西平】生まれた島をどうにかしたいという気持ちは、東京に行く前も漠然とはありましたが、Uターンして会社を経営するようになり、政治に関心を持つようになりました。10代、20代の頃にもっと興味をもっておけばよかったと思います。今の若い世代の人がそうなるよう、自分ができることはやろうと考えています。
――まとめをお願いします。
【松原】社会の問題を解決するためにあるはずの政治が、社会からかけ離れている、別の宇宙をつくっている感じがしました。社会に存在する問題意識にコミットできる議会になるためにも、普通に暮らしている人が、もっと議員になるべきだと思います。
【御厨】政治が昭和のままという印象です。我々の住んでいる場所から離れた場所で、政治が行われていると見られているのは問題。次世代の社会をどうつくるか真剣に考える若い人や女性を義務的にでも議会に入れていく取り組みが必要だと思います。
《略歴》
濱田真里 2021年に女性議員・候補者サポート団体「Stand by Women」を設立。22年に「こそだて選挙ハック!プロジェクト」。23年に日本初の議員向け相談窓口「女性議員のハラスメント相談センター」を設立。専門は政治分野のハラスメント。
西平せれな 1987年生まれ、奄美大島出身。昭和音楽大学卒業後、関東を中心にミュージシャンとして活動。14年より家業の焼酎製造・西平酒造に入り、17年に杜氏(とじ)に就任。21年より同酒造4代目代表に就任。
御厨貴 1951年生まれ。東京大学法学部卒。専門は政治史学。東京都立大学教授などを歴任。『権力の館を歩く―建築空間の政治学』『日本政治史講義―通史と対話』(共著)など著書多数。
松原隆一郎 1956年生まれ。東京大学工学部卒。専門は経済政策。放送大学教授などを歴任。著書に『経済政策―不確実性に取り組む』『ケインズとハイエク―貨幣と市場への問い』など。
「国会通信簿」とは
「国会通信簿」は今春休刊した「週刊朝日」で2022年7月まで長年続いた名物企画。国会閉会後に御厨貴さん、松原隆一郎さんが国会を振り返り、首相官邸や政党を採点した。
動画は6月30日まで視聴可
「国会通信簿リターンZ」の第2回「政治をどこから変えるのか?」は6月30日まで視聴できます。朝デジ有料会員の方は無料でお申し込みいただけます。詳細はURL(https://ciy.digital.asahi.com/ciy/11013437)をご覧ください。
YouTubeでも配信の短縮版を公開しています。URLはhttps://youtu.be/s6YOnXEGBE4です。ぜひご覧ください。
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